クリプトコラム

とある暗号資産企業が、韓国より多くの米国債を持つわけ

公開日2026年09月24日

世界でいちばん米国債を持っているのはどの国か。その話ではありません。国別に並べると17位あたり、韓国一国より多い量の米国債を、たった1社の暗号資産の会社が抱えています。国ではなく、会社が、です。

1枚の裏に、1米ドル分の資産

暗号資産といえば、価格が激しく動くイメージがあります。ところがその中に、値段がほぼ動かないことを目指して設計された一群があります。「ステーブルコイン」と呼ばれるものです。

代表格は、テザー社(Tether)が出すUSDT。ほかにサークル社(Circle)のUSDCもあります。どちらも「1枚=1米ドル」を保つよう設計されています。

仕組みは意外と古典的です。コインを1枚発行するたび、裏側に1米ドル分の資産を積んでおく。コインは、その資産の「引換券」として働きます。商品券に価値があるのは、発行元がちゃんと商品を用意しているから。それと同じ理屈です。この裏づけを「準備資産」と呼びます。

準備資産の中身は、ほとんどが現金と、アメリカ政府の短期の借金(短期国債)です。発行元は、返ってきたコイン1枚につき1米ドルを払い戻すと定めており、その支払いに使うのが準備資産です。だから準備資産には、満期までの期間が短く、市場で売れば短い日数で現金に換えられ、価格の振れ幅も小さい資産が選ばれています。

コインが売れるほど、国債が買われる

ここで冒頭の話がつながります。コインの発行が増えれば、裏づけに積む米国債も増える。米ドルを裏づけにするタイプでは、コインが広まるほど、発行会社が米国債の大口の買い手になっていくわけです。

テザー社の2025年の開示によると、米国債への直接・間接の投資は約1,350億米ドル。国別の保有ランキングに当てはめると17位相当で、韓国を上回るといいます。新しいデジタルのコインの裏側で、昔ながらの資産が静かに積み上がっている構図です。

「ちゃんとある」を、どう確かめるか

ひとつ、やっかいな問題があります。準備資産が本当にあるのかを、利用者が一枚ずつ確かめるのは難しく、多くは発行元の開示に頼る形になります。近年は第三者の確認レポートや、裏づけの一部を外から見えるようにする試みも出てきました。

たとえばテザー社は、かつて裏づけの実態が説明と違ったとして、アメリカの当局から4,100万米ドルの制裁金を科されたことがあります。いまは会計事務所の確認レポートを四半期ごとに公表していますが、これは通常の外部監査より簡易だと見る人もいます。

2025年には、アメリカでGENIUS法という法律も成立しました。発行元に、準備資産の中身を毎月開示させることなどを定めた内容です。発行元の説明を信じるしかなかった状態から、ルールとして開示させる方向へ。制度の側が、少しずつそちらへ動いています。

同じ「ステーブル」でも、支え方はいろいろ

ただ、ステーブルコインと名乗っていても、価値の支え方はひとつではありません。

2022年、テラUSD(UST)は数日で価値がほぼゼロになりました。関連するLUNAというコインと合わせて、400〜500億米ドル規模ともいわれる価値が消えています。現金や国債のような裏づけを持たず、アルゴリズムと別のコインとの交換の仕組みだけで1米ドルを保とうとしていて、その連動が壊れたとき、支えるものが何も残っていなかったからです。

裏に資産があるものと、ないものとでは、いざというときの姿がまるで違ってきます。

結局は、発行元をどこまで信じられるか

つきつめれば、発行元をどこまで信じられるか、という話です。ブロックチェーンの上で動いていても、価値を支えているのは技術そのものではなく、発行元が積んだ資産と、その中身をどこまで見せてくれるか。

銀行預金のような保護の仕組みが、同じようにあるわけではありません。それでも、お金を誰かに預けてその相手を信じるという点では、昔からのお金の話と、案外地続きです。