クリプトコラム

口座に置いただけで、1年でお金が3分の1になる国がある

公開日2026年07月06日

アルゼンチンでは、口座にお金を置くだけで1年後に価値が3分の1になった年があります。スマホひとつで米ドルに連動する資産を持とうとする仕組みは、なぜ生まれたのでしょうか。

既存のデジタルマネーが届かない場所

「銀行口座の残高も、もうデジタルじゃない?」というのは当然の疑問です。確かにそうです。ただ、既存のデジタルマネーには、不得意な部分がいくつかあります。

たとえば国際送金。銀行を通じて海外にお金を送ると、通常1〜5営業日かかります。途中に「コルレス銀行」と呼ばれる仲介の銀行が入ることもあり、手数料が複数回引かれることもあります。銀行残高はデジタルでも、それが動く「線路」は何十年も前に設計されたままです。

たとえば決済手数料。クレジットカードで支払いをするとき、お店側は売上の数%程度を決済手数料として取られています。スマホ決済も、似た構造で手数料が発生することがほとんどです。

たとえば営業時間。銀行振込が翌営業日扱いになることは、今でもあります。金曜の夜や祝日に急ぎの送金が必要になっても、動かせない仕組みが残っています。

ステーブルコインが埋める部分

ステーブルコインは、こうした「既存のデジタルマネーが苦手な部分」をカバーしようとしています。何らかの資産に価格を連動させることを目指した暗号資産で、主要なものは米ドルなどの法定通貨に連動するよう設計されています。1枚=1米ドルに近い価格を保つことを目指して作られていて、一般的な暗号資産のような激しい値動きを抑えようとしているのが特徴です。「激しい値動きはいらない。でも、ブロックチェーン上を動けるという特性はほしい。」その発想がステーブルコインの出発点です。

よく知られているのはUSDT(テザー)とUSDC(ユーエスディーシー)の2つ。2026年5月時点でこの2種類だけで市場全体の8割以上を占めており、市場規模は3,200億米ドルを超えています。

ブロックチェーンのネットワークは24時間365日動いています。祝日も、銀行の営業時間も関係ありません。

もうひとつ大きいのは、距離や国境が関係ないことです。ステーブルコインの送金は、銀行のような金融機関をはさまず、ネットワークの上を直接動きます。隣の人に送っても、地球の裏側の人に送っても、扱いは同じ。手数料はネットワークの混み具合で決まり、送り先までの距離や相手の国では変わりません。仲介がいくつも入って手数料が積み上がる銀行の国際送金と違って、構造がシンプルで、安くなることが多いです(ただし、ネットワークが極端に混み合うときは手数料が上がることもあります)。

世界にはまだ約13億人の成人が銀行口座を持っていません(出所:世界銀行 Global Findex 2025)。自国通貨が不安定な国や、銀行の審査を通れない人にとって、スマートフォンさえあれば「米ドル建ての資産を持てる」仕組みは、決して遠い話ではありません。ただし、ウォレットの管理は自己責任で、秘密鍵を失えば資産も失われます。

ただ、話はここで終わらない

ステーブルコインが「1米ドルに連動している」という前提は、発行した組織がちゃんと米ドルを持っているという信頼の上に成り立っています。その管理が怪しければ、「ステーブル」という名前がついていても価格が崩れるリスクがあります。

2022年、USTというステーブルコインが短期間で事実上の無価値になりました。仕組みや発行体によってリスクの中身はまったく違います。「名前が安定そう」という理由だけで選ぶと、痛い目を見ることがある。規制の整備も国ごとにまちまちで、「誰でも気軽に使えるインフラ」と呼べる状態には、まだなっていません。

「銀行口座があるのに」という最初の疑問に戻ります。一つの回答は「銀行のデジタルでは届かない場所がある」ということです。国境の外、審査の外、営業時間の外、そして自国通貨が信頼できない場所。ステーブルコインは、そこをカバーしようとしているものです。今すぐ使う使わないは別として、「なぜ注目されているのか」の輪郭は、こういうところにあります。