取り出せないのに、相続税はかかる
12〜24個の英単語。それさえ覚えていれば、ビットコインはいつでも取り戻せます。でも忘れてしまえば、家族でも、まず誰も動かせません。ところが、その取り出せないお金にも、相続税はかかるかもしれません。
誰からも見えるのに、誰も動かせない
銀行預金なら、本人が亡くなっても財産は銀行に残っていて、手続きをすれば遺族が受け取れます。ところがビットコインを取引所に置かず、自分のウォレット(スマホのアプリや専用の機器)で管理していた場合、頼れる窓口がそもそもありません。
鍵を握るのが「シードフレーズ」です。12〜24個の英単語の並びで、これさえあればウォレットを丸ごと復元できます。逆に言えば、これが分からなければ、家族でも専門家でも、まず取り戻せません。
本人しか知らない英単語の並びが、本人と一緒に消える。するとそのビットコインは、ブロックチェーン上に「ある」と誰からも見えるのに、事実上、誰も動かせなくなります。相続に限らず、鍵をなくすなどしてこうなったとみられるビットコインは世界中にあり、数百万BTC規模とする推計もあります。
それでも「受け継いだ」ことになる
2018年3月、国会でこんな質問が出ました。「パスワードが分からず、取り出せない暗号資産にも相続税はかかるのか」。国税庁の答えは、課税の対象になる、というものでした。
整理はこうです。亡くなった人がパスワードや秘密鍵を残していなくても、相続人はその暗号資産を受け継いだことになる。だから相続税がかかる。「知らない」という主張をそのまま認めてしまうと、課税の公平が保てないからです。
では、鍵を失ってほんとうに取り出せなくなったら、価値をゼロと見てもらえないのか。そういう議論もあります。ただ「誰も鍵を知らない」と証明するのは難しく、いまも答えははっきりしていません。揺れているのは、課税されるかどうかではなく、鍵を失ったぶんを評価額でどこまで下げられるか、という一点です。公平のための線引きと、それは酷ではという声が、まだせめぎ合っています。
取引所に置いてあるなら、意外とふつう
ちなみに、国内の主要な取引所(bitFlyerやCoincheckなど)の口座で持っているだけなら、話はずっと穏やかです。多くの取引所は相続の手続きを設けていて、遺族が連絡して書類を出せば進められます。流れは銀行や証券会社の相続とほとんど同じです。
弱点もあります。通帳もカードもないので、家族が口座の存在そのものに気づけないこと。それに、取引所が破綻したり出金を止めたりすれば、手続きが整っていても資産が戻らないことがあります。過去には国内外でそうした例も起きました。「どこの取引所に何を持っているか」をメモに残しておくだけで、家族の負担は大きく変わります。
鍵を、誰にどう託すか
自分で管理している人の宿題は、「自分だけが知っている情報」をどう残すかです。信頼できる家族に伝えておくか、金庫などに控えを残しておくあたりが現実的な線になります。ただ、どこかに丸ごと書けば、それを見た誰かに奪われる余地も生まれます。
うまく守れば第三者に勝手には動かされないことと、鍵を失えば家族でも開けられないこと。ビットコインでは、この強さと怖さが、同じ鍵の表と裏になっています。
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