クリプトコラム

帽子をかぶった柴犬を、ラスベガスの球体ビルに映そうとした人たち

公開日2026年07月10日

ラスベガスにそびえる巨大な球体建築「Sphere」。その壁いっぱいに、帽子をかぶった一匹の柴犬の絵を映そうとした人たちがいます。動いたのは大企業や広告代理店ではなく、その犬を面白がるコミュニティ主導の人たちでした。「dogwifhat」という暗号資産をめぐって本当に起きた、少し信じがたい話です。

帽子をかぶった柴犬の話

その柴犬の画像から生まれたミームとコインの名前が、dogwifhat(ドッグウィズハット)です。直訳すると「帽子をかぶった犬」。元になったのは、ピンクのニット帽をちょこんとのせた柴犬の画像でした。

2023年11月、その画像をモチーフにしたコインが、ソラナ(Solana)という暗号資産の上で登場します。公式サイトが「literally just a dog wif a hat」とうたうくらいシンプルで、複雑なホワイトペーパーやロードマップを前面に出していません。あるのは、あの一枚の絵と、それを面白がる人たちです。

こういうコインを、ミームコインと呼びます。インターネットのミームや流行をもとにした暗号資産で、機能や使い道が限られるものも少なくありません。

中身が薄いなら、ただの悪ふざけではないか。そう思うかもしれません。でも、ここからが面白いところで、集まった人たちは本気でした。世界でもっとも目立つ場所のひとつに、あの柴犬を掲げようとしたのです。

約70万米ドルが、柴犬のために集まった

2024年、dogwifhatを応援する人たちは、ある計画のために資金を募りました。Sphereにあの柴犬を映す、という計画です。

集まった額は、約70万米ドル。コミュニティ主導のキャンペーンとして始まり、見知らぬ人どうしが本物のお金を出し合いました。

ところが、話はそのとおりには進みません。2025年1月には、Sphereの広報担当者が米メディアに対し、dogwifhatとの契約はないと説明しました。最終的に掲出は実現せず、計画は中止となり、集まった資金は出資者への返金が進められました。

つまり、柴犬はあの球体ビルには映らなかった。それでもこの出来事は、不思議な手ざわりを残します。実現しなかったのに、語り草になりました。

なぜ、こんなことが起きるのか

なぜソラナの上では、こういう動きが起きやすかったのでしょう。ひとつの理由として、ソラナでは通常の取引手数料が比較的低く、個人でも試しやすい環境があったことが挙げられます。

ソラナは、通常の基本手数料を小さく抑える設計のブロックチェーンで、公式ドキュメントでは手数料は一般に「fractions of a cent(1セント未満のごく一部)」と説明されています。もっとも、優先手数料を上乗せする場合や、新しいアカウント作成が必要な場合など、実際の負担は用途によって変わります。

実際、Pump.funのように、誰でもコインを作ってすぐに売買を始められるサービスも広まりました。柴犬でも、カエルでも、その日の思いつきでも。そうした手軽さが、ソラナのミームコイン文化を押し上げた面があります。

光と、影

とはいえ、いい話ばかりではありません。

Pump.funで作られたトークンについては、CoinGeckoの2026年調査で、取引が一度でも発生した銘柄に限ると68.67%が作成当日にPump.fun上で最後の取引を記録しました。目立つ一匹の裏で、ほとんど注目されないまま止まっていくトークンが大量にある、ということです。注目が短命に終わることも少なくありません。

そして、参入障壁が低いということは、短期的な値上がりだけを狙ったトークンや、利用者保護の乏しい案件が紛れ込むリスクもあるということです。安さと手軽さが生んだ土壌は、文化の豊かさと危うさを一緒に育てました。

コインというより、合言葉

それでも、この計画を投機の産物として片づけてしまうと、大事なものを見落とします。

もちろん、値上がりを狙って買った人も多かったはずです。それでも、この熱量の一部はたしかに、損得だけでは説明しきれない場所にありました。見知らぬ人どうしが、ネット上の一枚の絵を旗印に集まり、世界一目立つビルのひとつに自分たちの旗を立てようとした。結局それは流れたけれど、動いたお金も、熱も、本物でした。帽子をかぶった柴犬は、その合言葉のシンボルだったわけです。

ソラナの低コストで試しやすい環境は、こういう動きが起きるための舞台でもありました。誰もが気軽にトークンを立ち上げ、集まれる場所。次に帽子をかぶった柴犬を見かけたら、その後ろにいた人たちのことも、少し思い浮かべてみてください。