クリプトコラム

スマホを買ったら、おまけのほうが高かった

公開日2026年08月24日

ソラナの開発を手がけるSolana Labsの子会社、Solana Mobileは、暗号資産向けの機能を強化したスマートフォン「Saga」を発売しました。強化された機能を持つため、ふつうのスマホではありません。ところが、売れ行きは芳しくありませんでした。販売開始後に値下げしても、です。

そんなスマホが、あることをきっかけに飛ぶように売れはじめます。お目当ては、スマホ本体ではなく、買うとついてくる「おまけの無料コイン」のほうでした。そのおまけの値打ちが、いっとき本体の値段を上回ったとも伝えられています。

売れなかったスマホ

ソラナ(Solana)は、手数料の安さと処理の速さで知られる暗号資産です。その専用スマホの名前は「Saga」。(後継機も出ていますが、話の主役はこの一台です。)

ところが、Sagaは出だしでつまずきます。価格は、もとは当初約1,000米ドル。売れ行きが振るわず、のちに数百米ドル台へ値下げされます。特別に安いわけでもなく、暗号資産に詳しい一部の人は飛びついても、「わざわざ専用スマホを買う理由」はなかなか伝わりませんでした。

ふつうなら、ここで話は終わりです。売れなかったガジェット、というよくある話です。

柴犬のコインが、値段をひっくり返した

風向きを変えたのは、エアドロップでした。

エアドロップとは、特定の条件を満たした人へ、コインを無料で配ることです。新しいサービスが「とりあえず使ってもらう」ために配ったり、早くから使った人や関わった人へのお礼として配ったり。クーポンに近い発想で、暗号資産の世界では人を集める定番の手として使われています。

このスマホの所有者にも、いくつかのコインが配られました。なかでも話題になったのが、ソラナを代表するミームコインのひとつ、BONK(ボンク)です。柴犬をモチーフに、コミュニティの熱量で人気が拡大したコインでした。

そのBONKの値打ちが上がっていきます。やがて、所有者に配られた無料コインを合わせた価値が、端末の値段そのものを上回る、という逆転が起きたと伝えられています。

こうなると、人の動きが変わります。スマホが欲しいから買うのではなく、ついてくる無料コインが目当てで買う。端末がおまけ。順番がひっくり返ったまま、端末在庫は着実に減っていきました。ただ、その値打ちは、そう長くは続きませんでした。

なぜ、こんなことが成り立つのか

価値のあるコインをタダで配って、配るほうは損をしないのでしょうか。

からくりは、配っているコインの出どころにあります。エアドロップで配るのは、たいてい、そのコインを発行しているプロジェクト自身です。BONKも、端末を出したSolana Mobileではなく、ソラナの開発者たちが集まった別のチームが、自前でつくったコインを配っていました。自分でつくり出したコインなので、配っても現金を手放すのとはわけがちがいます。お店が自前のクーポンやポイントを配るのに近い発想です。そのクーポンにどれだけの値打ちがつくかは、配ったあとの市場が決めます。

しかも、配った相手は、そのコインの「仲間」になってくれます。話題にし、応援し、ときに使ってくれる。チラシを配るより安く、ファンが増える。ソラナは比較的低い手数料で知られており、数万人規模への配布でも費用を抑えやすいとされています。配るほうにとっては、コストを抑えてファンを増やせる手になります。うまくいけば、の話ですが。

自分でつくったコインを、安く大量に配れる。その土壌があったからこそ、「おまけのほうが高い」という奇妙な現象が、現実に起きました。

ただ、おまけには落とし穴もある

もちろん、いい話ばかりではありません。

タダでもらったコインの値段は、大きく揺れ動きます。配られた瞬間は端末より高くても、しばらくして大きく値下がりすることもある。期待されたほどの配布にならず、拍子抜けに終わる例もあります。次も同じように気前よく配られる保証は、どこにもありません。

おまけはあくまで、おまけです。

おまけの値段が語っていたこと

手に取れるスマホが売れず、データでしかないおまけが人を動かした。普通なら主役であるはずのスマホが脇役になり、おまけが主役になった。Sagaの完売騒動は、暗号資産の世界では価値の置き場所そのものが、ときどき入れ替わることを示していました。

暗号資産の世界では、こういう「主役とおまけが入れ替わる瞬間」が、ときどき起こります。NFTより後から配られたコインのほうが注目されたり、ゲームより報酬トークンのほうに人気が集まったり。どちらが主役なのか、その順番は、思っているよりかんたんにひっくり返ります。