本稿は2025年9月19日発行の英語レポート「BOJ asset sales signal another step towards normalisation」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
一定の政策方向性と新たな情報
日本銀行(日銀)は9月19日の金融政策決定会合で、市場予想通り無担保コール翌日物レートを据え置いたものの、経済情勢について引き続き「緩やかに回復している」と表現しながら、新たな情報を提供した。2026年度の初めから日本国債の買い入れ減額ペースを(四半期当たり4,000億円減から2,000億円減へと)落とす計画を維持する一方、日本経済をデフレから脱却させるべく実施した非伝統的金融緩和の下で同行資産として積み上がってきたETF(上場投資信託)およびREIT(不動産投資信託)の保有分について、売却を開始するという新たな計画を発表し、金融政策正常化へのコミットメントを示した。
資産売却の意義は象徴的なもの
資産売却開始の予兆が全くなかったわけではない。日銀の理事らは、2024年3月の金融政策決定会合でイールドカーブ・コントロールとマイナス金利政策を撤廃した後、翌月の会合で同中銀によるETFおよびREITの保有を(段階的なプロセスになるとしても)最終的に解消する構想を以前から示唆していた。さらに最近では、同行の氷見野副総裁が講演で、(2000年代序盤に買い入れた)銀行株の段階的売却が完了したことに言及し、ETF・REIT売却の指針になり得ると述べた。
しかし、年間わずか3,300億円(簿価ベース)というペースを考えると、日銀のETF売却計画の意義は象徴的なものにすぎないと言える。
最近の記録によると、日銀の保有するETFは簿価ベースで37兆円強となっている。しかし、時価ベースでの総額はそれよりはるかに大きい可能性があり、同行の取得時期とそれに対応する市場変動に基づくと71兆~78兆円に上ると推定される。計画通り年間3,300億円のペースで売却を進めた場合、保有分を完全に処分するには簿価ベースですらおよそ110年を要することになる。一方、前年度の日本銀行の損益計算書では、保有するETFからの分配金収入が1.4兆円計上されている。これは政府にとって健全な税外収入であり、日銀が保有する570兆円の日本国債からの利子収入を大きく上回る。この対比は、同中銀が保有資産において日本国債をETFよりも速いペースで削減する理由を裏付けている。
日銀は、(緩やかなペースでの資産売却を堅持する姿勢に表れている)市場の混乱の回避と将来の損失の抑制という2つの優先課題を強調しており、事前に設定した機械的なペースでの売却ではなく、相場上昇局面での売却を志向しているようだ。このことから考えると、売却の額やペース自体は二の次であり、多額の保有国債の満期償還を単に待つのではなくリスク資産を積極的に処分する計画を発表することで政策正常化へのコミットメントを示すという、象徴的な意義に重きが置かれているとみられる。
今後の展開:従来の本格的なインフレ対策へ
政策金利据え置きの決定については、政策委員会の全員が賛同したわけではない。反対を唱えた2名の委員は、日銀が既にインフレ目標を達成しているとして0.75%への0.25%の利上げを主張した。つまり、今月は政策金利を据え置いたものの、日銀内部では金融引き締めとインフレ抑制に向けた次の動きを求める圧力が高まっている。
一時的なエネルギー補助金によってインフレは表面的に和らぎ、CPI(消費者物価指数)の前年同月比上昇率は7月の3.1%から8月には2.7%へと鈍化した。しかし、潜在的な物価上昇圧力は依然として強い。生鮮食品とエネルギーを除いたコアCPIの上昇率は、前年同月比3.3%と日本銀行の目標である2%を大きく上回っており、この主因は食品コストの価格転嫁、そして賃金の上昇を反映した底堅いサービス価格インフレにある。このような物価上昇の構造は、他の条件を同じとした場合、日銀が総合インフレを抑えている一時的な要因の先を見てインフレ期待の抑制に動くべきであることを示唆しており、そのような対策は、保有する国債の満期償還や資産の売却といった非伝統的措置ではなく、従来型の政策でより直接的に行われる可能性がある。
10月4日に予定されている自民党総裁選が終われば、日銀が10月の金融政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げる可能性が出てきた。