本稿は2025年11月27日発行の英語レポート「Asian fixed income outlook 2026」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
サマリー
- マクロ環境:アジアは、貿易環境の改善、落ち着いたインフレ、好調なファンダメンタルズを伴って2026年を迎えようとしており、外部圧力が緩和するなかで経済成長率予想が上方修正される可能性がある。域内の各国中央銀行は利下げに対して慎重に臨むとみられるため、経済成長を支える役割を担うのは主に財政政策となるだろう。
- 中国:第15次5ヵ年計画では、消費の拡大とテクノロジー分野での自立促進が引き続き進められる。これらの取り組みが、「反内巻」運動とともに、より持続的な経済成長を支えディスインフレやデフレの回避に寄与していくとみられる。また、アジア地域の経済的な融合が進むなか、貿易・投資・決済における人民元の役割が拡大を続けている。
- インド、インドネシア、フィリピン:魅力的な実質利回り、落ち着いたインフレ、財政健全化への取り組みが、国債に対する需要の追い風になるだろう。
- シンガポール:経済成長が鈍化しておりインフレも安定していることから、追加の金融緩和が実施されるとみられる。シンガポール国債は概ね米国債に追随した動きを見せると予想され、発行額がやや増加するものの堅調な需要が続くだろう。
- アジア・クレジット市場:底堅いファンダメンタルズと良好な需給によってバリュエーションが高水準に保たれるなか、慎重ながらもポジティブな見方をしている。リターンの源泉は主にキャリーとなるだろう。米国の政策見通しが変化する可能性や地域固有のセクター・政治的リスクを踏まえると、選別的なアプローチが不可欠。
2026年の見通し
当社では、2026年のアジアの見通しについてポジティブな見方をしている。アジア地域は、米中貿易戦争の一時休戦と実効関税率の低下を受け、貿易環境の改善、インフレの落ち着き、良好なファンダメンタルズが追い風になるとみられる。米FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和を継続するのとは対照的に、域内の各国中央銀行は利下げに対して慎重に臨むと予想される。このような金融政策の乖離に伴う米国との金利差の変化は、一部のアジア通貨にとってサポート材料となるだろう。金融政策の余地が限られるなか、主要な役割を果たすのは財政政策になるとみている。中国は、デフレリスクが根強いものの、第15次5ヵ年計画の下で消費とハイテク製造業へのシフトを推進していくと予想される。インド、インドネシアおよびフィリピンは、実質利回りが魅力的であるとともに規律ある財政枠組みを備えている。また、シンガポール債券は、米国債の動きに追随して利回りが低下すると予想される。アジアのクレジット市場は堅調を維持するとみられ、バリュエーションが高止まりするなか、リターンの源泉は主にキャリーとなる見込みだが、世界的なリスクや政策リスクから慎重さが求められる。
アジア諸国の金利と通貨:貿易環境の改善や政策支援を受けて環境はポジティブ
アジアは、貿易環境の改善、十分に落ち着いたインフレ、良好なマクロ経済ファンダメンタルズに支えられ、概ねポジティブなマクロ環境で2026年を迎えようとしている。米中貿易戦争の休戦継続に加え、アジアから米国への輸出に対する免税措置の拡大によって、足元の実効関税率は発表された税率よりも大幅に低い水準となっており、外的圧力が和らぐなかで域内諸国の経済成長率予想が上方修正されつつある。経済成長見通しは今のところポジティブだが、迂回輸出や特定セクターに対する関税の脅威が再燃する可能性には留意している。
チャート1:米国が発表した関税率と実効関税率の比較

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメント・アジアが作成(データは2025年10月16日時点)
一方、インフレ期待は十分に安定しており、実効関税率が低下するなか、域内諸国の大半でインフレの落ち着いた状態が続くとみられる。
FRBが金融緩和を継続するとみられるのとは対照的に、アジアの各中央銀行は、政策余地を温存しながら追加利下げペースを慎重に調節していく可能性が高い。貿易をめぐる緊張が落ち着き経済成長の足取りが強まるなか、米国との金利差の変化は、ドルの金利優位性が後退し投資配分の見直しを受けて資金がアジアへ流入するのに伴い、域内の一部の通貨にとって追い風となるだろう。
