本稿は2025年12月22日発行の英語レポート「BOJ: How fast to “normal”?」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
日銀は12月の金融政策決定会合を終え、政策金利を0.25%引き上げて30年振りに0.75%とすることを全会一致で決定した。市場の予想通りの動きとなり、事前にOIS(翌日物金利スワップ)レートには織り込み済みだった。10月会合で政策金利の据え置きが決定されたときは賛成7票、反対2票と意見が割れていたが、今回の決定が全会一致だったことは、政策委員のあいだで政策見解の足並みがより揃ったことを示唆している。
ただし、先行きの見通しについては、日銀のなかでもタカ派色の強い田村委員と高田委員の2名が異なる見解を示し、日銀の物価目標はすでに達成済みまたは実現時期が日銀の基本シナリオよりも早まる可能性が高いと主張したと報じられている。これは、物価見通しに関する慎重な表現がタカ派からすると受け入れがたいことを示唆している。全会一致の決定となったことで金融政策の不確実性は低下しているが、日銀の姿勢は引き続き利上げ方向に傾いており、インフレ率や経済成長率が上振れすれば、現在の見通しよりも早期の金利正常化の可能性が出てくるだろう。
しかし、利上げ発表直後の市場は、利上げペースの判断材料となる日銀の今後の金融政策方針をめぐる説明が完全にタカ派的ではなく、慎重な姿勢を示す内容であったことから、小幅な円安で反応した。そして金融政策会合後の記者会見が行われ、植田総裁がこれまでの利上げに対する景気の反応を注視していく必要があると強調し、緩やかな利上げの方針を示唆したことを受けて、円安の動きは強まった。
今回の利上げを正当化する根拠として、日銀は、「緩やかな」な賃金上昇と物価上昇の「好循環」が持続していることや、外的リスクをめぐる不確実性は残っているものの低下していると説明した。
声明文では、実質金利が引き続き「極めて低い水準」にあり、今回の利上げ後も「大幅なマイナスが続く」との見通しが明確に記されている。これは0.75%でも政策金利が依然として緩和的な水準にあることを意味しており、日銀がこれまで発してきたシグナルと整合的である。日銀は「中立的」な実質金利の推計幅を-1~1.5%としている(日銀ワーキングペーパー「自然利子率の計測をめぐる近年の動向」の様々な自然利子率(r*)モデルを示した下チャート1を参照)。ざっくりとした試算ではあるが、それにインフレ率目標の2%を足し直すと、名目金利では1~2.5%のレンジが中立的水準の大まかな目安となる。
物価動向について、日銀は2025年10月の「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の内容の通り、基調的なCPIインフレ率が2026年度の見通し期間後半に2%の「物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移」するとみられる可能性が高まっているとしている。ただし、目標が達成されたとの見方を示すには至っていない。
日銀によるフォワードルッキングな文言からは、緩和的な金融環境が維持され、「経済活動をしっかりとサポート」するとの見通しが示されたが、金融緩和縮小ペースを加速させる方針を示すには至らなかった。利上げ路線であることは明確であるものの、日銀は10月の展望レポートでの見通しと整合的に「経済・物価情勢の改善」が見られれば、それに応じて今後の政策金利引き上げのタイミングを判断していくとの姿勢を維持している。
市場では今後の財政出動観測も出てきており、景気回復による利上げを見込んだ長期金利の上昇傾向(ベア・スティープニングのバイアス)は今後も続く可能性がある。当面のインフレ加速の兆しが見受けられない場合でも、債券市場は先行きのリスクを織り込む傾向があるからだ。一方、植田総裁は、市場の「例外的」または無秩序な動きに直面する場合にはオペを実施する選択肢もあるとしながらも、日銀による大量の国債保有が引き続き金利低下圧力をもたらしている点も強調しており、異例の事態にならなければ介入(債券市場や短期金融市場でのオペ実施)には消極的であることが示唆される。
チャート1:日銀による中立的な実質短期金利(r*:自然利子率)の推計

出所:日本銀行
