ボーナスで今年の「NISA成長投資枠」を埋める?でも「AIバブル」なんじゃないの?
今福 啓之
アモーヴァ・アセットマネジメント
結論
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焦って今年のNISA枠を埋めようとする必要はない。それよりも全体資産における「流動性資産」の確保が重要。
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「AIバブル」なのかどうかはまだ誰にも分からない。懸念が現実となっても粛々と持ち続けられるかどうかが重要。
今年も年の瀬を意識する時期となり、加えてボーナス期ということもあり、「埋めてなかったNISA(少額投資非課税制度)成長投資枠をどうしよう?」という声をネットなどで目にするようになってきました。
しかし、11月からの米国株等の足踏みを背景に、「成長投資枠は240万円丸々空いてるけど、今S&P500を買って大丈夫だろうか?」という声も増えているようです。
私のアドバイスを結論だけ先に言うと、
●無期限のNISA制度において、「毎年の枠を使い切るべき」と考える必要はない。
●AIバブルかどうかなど、足元の株式市場の調子次第で判断するのは止めておいた方がいい。
●手元資金を成長投資枠に入れるかどうかは、全体資産の中で「流動性のあるお金が十分確保できているかどうか」で考えるべき
です。
AIバブルじゃないの?
実際、2025年11月になった頃から、S&P500に代表される米国株等は少し不安定な動きを見せています。10月に威勢よく史上最高値を更新してきたのに、11月に入った途端にどうもスッキリしません。
プロたちの「解説」を観察すると以下2点に集約されます。
(1) やはり今は「AIバブル」なのではないか?
(2) 米金融当局は政策金利の「利下げ」を急がないのではないか?
1つめの「AIバブル」への懸念は何も11月になって出てきた話ではありません。おそらく2023年にChatGPTが普及し始めた頃から「生成AIで世の中がとんでもなく変わる(らしい)」に頼って走って来た米国株市場は、常に「今の米巨大IT企業の投資合戦はバブル的では?」という疑心暗鬼と共に推移してきたといえます。
もう忘れた方も多いかもしれませんが、だからこそ1月に中国のDeepSeek(ディープシーク)という会社がとんでもなく安価な生成AIのモデルを発表した時、皆が大騒ぎしたのです。「こんなに安く生成AIモデルが成立するなら、米巨大IT企業の投資は無駄金になるのでは?」と。
その中国企業の話は直後の「トランプ関税ショック」にかき消されてしまい、すぐに持ち直した米国株市場は再び「生成AI相場」で盛り上がっていきました。
信頼できると判断したデータをもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
S&P500の2025年初来の値動き
ただ、エヌビディアという生成AI投資の中心とされている企業の四半期毎の決算数値に、世界中の投資家が振り回されているような状況は、株式での資産運用真っ最中の個人投資家としての私としても違和感を覚え、心が落ち着かない感じが続いてきたのは確かです。
常に時価総額(株価×発行済み株式数)の大きさ順に配分した計算をするS&P500は今や、以下のように「大型AI銘柄インデックス」の様相を呈しており(同じ計算方法のオール・カントリー指数も、比率が少しずつ低くなるものの同様)、確かに「AIバブル」かどうかが多くの人の関心事であるのは間違いありません。
上記はあくまで指数の概要を把握することを目的に、S&P500指数を連動対象としたあるインデックスファンドの情報を参考までに掲載したものです。上記銘柄について、売買を推奨するものでも、将来の価格の上昇または下落を示唆するものでもありません。また、当社ファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。上記は過去のものであり、将来の運用成果を約束するものではありません。比率はマザーファンドの対純資産です。
S&P500インデックスファンドの上位10銘柄
それでも市場に居続けるしかない
しかし、だからといって、株式投信で資産形成をする私たちは、「AIバブルかもしれない、暴落があるかもしれない」と予測して全部を売って撤退し、下がりきったところで買うという「ギャンブル」をすべきではないでしょう。