アジアでは金融緩和サイクルが概ね終了しつつあることから、景気が減速した場合の対策においては、特に金融政策の余地が限られる国では財政政策が主な役割を担うとみられる。とはいえ、金利水準が高く政策余地がより大きい国では、国内の経済活動を支援するために的を絞った金融緩和が実施される可能性が依然残っている。
中国
中国は経済のリバランスを推進するとみられ、第15次5ヵ年計画では内需主導型の成長モデルへのシフト継続が示されている。政策当局は、消費を促進するとともに変動のより大きい輸出セクターへの依存度を低減する策を優先することで、長期的により強靭で持続可能な経済構造の構築を目指している。
第15次5ヵ年計画の中核目標は、経済のテクノロジー分野での自立を促進し、バリューチェーンの上層であるハイテク製造業への転換を進めることだ。中国が先進セクターにリソースを集中させるのに伴い、同国企業は付加価値が相対的に低い製品の生産をASEANなどの近隣諸国へと次第に移転しつつある。この傾向を後押ししているのが地政学的要因で、企業はサプライチェーンの分散化を図り貿易関税や外的政策リスクの影響を低減しようとしている。その結果として、中国は近隣諸国や主要貿易圏との経済的な連携・融合が深まっていくだろう。
こうしたシフトは、中国の長期的な経済成長やインフレ動向にとって追い風となる。生産性の向上や付加価値の高い生産への移行はより持続的な成長を支え、低コスト製造のアジア全域への分散は全体的な生産コストの抑制に寄与するだろう。また、これらの展開の相乗効果によって、貿易・投資・決済における人民元の国際的役割が拡大しており、同通貨への需要を生み出している。
ただし、デフレが課題であることに変わりはない。政府がこの問題を認識していることは、「反内巻」運動(過剰生産能力の抑制を目的とした政策)が続けられていることからも明らかだ。とはいえ、供給サイドの改革は進行ペースが緩やかであるため、大規模な失業の発生や経済全体の混乱は回避され得る。デフレ圧力を中期的に和らげるには、こうした供給サイドの調整だけでは不十分であり、需要サイドの持続的かつ実質的なサポートが不可欠となる。
したがって、政策面では緩和的な支援が続くと見込まれる。2025年第3四半期の経済成長減速を受けた大幅な財政措置に続き、2026年は的を絞った追加の財政出動が実施されるとみている。一方、金融政策については一段の緩和余地が限られているため、その役割はより限定的なものに留まるだろう。
結果的に、貿易をめぐる緊張が比較的落ち着いており、景気支援的な政策措置によって経済成長見通しが押し上げられるなか、中国国債の利回りは現在の水準から緩やかに小幅上昇する可能性が高い。
インド、インドネシア、フィリピン:政策支援に支えられて実質利回りが魅力的
FRBが追加の金融緩和を進めるとみられることから、投資家はより高い利回りを求めて米国以外の市場に目を向けるようになるだろう。こうした環境下、2026年はインド、インドネシアおよびフィリピンの国債が域内の他国を上回るパフォーマンスを見せるとみている。これらの市場を有望視できる材料は、魅力的な実質利回り、潜在水準を下回っている各国のインフレ、規律ある財政政策に支えられた安定的な債務状況にある。
チャート2:アジア各国の10年物国債の実質利回り

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメント・アジアが作成(データは2025年10月31日時点)
インド
インドのGST(物品・サービス税)改革の効果は、2025年終盤頃から消費者需要とインフレに表れ始めるとみられる。これらの措置は、2025年前半に実施された所得税減税とともに、家計支出を押し上げ国内の経済活動全般を支えるだろう。インフレは過去に照らすと引き続き良好な水準にあり、GST税率の調整もあって今後も落ち着いた状態が続く見込みである。これを受けて、インド準備銀行はインフレ見通しを下方修正し、これで「経済成長をさらに支援するための政策余地」が広がったとの認識を示した。このインフレの落ち着きと政策柔軟性の向上という組み合わせは、インド国債にとってポジティブな材料である。
