大統領がSNSで紹介したコインが、9割下落しました。ひと月あとに、別の国でももう一度・・・
2025年1月、就任式を控えたトランプ氏のSNSに、自分の名前がついたコインが登場しました。時価総額は一時100億米ドル規模となったと報じられました。1枚あたりの値段は、その後ピーク時から9割以上下がり、2026年8月下旬の時点でも戻っていません。そして次は、アルゼンチンの大統領のSNSから、別のコインについての投稿があり、そちらも同じ道をたどります。
二つの国で、ほとんど同じことが起きた
一つ目はアメリカです。「$TRUMP」と名付けられたコインは、ソラナ(Solana)というブロックチェーンの上で作られました。トランプ氏本人がSNSで紹介すると価格は急騰し、時価総額は一時100億米ドルを超えたとされます。1枚の値段は、主要な価格サイトのデータによると、2025年1月18日のローンチから数時間のうちにつけたピークで約74.59米ドル程度。そこから下がりつづけ、2025年12月には約5.33米ドル程度。2026年8月下旬の時点でも3米ドル前後で、ピークからは9割以上落ちたままです。
二つ目はアルゼンチン。翌2月、同じソラナ上に「LIBRA」というコインが現れ、ハビエル・ミレイ大統領がSNSで紹介しました。名前の由来は、ミレイ氏が演説で繰り返してきた「自由(libertad)」です。大統領本人の名前ではありません。時価総額は一時45億米ドル規模に達したものの、こちらはその夜のうちに崩れました。売りが殺到し、2025年2月14日の夜、日付が変わる前の午後10時45分ごろには、値段はピークから9割以上下がったと報じられています。
どちらも、値段はピークの十分の一以下になりました。ただし$TRUMPは時間をかけて、LIBRAは一夜のうちに。その下落スピードは、まるで違います。当然、値段が高いところで買った人ほど、大きく損をしました。国も人物も、崩れ方も違うのに、行き着いた先だけがそっくりです。
「大統領が出したコイン」と、ひとくくりにはできない
似ているのは値動きで、発行のかたちは対照的でした。$TRUMPを出したのは、トランプ氏の名前と肖像を使う許可を得た会社です。公式サイトには、この製品をトランプ氏本人やトランプ・オーガニゼーションが配布・販売しているわけではない、と明記されています。ただし発行された全体の8割は、その会社と、トランプ・オーガニゼーションの関連会社が合わせて持っていて、3年かけて少しずつ市場へ出す設計でした。発行側の説明では、これは投資商品ではなく、支持を示すためのもの。公表されている範囲では、本人の役回りはSNSでの後押しです。
一方のLIBRAを作ったのは、大統領とは別の事業者です。ミレイ氏は立ち上げ直後にSNSで紹介し、その投稿をあとから削除しました。本人は「広めただけで推奨はしていない」と説明していますが、関与の程度をめぐっては調査が続いています。本人は起訴されておらず、捜査の対象とされている段階です。
つまり「大統領が出したコインが暴落した」の一言ではまとめられません。二つに共通するのは発行者ではなく、公人の名前と後押しが値段を一気に動かした、という構図のほうです。
なぜコインが「数分で」作れるのか
$TRUMPもLIBRAも、ソラナという土台の上で作られました。手数料が安いことが多く、pump.fun のような発行専用のサービスを使えば、プログラムを書かなくても、数分のうちに新しいコインが1つ生まれます。
インターネットのネタやコミュニティの熱量が、そのままお金のかたちをとって動く。「ミームコイン」と呼ばれる文化が育ったのも、この気軽さの上でした。ソラナはその一大発行地です。
発行がここまで手軽なのはソラナに限った話ではありませんが、実際の発行はここに集まりました。ただ、入口が広いぶん、有名な名前を乗せただけのコインも、同じ速さで生まれます。
LIBRAの、最初の1時間
2025年2月14日の夜、LIBRAは世に出ました。午後7時ごろ、ミレイ氏がSNSでその存在を伝えます。時価総額が45億米ドル規模に届くまで、そこから1時間ほど。その裏で、コインが作られてから1時間とたたないうちに、発行に関わったとされるウォレットから、8,000万〜1億米ドル規模の資金移動や売却が確認されたと報じられています。値段が9割以上崩れたのは、日付が変わる前。ミレイ氏が投稿を消したのは、その少しあと、5時間半後でした。
買った側から、同じ1時間を見てみます。誰がどれだけ持っているのか、その資金がいつ引き出されるのか。名前を見て飛び乗った人には、どちらも見えていません。この種のコインで大きく効いてくるのは、この情報の差です。
$TRUMPのほうは、形が違いました。8割を誰が持っているかも、それをいつ市場へ出すかの予定も、先に公表されています。
誰が何を意図していたかは、係争中の件も含めて、まだ確定していません。分かっているのは、全員が同じものを見て並んでいたわけではない、という一点です。
値段は、何についていたのか
これは特定の人物や国、あるいはソラナという土台を責める話ではありません。二度とも、値段が大きく動いたのは、有名な名前が乗り、本人がそれを広めた前後でした。コインの用途や実績は、その前後で何も変わっていません。
名前が出た瞬間に、人が集まります。熱が引けば、持ち上がった値段が大きく揺り戻されることもあります。
その後、LIBRAをめぐってはアルゼンチンの司法が捜査を進め、$TRUMPも米国の議会などで問題視する動きが出ています。コインそのものは数分で作れます。しかし信頼は数分では作れません。二つの騒動が残したのは、公人の名前が価格を動かせても、その価格を支えるとは限らないという教訓でした。