本稿は2025年10月31日発行の英語レポート「BOJ avoids surprise, but pressure mounts on weak yen and inflation risks」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
10月30日、日本銀行は金融政策決定会合で政策スタンスの現状維持を決定し、広く予想されていた通り政策金利を0.50%に据え置いた。高市首相の選出を受けて、市場予想は会合前にすでに変わっていた。政策決定における独立性堅持の姿勢を断固として示していた日銀だが、今回は波風を立てることを控えたようだ。
今回の会合では、7月と同様に、9人の政策委員会メンバーのうち2名が現状維持に反対し利上げを主張した。今回は高市首相就任後初の政策決定会合で、同首相はこれまでのところ、自身の政権が(師と仰ぐ)安倍元首相と同様に緩和的な金融政策環境を支持するだろうとの市場の想定について、両政権間ではマクロ経済的背景が異なるにもかかわらず、払拭するような動きをほとんど示していない。
日銀は今回、政策を据え置くことにより、市場にサプライズをもたらす事態を回避したのかもしれない。しかし、現状維持の決定は緊張の高まりを浮き彫りにしている。ドル円相場は歴史的な円安水準で推移しており、この円安が長引けば、インフレとの闘いにおける日銀の決意が試されることになるかもしれない。円安圧力の高まりは、日銀にとって時間の猶予が限られていることを、あらためて示唆している。
中央銀行は通常、短期的な市場変動に反応することを避けるが、現在の円安は政策リスクをもたらすものだ。長引けばエネルギーや原材料のコストの上昇を通じて輸入インフレを増幅させる恐れがあり、結果として経済成長を阻害せずに物価を安定させるという日銀の取り組みが困難になる。政策委員会の意見は依然メンバー間で分かれており、少数派は金融緩和の早期引き揚げを声高に主張している。一方、多数派は、世界的に不透明感が強いなか、緩和引き揚げの先延ばしを引き続き優先している。
しかし、日銀にとって、緩和引き揚げに消極的な姿勢を正当化できる材料はなくなりつつある。四半期毎に発表される経済・物価見通しにおいて、経済成長率の見通しは若干上方修正されたものの、インフレ見通しは7月の水準からほぼ変わっていない。さらに、2026年に近づくにつれ、インフレが予想に反して日銀目標の2%へと減速しない場合は、同中銀への圧力が強まるだろう。
一方、リスク資産市場は大幅に上昇しており、米国経済は以前の見通し以来、底堅さを示している。これは、7月に景気悪化への懸念から日銀が示した慎重な姿勢とは対照的だ。一方、米FRB(連邦準備制度理事会)は今月、予想通り利下げを行うとともにバランスシートの圧縮(「量的引き締め」)をまもなく停止することを示唆したものの、パウエルFRB議長は当面の追加緩和について消極的な姿勢を見せた。こうした背景の下、日銀は、インフレとの闘いへの決意について、円の「キャリー・トレード」の過熱を十分に防げるような安心感を与えるには至らなかった。
今後の見通しとしては、年末までに利上げが行われる確率は依然高いと考える。市場では、金利の正常化を継続する環境が整いつつあるかについて、日銀の理事からのシグナルに注目が集まるとみられる。円安がさらに進めば、インフレとの闘いにおいて「後手」に回ってはいないことを示すために日銀が何らかの措置を講じる必要性が、さらに高まるだけだろう。