外的要因も好転しつつある。米国との二国間貿易協定の見通しが改善しており、現在高水準にあるインドの対米輸出への関税率がアジア内の標準的水準に近づくことで、輸出競争力が向上し貿易主導で経済成長が促進されるだろう。また、同国に対しては海外から投資の関心も高まっている。象徴的なのは、Googleが最近発表したインド初のAI(人工知能)ハブ設立を含む150億米ドル規模の複数年投資計画で、こうした動向が同国の中期的な成長見通しへの信頼を一層高めている。こうした展開は総じて、インドの成長モメンタムを強化し、財政健全化の取り組みを支え、インドの通貨ルピーおよび国債に追い風をもたらす。
インドネシア
インドネシアでは、2026年の主要な経済テコ入れ手段は財政政策になると予想されるが、市場では同国の中央銀行であるインドネシア銀行がどの程度景気支援を続けるかにも注目が集まっている。同国の新政権は、財政赤字を対GDP比3%以内に抑えつつ、投資と雇用を促進すべく拡張的な歳出を実施していくだろう。プルバヤ財務相は赤字拡大よりも支出効率を重視しており、広範な財政拡張ではなく的を絞った景気対策の実施を示唆している。経済成長の足取りがまだ安定していないなか、予算執行は年を通じて加速し、内需に適度な押し上げ効果をもたらすと予想している。
金融政策は、主導的ではなく補完的な役割を担うとみられる。国内のインフレは低水準にありFRBも利下げを継続するとみられることから、インドネシア銀行には一定の追加緩和余地があるものの、利下げのペースは2025年よりも慎重なものになると予想される。銀行の預金準備率が引き下げられる可能性もあり、実施されれば信用の伸びを後押しするだろう。一方、2026年序盤にインフレが一時的な加速を見せても、これは物価上昇圧力の再燃ではなくベース効果が主因である可能性が高いため、インドネシア銀行の政策スタンスが大きく変わることはないと想定される。まとめると、2026年にかけてのインドネシアは、マクロ経済と通貨が安定を維持するなか、規律ある財政運営と的を絞った金融政策支援により同国国債にとって良好な環境がもたらされる。
フィリピン
フィリピンは、域内で最も魅力的な実質利回りを提供している国の1つとみている。フィリピン中央銀行は2024年8月以降、既に計1.75%の利下げを実施しているが、年初来の平均が1.7%(2025年10月現在)となっているインフレ率は、2026年前半は緩やかな加速に留まると予想されることから、景気が低迷する状況となった場合は追加緩和の余地が残されている。高い実質利回り、安定したインフレ期待、政府の中期的財政再建へのコミットメントが相まって、フィリピン国債に追い風となる環境がもたらされている。また、フィリピンは新興国国債の代表的なインデックスであるJPモルガンGBI-EMに採用される可能性があり、そうなれば同国国債への投資家からの需要はさらに押し上げられ、海外資金の構造的流入を促し、市場の流動性が改善するとともに、借入コストの長期的な低下につながるだろう。
一方、同国のマルコス大統領が最近、公共事業分野の汚職で摘発されたことを受けて、政府機関全体にわたって経費削減指示が出されており、当面は予算の執行や公共投資が滞る可能性がある。支出不足が長引けば経済成長にとってある程度の下振れリスクとなるが、ガバナンスと透明性の改革における確かな前進は、最終的に投資家心理にプラスの作用をもたらすものであり、中期的に資本流入が持続する追い風となり得る。
シンガポール債券市場
シンガポール国債は米国債に連れて利回りが低下
MAS(シンガポール金融通貨庁)は、これまでの前倒し需要の後退と労働市場の軟化を受けて世界の経済成長が鈍化するなか、2026年の自国の経済成長がより持続可能な潜在成長率程度のペースへ減速すると予想している。シンガポールのGDPギャップは縮小してゼロに近づくと見込まれ、経済は長期的な潜在成長率に近い水準で推移するとみられる。
インフレについては、MASは、域内で物価圧力が緩やかながら再び強まるとともに、生産性の伸びの正常化に伴ってサービス部門の単位労働コストが上昇することを背景に、コアインフレ率が2025年の落ち込みから徐々に加速すると予想している。しかし、総合インフレ率は、賃料上昇率の鈍化がコアインフレの加速を相殺することから、2025年の水準から概ね変わらないとみられる。インフレ基調はわずかに加速しつつも経済成長はやや鈍化するとの見通しを踏まえ、当社ではMASは2026年前半に金融政策スタンスの引き締め度を後退させると予想する。
