クリプトコラム

動かないことが、仕事。ステーブルコインという暗号資産

公開日2026年07月06日

価格変動の激しさで有名な暗号資産の世界に、「価格ができるだけ動かないこと」を仕事にする暗号資産があります。なぜそんなものが必要なのでしょうか。

なぜ「価格が動かない」ものが必要なのか

暗号資産の世界では、米ドルの価値を保ったまま資金を動かしたい場面が多くあります。

たとえば、ある暗号資産取引所からほかの取引所へ資金を移したいとき。同じ取引所の中なら米ドル建ての残高ですぐ動かせますが、別の取引所や銀行口座に移すとなると、いったん現金の米ドルに戻して送り、また暗号資産に買い直すことになります。

手間も時間もかかり、その間に相場が動くこともあります。こうした場面で、米ドルの価値を保ったまま動かせるステーブルコインが使われています。

国際送金でも使われています。銀行経由の海外送金は、着金まで数日かかることがあり、手数料も高くなりがちです。ステーブルコインであれば、ネットワークの状況や種類によって異なりますが、銀行送金より速く、手数料が低くなるケースがあります。受け取った側も米ドル建ての価値を保ちやすい面があります。

米ドルの価値に近づけたまま、暗号資産のネットワーク上で動かせるステーブルコインがあれば便利です。暗号資産取引所の間での資金移動、ブロックチェーン上の金融サービス(DeFi)での担保など、地味な使われ方ですが、暗号資産の世界のインフラとして機能している側面があります。

どうやって「価格の安定」を保つのか

ステーブルコインの価格を安定させる仕組みには、主に3種類の型があります。一番わかりやすいのが「米ドルなど同じ通貨による担保の裏付けがあるタイプ」(法定通貨担保型)です。1米ドル分のステーブルコインを発行するたびに、実際に1米ドル分の現金や国債などを準備しておきます。使う人が「やっぱり本物の米ドルに換えたい」と言ってきたとき、ステーブルコインと通貨の交換に対応できるようにする仕組みです。

代表的なのがUSDT(テザー)とUSDC(ユーエスディーシー)です。2026年5月時点では、USDTの時価総額はおよそ1,900億米ドル、USDCはおよそ770億米ドル。ステーブルコイン市場全体(法定通貨担保型だけでなく、ほかの型も含みます)では3,200億米ドルを超えています。

2つ目は、米ドルの代わりに「ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を担保にして発行するタイプ」(暗号資産担保型)です。担保となる暗号資産が急落しても値崩れしないよう、多めに担保を積んでおくのが特徴です。

3つ目は、担保をほとんど持たず、「アルゴリズム(プログラム)だけで価格を維持しようとするタイプ」(アルゴリズム型)もあります。ただしこのタイプは過去に価格の安定ができなくなる事象が発生しました。

2022年に起きたこと

アルゴリズム型ステーブルコインの代表として知られていたのが、UST(テラUSD)です。裏付けの担保資産を持たず、同じブロックチェーン上のLUNA(ルナ)という別のトークンとの交換によって、1米ドルの水準を保とうとしていました。

2022年5月7日、USTの価格が1米ドルをわずかに下回り始めました。不安になった保有者が一斉に換金しようとし、USTからLUNAへの交換が急増しました。その結果、LUNAの価格が下がり、それがさらにUSTへの不信を呼ぶ、という悪循環が始まります。一週間後、USTはほぼ無価値になっていました。USTとLUNAの時価総額合計で、約400〜500億米ドル規模が消えました。

「アルゴリズムだけで価格を維持しよう」という発想は興味深いものでしたが、信頼が崩れたとき、裏付けがないと止められませんでした。

「価格が安定している」は、いつでも保証されているわけではありません

法定通貨担保型や暗号資産担保型の担保の裏付けがある型でも、すべてが安心とは言えません。発行体が本当に担保や準備金を持っているかどうかは、外から確認しにくい部分があります。また各国の規制の動きによって利用や発行の制限を受けることもあります。「米ドル建てで動かせる」という利便性の裏に、誰かの信用や法制度への依存があります。その点は、管理者のいないビットコインのような暗号資産とは、少し性質が異なります。

暗号資産なのに、できるだけ動かないように作る。その発想自体はおもしろいものです。ただ「安定」という言葉は、額面どおりに受け取りすぎない方がよさそうです。