クリプトコラム

私たちが使うお金には「営業時間」がある話

公開日2026年07月13日

割り勘の送金は数秒で終わるのに、株を売ったお金は「数日お待ちください」と言われます。しかも、その数日は時計ではなく「営業日」で数える。金曜に売っても、現金として使えるのは翌週です。同じスマホの中にあるお金なのに、片方はすぐ動いて、もう片方は寝ている。この差は、どこから来るのでしょうか。

お金に「寝る時間」がある理由

わかりやすいのが、投資のお金です。株や投資信託を売っても、その代金をすぐ現金として引き出せるわけではありません。売買が成立した日から数えて、数営業日あとの「受渡日」にならないと、自由に使えるお金にならないからです。しかも日数は営業日で数えるので、あいだに土日や祝日が入ると、そのぶん後ろにずれます。

背景には、私たちがアプリの残高や約定の画面で見ている数字と、金融機関どうしが最後にお金を清算する処理とが、別々の時間で動いていることがあります。この清算は「日銀ネット」と呼ばれる仕組みなどを通じて、平日の日中を中心に回っています。

株の売買でいえば、「売れました」の表示はすぐ出ても、その裏でお金の清算が終わるまでには、まだ営業時間の壁がある。だから受渡日まで数日かかるわけです。ちなみにこの時間差は、単なる遅れというより、取引をまとめて計算してリスクを抑えるための仕組みでもあります。

もちろん、日常の振込はずいぶん速くなりました。銀行振込をつなぐ「全銀システム」は2018年から夜間や休日にも対応し、対応する銀行どうしなら深夜でも土日でも、その場で相手に届きます(両方が対応していないと、いまも「翌営業日」になります)。

ここで届くお金は、表示だけでなく実際に使える入金です。それでも一歩下がって見ると、投資の受渡や、次に触れる海外への送金のように、「営業日」や「営業時間」がまだ効いている場所は、案外あちこちに残っています。

ブロックチェーンには、その「寝る時間」がない

2009年に動き出してから、ビットコインはほぼ止まらずに動き続けています。「本日の営業は終了しました」と言われることは、基本的にありません。元日でも、台風の夜でも、粛々と動いています。

同じブロックチェーンの仕組みの上で作られたステーブルコインも、土曜の深夜に送れます。価格が大きく動きにくいようつくられた暗号資産で、日本で働きながら母国の家族へ仕送りする人が、銀行の国際送金の代わりに使う、というケースが実際にあります。

銀行の国際送金は手数料が高めで、着金まで数日かかることが多い。ただ、この時間の一部は、マネーロンダリング対策や本人確認、送り先のチェックといった手続きを通すためのもので、万一のときに追跡や組戻しがきく安心と裏表でもあります。

そのうえで、時間帯を問わず送れるステーブルコインなら、待ち時間や割高な手数料を抑えやすい場面がある、というわけです。

おもしろいのは、送り先が隣町でも地球の裏側でも、ブロックチェーン上の送金にかかる費用が距離では変わらない点です(ネットワークが混み合うと上がることはあります)。送る時間だけでなく、送る距離も問わない。そういう仕組みです。

ただ、誰でもどこへでも無条件に、というわけではありません。ステーブルコインの多くには発行体がいて、国の規制や発行体の判断によっては、使える範囲が制限されたり、特定のアドレスが凍結されたりすることもあります。「24時間動く」と「何でも自由」は、イコールではありません。

ブロックチェーンの上では「条件が満たされたら自動で動くプログラム」も走っています。担保の価値が下がったら深夜でも自動で清算、みたいな処理が、人の承認を待たずに実行される。夜中の3時に「自動清算が実行されました」と通知が来る世界です。人間が寝ていても、プログラムは起きている。便利でもあり、少し怖くもあります。

24時間が全部いいとは限らない

株式市場には「閉まる時間」があります。夜中に悪いニュースが出ても、朝まで市場は動けません。投資する人にとっては悔しい場面かもしれませんが、これには、感情的な判断を冷やす「強制的なインターバル」として働いている、という見方もあります。

価格変動の大きい暗号資産には、その余裕がなく、夜中に急落することもあります。さっきの自動プログラムも、寝ている間に動いていることがある。「いつでも何かが起きうる」というのは、精神衛生的にはそこそこしんどいものです。

コンビニが24時間になったのも、ATMが土日に使えるようになったのも、最初は「そんなの必要?」という感じだったはずです。いまは当たり前です。お金が動く仕組みも、少しずつ変わっています。ブロックチェーンがその変化のひとつになるのかどうかは、まだわかりません。

次に、株を売った代金の「受渡日」を待つときや、海外送金に数日かかると聞いたとき、ふと思い出すかもしれません。これだけデジタルになっても、お金はまだ、時計ではなく営業日で動いている——。