2025年に好調なパフォーマンスを見せたシンガポール国債は、2026年も利回りの低下傾向が(ペースを緩めながらも)続くとみられる。FRBが少なくともパウエル議長の任期が終了する2026年5月までは「緩やかな」利下げ路線を辿る可能性があることから、米国債は利回りの低下が予想され、シンガポール国債も概して同様の動きを見せるだろう。シンガポールが均衡予算の維持にコミットしており国債による資金調達への依存度が限定的であるため、同国国債への需要は発行額が多少増加するなかにあっても堅調に推移する可能性が高い。また、シンガポールは2050年にネットゼロ(温室効果ガスの正味排出量をゼロにすること)へ移行する計画を推進しており、政府や法定機関によるグリーンボンドの発行が増加すると予想される。
シンガポールドル建てクレジット物はキャリーと利回りの小幅な低下ががリターンの主な源泉に
シンガポールドル建てクレジット市場では、今後、約260億シンガポールドルの債券が満期または初回コール日を迎えるなか、2025年と概ね同水準の新発債供給が続くと予想している。外資系銀行などが為替による資金調達コストの削減機会を捉えて起債しようとする動きもあり、そのような発行体からの新発債供給が増加する可能性も高い。投資家が利回りの低下しつつある短期国債から相対的に高利回りのクレジット物へと資金をシフトしていくのに伴い、新発債供給は順調に消化されるとみている。
金利が緩やかに低下するなか、2026年におけるクレジット物のリターンの源泉は主にキャリーと利回りの小幅な低下になるだろう。シンガポールドル建てのクレジット物に対しては、発行体のファンダメンタルズが良好でスプレッドが拡大しにくいとみられるため、ポジティブな見通しを維持している。オールイン利回り(債券発行時の国債利回り、スプレッド、発行価格のディスカウント、手数料等をすべて勘案した利回り)を重視する現地の長期スタンスの投資家から安定的な需要があることに加え、シンガポール市場は資金の「安全な逃避先」としての魅力もあることが、当該資産クラスを下支えしていくと予想される。
格付け別では、スプレッドによるバッファーやクーポンのキャリーが相対的に高いBBB格を選好する。当社では、国債に対する利回りの上乗せを追求しながら、発行体の選定においては規律を重視し、ファンダメンタルズが堅固で景気鈍化局面への耐性が強い発行体を選好していく方針だ。ハイイールド債分野では、ファンダメンタルズの強固な投資適格級発行体が発行する永久劣後社債や銀行の資本性証券を有望視している。
アジアのクレジット市場
底堅いファンダメンタルズと需給に支えられてバリュエーションは過去最高水準、リターンの主源泉はキャリーに
2026年のアジアのクレジット市場については、慎重ながらもポジティブな見方を維持している。ファンダメンタルズと需給は最近の高い水準から軟化する可能性があるものの、現在のタイトなバリュエーションを維持できるだけの良好さは保たれるだろう。ただし、これまで続いてきた全体的なスプレッドの縮小を踏まえると、さらなる縮小余地は限定的とみられることから、2026年のリターンの主な源泉はキャリーになると想定される。
アジア経済は、米国から前例のない貿易・関税政策の圧力があったにもかかわらず、2025年を通じて驚くべき底堅さを示してきた。経済活動の前倒しが後退するのに伴い、2026年は輸出と生産の伸びが鈍化するとみられる。しかし、2025年の展開は、アジア経済が(特に半導体や最先端AIチップなどのハイテク製品の)グローバルサプライチェーンにおいて重要な役割を果たしていることも浮き彫りにした。この役割は、当面は容易に代替・再現できないものである。こうした強みは、内需を押し上げるための金融・財政政策の余地が残されていること、米中貿易戦争の休戦が続いていることと相まって、今後も域内のマクロ経済の底堅さを支えていくだろう。加えて、FRBの利下げ継続を受けて、世界の資金調達環境は引き続き追い風の状態にある。
マクロ経済環境は軟化するとみられるものの、アジアではデフォルト率が低水準に留まり企業収益も概ね安定的に推移すると予想している。石油化学や中国の不動産など一部のセクターは、景気循環的な逆風や構造的な逆風が続き、回復は当面難しいだろう。しかし、これを埋め合わせるものとして、マカオのゲーミングや半導体、保険、銀行など他のセクターは堅調なパフォーマンスを示している。より厳しい状況にあるセクターでも、打撃を受けた企業は積極的に債務削減を進め、資産の売却や株式・ハイブリッド資本証券の発行を通じてバランスシートの強化を図っている。
