クリプトコラム

誰のものでもないシステムが止まった。では、誰が直す?

公開日2026年08月31日

2021年9月14日、ソラナ(Solana)というブロックチェーンが丸ごと止まりました。復旧まで約17時間。押せば直る再起動ボタンは、世界のどこにもありません。

「止まらない」と言われてきた仕組み

止まったのは、処理の速さと手数料の安さで知られるソラナ。ネットワークを動かしている会社も、一か所の本社サーバーもありません。

支えているのは、バリデーターと呼ばれる世界各地のコンピューターです。公式の運営組織があるわけではなく、参加を決めた企業や個人が、それぞれ自前の機械を動かしています。それぞれが「いま、どの取引が正しいか」を持ち寄って答え合わせをし、そろった答えを記録として刻んでいく。一台が倒れても、残りが回し続けます。だからこうした仕組みは「管理者がいないのに止まらない」と言われてきました。

1秒に30万件の注文が押し寄せた日

発端は、新しいコインの売り出しでした。少しでも早く買おうと、人間ではなくプログラム(ボット)が注文を自動で連射します。ピーク時には、一部のバリデーターのもとに1秒あたり30万件を超える取引データが届いていました。

ソラナは、あらゆる取引を1本の道でまとめてさばく設計です。だから速い。でもこの日は、その道がさばける限界をはるかに超えました。

やがてバリデーターたちの足並みが乱れ、「正しい記録はこれだ」という答えがばらばらに割れていきます。答え合わせが成立しなくなったネットワークは、そこで丸ごと動きを止めました。

直したのは、公開チャットに集まった人たち

持ち主のいないシステムは、誰がどう直すのか。ここからが本題です。

実際の復旧は、意外と地道でした。バリデーターたちが、誰でものぞける公開チャットに集まったのです。バリデーター用のソフトを開発・保守しているチームが「どの時点から動かし直すか」の手順を示し、大口のバリデーターたちが足並みをそろえていく。ネットワークの持ち分(預けられたコイン)で8割以上を担うバリデーターが戻ったところで、全体がようやく動き出しました。

ソフトを作るチームはいても、ネットワークを動かしているのはバリデーターたち一人ひとりです。示された手順に従うかどうかも、それぞれが自分で決めました。

こうした呼びかけが成り立つのは、バリデーターの顔ぶれと関係します。ソラナのバリデーターになるには、速さを出すためのデータセンター級のマシンと相応の元手が要り、その数はおよそ数百から1,000。誰でも記録を持てて、2万台を超えるノード(取引の記録をまるごと持ち、その正しさを自分で確かめるコンピューターのことです)が稼働しているビットコインとは、参加の規模も意味も違います。数が限られるぶん、いざというとき誰に声をかければいいかが見えていた。それは頼もしさであり、同時に「少数に委ねている」という弱さの裏返しでもあります。

二度目も、三度目もあった

ソラナはその後も、ソフトの不具合などが原因で何度か止まっています。2023年には約19時間、2024年には約5時間。そのたびに、ほぼ同じ手順で再起動されてきました。

もっとも、止まるたびに原因はつぶされてきました。混雑をさばく仕組みやソフトそのものの作り直しが重ねられ、停止の間隔は延びています。それでも「二度と止まらない」と言い切れないのが、この設計の正直なところです。

ちなみに、こうして止まっている間も、ソラナでは記録が消えたり残高が書き換わったりはしていません。帳簿は保たれたまま、新しい取引だけがぴたりと止まる。ソラナの停止は、そういう止まり方でした。

止められない代わりに、直す義務を負った人もいない

これはソラナに限った話ではなく、管理者を置かない設計のネットワークに共通する事情です。特定の一社が握っていなければ、誰かの都合でシステムを止められたり、特定の取引だけ弾かれたりしにくい。それが分散の良さです。ただしその裏側には、止まったときに責任をもって直さねばならない一社もいない、という事情が貼り付いています。

ただし、同じ「管理者を置かない」設計でも、何を優先するかはチェーンによって違います。ビットコインは「誰にも止められない、巻き戻せない」ことを何より大事にし、関係者が申し合わせてやり直すのは避けるべきこととされてきました。ソラナは、速さと使いやすさを取りにいって、いざとなれば人の手で立て直す道を選びました。何を守り、何を諦めるか。同じ暗号資産でも、チェーンによって哲学は違います。どちらが優れているという話ではありません。

誰のものでもないシステムも、止まれば人の手で動かし直すしかありません。そしてソラナの場合、その手の持ち主が誰かは、意外とはっきりしていました。