クリプトコラム

分散されているはずが、中身は「サムのもの」だった

公開日2026年07月30日

暗号資産は、特定の持ち主がいない。そう説明されることがよくあります。ソラナも、そんな「みんなのもの」の一つのはずでした。ところが2022年、たった一人の人物がつまずくと、ソラナの値段は数十米ドルから、一気に数分の一まで落ちます。持ち主がいないはずのものが、なぜ一人の男に道連れにされたのか。

その男の名で、「サムのコイン」と呼ばれた

少し時間を戻します。2022年ごろ、暗号資産の世界でいちばん勢いのあった人物のひとりが、サム・バンクマン=フリードでした。FTXという巨大な取引所を率い、メディアにも政治の場にも顔を出す、業界の顔のような存在です。

バンクマン=フリードは、SOLがまだ広く知られる前の初期段階から、アラメダ・リサーチ(バンクマン=フリードが設立した暗号資産のトレーディング会社で、FTXの姉妹会社にあたります)を通じて大規模に関与していました。公の場でもソラナを繰り返し推奨し、その保有はアラメダの資産の中でも特に大きなものでした。FTXとアラメダが抱えたSOLは、2023年12月の時点でおよそ5,580万枚、時価にして約42億米ドルに達していました。こうしてソラナは、彼の名をとって「サムのコイン」と呼ばれることもありました。

「みんなのもの」の看板と、実際の偏り

ここで、最初の建前に戻ります。暗号資産は特定の持ち主がいない、とよく言われます。ソラナもそう見られていました。けれど実際には、経済的な影響力や資金面での支えは、一部の大口投資家や関連企業に大きく依存していました。

ソラナには、はっきりした創業者がいて、それを支える財団もあります。最初のコインの多くは、一部の投資会社や大口の手に渡っていました。ネットワークを動かすバリデーター(記録係)も、それなりの機材とお金が要るぶん、顔ぶれは限られます。個人でも比較的参加しやすいビットコインのノード運営(ネットワークにつながって、取引の記録を保存・検証するコンピューターを動かすこと)と比べると、ソラナのバリデーターにはより高い性能の機材が求められました。とはいえこれは、欠陥というより、速さと使いやすさを優先した割り切りでもありました。そのぶん、一部の後ろ盾に大きく寄りかかっていた、ということです。

そのため当時の市場では、ソラナはFTXやアラメダと強く結び付いた存在として見られるようになっていました。大口の後ろ盾というイメージが、ひとりの人物にぴたりと重なっていたのです。

数日で、後ろ盾が消えた

2022年11月、そのFTXがあっけなく崩れました。顧客から預かった資産の流用を含む不正行為が明らかとなり、わずか数日で経営破綻に追い込まれます。

問題は、アラメダが抱えていた大量のソラナでした。後ろ盾が倒れれば、その手元の山のようなコインがいつ市場に流れ出すかわからない。その不安が一気に広がります。

もともと2022年は、暗号資産全体が大きく値を下げていた年でした。そこへFTXの破綻が重なり、ソラナにはとどめのように効きます。FTX破綻前には30米ドル前後だったソラナは、破綻後の数週間で10米ドルを割り込む水準まで急落しました。ソラナの上で新しく作られるNFT(非代替性トークン)も、急速に減っていきます。後ろ盾が倒れただけでなく、「サムのコイン」という色まで、一緒に引きずったわけです。

落ちたのは価格で、ネットワークではなかった

よく知られた話ですが、ソラナには、過去にネットワークが止まったり、取引処理が大きく乱れたりした時期がありました。取引が一度に押し寄せると、さばききれずにネットワークごと動けなくなるのです。過去に何度も起きています。ところが、いちばんの大騒ぎのときには止まりませんでした。ブロックは淡々と刻まれ、送金も取引も続いていたのです。

崩れたのは価格と評判で、技術が壊れたわけではありませんでした。中身は動いているのに、まわりの信用が崩れたのです。

そして、ここに最初の問いの答えがあります。持ち主がいないと言っても、お金と評判が一人に偏っていれば、その一点が崩れた瞬間に全体が揺れる。当時のソラナが道連れになったのは、「みんなのもの」というより「サムのもの」に近かったからでした。

消えたのは、男のほうだった

それでも、ソラナは消えませんでした。

後ろ盾を失ったあとも開発は続き、ソラナのブロックチェーン上で動くサービスやコミュニティも残ります。価格はその後の上げ相場で大きく戻し、少なくとも「FTXで終わった」と見る声を打ち消すほどの回復を見せました。もっとも、これはソラナが、その後も開発や利用を続けられた、珍しい例です。暗号資産全体が上げ相場に戻った追い風もありました。一桁米ドルまで落ちた価格が、やがて過去最高値を更新するほど戻る。この上下の大きさそのものが、この世界の値動きの荒さでもあります。

当のバンクマン=フリードは、2023年に問われた七つの罪すべてで有罪となり、2024年に禁錮25年の判決を受けて退場しました。一方で、破綻したFTXの手元に残った大量のソラナがいつ売られるのか、という不安は、その後もしばらく市場につきまといます。後ろ盾の影は、本人が消えたあとも、すぐには晴れませんでした。

看板と、中身は分けて見る

「誰のものでもない」とうたう暗号資産でも、中身をのぞくと、一部の後ろ盾や大口に大きく偏っていることがあります。当時のソラナは、その偏りが一人の人物に集まっていた、極端な一例でした。

「誰のものでもない」はずのコインが、いつのまにか「あの人のコイン」と呼ばれる。その呼び名が広まったとき、市場は無意識のうちに『その人が倒れたらどうなるか』というリスクも織り込み始めているのかもしれません。ソラナは後ろ盾を失っても立て直しましたが、同じ呼ばれ方をして、そのまま消えたコインは数えきれません。