需給は軟化すると予想されるが、概ね良好な状態を維持するだろう。2026年は、オンショア債券とドル建て債券間における資金調達コスト格差の縮小、インドのノンバンク系金融企業など特定セクターの発行増加など、複数の要因によりグロスの供給量が増加すると予想するが、純供給量は(特に米国のクレジット市場との比較においては)それほど拡大しないと見込まれる。さらに、オールイン利回りが依然高い水準にあることやアジアに対して良好な投資家心理が続いていることを受けて、需要は堅調を維持するとみている。
慎重ながらもポジティブな見方を維持する一方で、現在のスプレッド水準には十分なバッファーが残されていないことから、潜在的な逆風要因にも留意している。米国の金融政策路線に対する予想が(利下げ回数が現在の予想から減るなど)変われば、現在は好調なリスク・センチメントが世界的に悪化し、一定のスプレッド拡大につながる恐れがある。また、貿易摩擦の再燃、インドネシアやフィリピンなどにおける政局展開や財政政策の転換といったマクロ経済面の不透明材料も、注視していく必要がある。域内諸国の政策当局は、2025年に既に大幅な金融緩和を実施しているため、将来のショックへの対応では政策余地の制約に直面する可能性もある。当社では、これらすべてのリスク要因を踏まえて慎重な姿勢を維持しながら、2026年のリターンを支えるキャリーに注目している。
チャート3および4:JACIコンポジット・インデックスの最低利回り(左)と信用スプレッド(右)

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメント・アジアが作成(データは2025年11月13日時点)
マカオのゲーミング・セクターとアジアの保険セクターを有望視
アジアでは、マカオのゲーミングや域内の保険を中心に、一部セクターについて引き続きポジティブな見通しが持てる。マカオのゲーミング・セクターは、堅調なハイエンド消費支出に支えられて引き続き好調な業績を享受している。このトレンドが成長をさらに後押しするとみられるなか、今後の設備投資の資金調達や満期を迎える債務の借り換えを目的とした債券の発行が予想される。また、アジアの保険セクターも、有利な規制環境を追い風に有望視される。同セクターのバリュエーションは依然魅力度が高く、引き続き期待される供給が利回りとポートフォリオ分散を求める投資家に投資機会をもたらすだろう。
ソブリン債、準ソブリン債、香港の不動産セクターには慎重姿勢
一方、アジアのソブリン債や準ソブリン債については、バリュエーションが割高なため慎重な姿勢を取るのが妥当とみられる。当面、スプレッドの大幅な拡大を招くようなマクロ・ファンダメンタルズ面の懸念材料は見当たらないものの、スプレッドは歴史的にみてタイトな水準にあり、今後1年で外的ショックへの対応で政策余地がさらに減少した場合のバッファーがほとんど残っていない。同様に、香港の不動産セクターの見通しも依然として低調である。住宅セグメントには安定化の兆しが見られるものの、商業不動産セクターは資金調達が困難で逆風が続いている。構造的な課題とマクロ経済的な逆風が根強いなか、これらの分野においては選別的かつ慎重な姿勢を維持する必要があるだろう。
まとめ
2026年のアジアのマクロ経済見通しは、米中間の貿易をめぐる緊張の緩和、関税の免除範囲の拡大、インフレの落ち着きを追い風に、引き続き概ねポジティブと言える。景気が減速した場合、対策において主要な役割を担うのは財政政策になるとみられるが、インドやインドネシア、フィリピンなど金利が高い水準にある国では、金融政策に緩和余地が残っている。これらの国の国債は、利下げの可能性や低いインフレ、継続中の財政健全化を受けて、域内でアウトパフォームしやすい状況にある。
シンガポールでは、コアインフレがやや加速する一方で経済成長が潜在成長率に向かって鈍化すると予想され、MASの金融政策スタンスは引き締め度が後退するとみられる。シンガポール国債は米国債の動きに連れて利回りが低下する可能性が高く、発行額がやや増加するとともにグリーンボンドの供給が拡大するなかでも、堅調な需要が見込まれる。