数円を、地球の裏側へ、一瞬で。ビットコインのライトニングネットワーク
クレジットカードは、とてもよくできた仕組みです。ただ、苦手なところもあります。たとえば、数円や数十円の、ごく小さな支払い。手数料のほうが重くなって、割に合わないのです。その隙間を、ビットコインのある技術が埋めはじめています。
ビットコインも、すぐには使えなかった
「デジタルのお金」と聞くと、さっと払えそうな気がします。でも、ビットコインは長いあいだ、その逆でした。
ビットコインの送金は、ブロックチェーンに記録されてはじめて確定します。これにかかるのが平均10分ほど。しかも、みんなが一斉に使うと詰まってしまう。処理できる量に限りがあるからです。混み合えば待ち時間はさらに延び、手数料も跳ね上がる。待っているあいだに価格も動きます。レジの前でそれだけ待つのは、さすがに現実的ではありません。コーヒー1杯には、どう考えても重すぎました。
これが長いあいだ、ビットコイン決済の壁でした。
ブロックチェーンの外で、処理を済ませる
その壁への答えとして登場したのが、ライトニングネットワークです。名前のとおり、稲妻のような速さがねらいでした。
仕組み自体はそれなりに込み入っていますが、簡単に言えば、細かいやり取りはブロックチェーンの外で済ませ、最後の結果だけを本体に書き込みます。毎回ブロックチェーンに書き込むわけではないので、支払いは一瞬で終わります。
ユニークなのは、速さだけではありません。この仕組みは、ごく小さな金額を送るのが得意です。数円分をやり取りしても、手数料はごくわずか。世界中のどこへ送っても、距離で手数料が変わることもありません。小さな金額を、世界中のどこへでも、一瞬で。これは、クレジットカードが苦手にしていたところです。逆に、大きな金額を一度にまとめて送るのは得意ではありません。あらかじめ用意した資金の枠の中でやり取りする仕組みだからです。
規模も育ってきました。米ビットコイン企業リバー(River)の推計では、2025年11月にライトニングネットワークで動いた支払いは、月に500万件を超えています。とはいえ、決済全体から見れば、まだごく一部です。大手取引所のコインベースも、対応を始めています。
米国のレジで、動きはじめている
実際に店の現場で動きが目立つのが、米国です。ブロック社(Block)は、決済サービスのスクエア(Square)で、加盟店向けのビットコイン決済を広げようとしています。本格的な広がりはこれからですが、買い手はライトニングネットワークで払い、店の側は米ドルに換えて受け取るか、ビットコインのまま持つかを選べます。
店にとっての利点は、入金の速さです。それに、Square社によれば、カード決済より手数料も抑えやすいとされます。
コーヒー1杯に、税金の計算がついてくる
とはいえ、いいことばかりではありません。まず、税金です。たとえば日本では、値上がりしたビットコインで買い物をすると、その値上がり分に税金がかかります。しかもこれは、日本に限った話ではありません。ただコーヒーを飲みたいだけなのに、買い物のたびに損益の計算がついてくる。これは、普段使いにはなかなか重い。
技術のほうにも、クセは残ります。ときどき支払いが失敗して、やり直しになることもあります。この辺りは、まだ発展の途中です。
そして、使う人がすぐに増えるわけでもありません。米カンザスシティ連銀の調査では、支払いに暗号資産を使う米国の消費者は2%前後で、近年はむしろ少し減っています。技術が仕上がることと、人の習慣が変わることは、別の速さで進むようです。
送金と、機械の支払い
まず、実感しやすいのは、国をまたいだ送金です。米国で働く人が、アフリカやフィリピンの家族へお金を送る。銀行や送金業者を通すと、時間も手間もかかり、手数料も数%取られていました。
これをライトニングネットワークで裏から組み直したのが、Strikeというサービスです。送る人は米ドルを出し、受け取る人は現地の通貨で受け取る。そのあいだで、米ドルは一瞬ビットコインに姿を変え、ライトニングネットワークという線路を駆け抜けて、相手の国で現地通貨に戻ります。表にビットコインは出てこないので、値動きを気にすることもありません。かかる時間は数秒から、長くても数分。Strike自体は送金手数料を取りません。かかるコストは交換レートに含まれる形なので、どれだけ安く送れるかは、送る国やそのときのレートによって変わります。もっとも、Strikeのような事業者を介する形なので、使えるサービスや対応する国には限りがあります。
もう少し先の話も、ひとつ。最近は、AI(人工知能)どうしがお金を払い合う実験も始まりました。あるAIが別のAIにデータや処理を頼み、そのつど、ごくわずかな額を自動で払う。小さな額を世界中へ一瞬で送れる仕組みは、こういう「機械の支払い」にもちょうど向いています。
カードやスマホ決済に取って代わる、という話ではありません。ただ、地球の裏側の家族に数秒で、機械が機械に一瞬で。カードがずっと苦手にしてきた「小さくて速い」やり取りに、いま別のお金が流れ込みはじめています。
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