「ギャンブル」なんて言葉は不適切かもしれませんが、株式市場でAI銘柄が暴落する直前に全売却し、また上がり始める直前に買い戻すという、2回の奇跡的なタイミングを当てなければならないとしたら、それは多分にギャンブル的です。
実際のところ、今がAIバブルで、関連銘柄の株価がいずれ暴落するのかどうかは、私も含め誰も分かっていません。
今、巨大IT企業がすごい勢いでデータセンターを作ったり、ベンチャー企業を買収したりしていても、AIがどのように社会を変え、どれほどの収益を生むかの具体的な姿は、誰にもまだハッキリと見えていないのです。
そういう意味では、どこかでAIのマネタイズ(企業としての収益化)面の厳しさが白日のもとに晒されるような出来事が起こり、関連銘柄の株価が大きく下落する可能性はゼロではありません。少なくともS&P500の上位にいる企業たちの全員が全員、「勝者」になることはないでしょう。
その際には、S&P500もオール・カントリー指数もそれ以外も、ほとんどの株式投信は皆、手痛い下落を見ることになるはずです。しかし多くの人にとって、それにも粛々と付き合うしかないのが、株式投信による資産形成・資産運用です。
全体資産における「流動性資産」こそが、投資継続の必要要件
さて、本題に戻ります。例えばボーナスがたっぷり出たとして、丸々空いている成長投資枠を埋めにかかるべきか否か、でした。
私のアドバイスは、今が投資タイミングとしてどうかなどと、いくら考えても正解のないことで判断するのではなく、仮に「AIバブル懸念」が本当のものとなって下落・低迷期が続いたとしても粛々と付き合い、放置できるようなお金かどうかを考えた上で、もしそうなら年内に枠を埋めても良いし、そうでないなら堂々とスルー(無視)すべし、です。
キーワードは「流動性資産」。預貯金のことです。昔から「生活防衛資金」を確保してから投資を始めよ、とは言われますが、私は「防衛」はもちろんのこととして、もっとユルい、「目的のない余裕資金」もある程度は持っておきたいという意味合いで言っています。
最近は若い方を中心に、老後やFIRE(早期退職)を見据えて積極的に投資するムーブメントがありますが、老後を心配して極限までお金を投資に向けるがあまり、日々の生活があまりに潤いのないものになったり、友人の結婚式のような突然の入用(いりよう)の時に慌てるようになっては本末転倒だという意味合いも含んでいます。
もちろん株式投信は極力解約せず、とことん長く持つのがセオリーですが、私は自分にとって人生の優先順位の高い入用があるなら、必要な分だけを部分解約すれば良いと思っています。しかし人間、含み損の時には悔しくて解約できないもの。だからこそ、預貯金に代表される「流動性資産」を持っておきたいのです。
実際、一度下落すると、元に戻るまでにそれなりに時間がかかることは少なくありません。「戻るのを待ってからにしよう」というわけにはいかないのです。
信頼できると判断したデータをもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成。データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
S&P500の過去約40年の値動き
新型コロナ・ショックやトランプ関税ショックのように、比較的短期で戻ることもありましたが、今回のAIバブル懸念の引き合いに出されることの多い2000年のIT(ネット)バブルの際は、S&P500のような指数でさえ約半分くらいにまで下落し、元に戻るには約7年を要しています。
それでも売らずに持ち続け、また積立を継続した人が今、大きな果実を手にしているのはご存知の通り。今年の枠をどうするなど、小さなことに思えてきます。
既に始めている投資の「耐性」を強化する意味でも、今回のボーナスは投資に充てず、余っている成長投資枠をスルーして預貯金にキープするという判断だって、全体戦略としては賢い選択肢かもしれません。
そもそも2024年からのいわゆる新NISAは無期限で、生涯投資枠1,800万円を埋めるのにも期限はありません。今年埋めなかったとしても、その分がなくなるわけではないのです。
少し気を楽に、ゆっくり行きましょう。
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今福 啓之
アモーヴァ・アセットマネジメント