本稿は2025年12月17日発行の英語レポート「Global Investment Strategy Committee Outlook Q1 2026」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。


当社アモーヴァ・アセットマネジメントのグローバル投資戦略委員会(GISC)が12月10日に開催された。当委員会では、世界の経済成長についてはポジティブな見方を継続するが、根強い先行き不透明感や市場リスクの高まりには慎重な姿勢を維持する。


当委員会の主要な結論:

  • 世界的にインフレ収束傾向が続いているが、その度合いは一様ではない。米雇用統計の軟化と家計貯蓄というバッファーの縮小は、緩やかな景気減速を示唆している。
  • また、米国の設備投資関連の指標を見ると、月次指標が引き続き好調な一方で景況感調査は先行き期待感の後退を映し出しており、「ファットテール」を伴う先行き不透明感の強まりを示している。
  • 米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げについては、債券市場に織り込まれている回数がFOMC(連邦公開市場委員会)自体の予測を上回っており、一方、国債供給量や財政をめぐる懸念が強まるなかで、タームプレミアム(債券の残存期間の長さに伴う上乗せ利回り)が世界的に上昇している。
  • AI(人工知能)関連の設備投資サイクルや構造的なテクノロジー・サイクルは、引き続き米国やアジアの一部の国で株式市場の追い風材料となっている。
  • 日本では賃金上昇と企業改革に支えられた好循環が続いているが、日本国債の長期ゾーンの動きは財政の持続可能性に関する市場の見方に左右される度合いが強まってきている。
  • 中国経済は、輸出や製造業の設備投資が底堅さを見せる一方で家計需要や不動産市場は依然低迷しており、二極化が続いている。
  • 予想が委員会メンバーのあいだで大きく分かれるなど、先行き不透明感は依然強く、中期的なシナリオは今後の展開に大きく左右される。

米国経済の相反点:雇用と物価抑制、設備投資と消費、バブルと緩やかな冷え込み

米国ではインフレと雇用への効果を重視した金融政策運営が継続されるというのが基本線の見方だが、市場は利下げが従来の見込みよりも早期に実施される可能性を示すシグナルに敏感に反応してきている。

当委員会は、米国経済は減速しつつあるものの基本的に底堅いとの見解で一致した。GDP成長率は、中央値で2025年末時点の前年同期比3%強から2026年半ば時点には同2%付近への鈍化を予想しているが、メンバー予想のレンジで見ると下限が同0.5%程度で上限が同3%台半ばと幅がある。失業保険申請件数が増加し雇用創出が鈍化するなど、労働市場の軟化はますます鮮明になりつつある。消費者心理は悪化しているが、高所得層の消費は比較的安定した推移が続いており、需要全体を支えている。また、最近の財政政策パッケージが追い風となるなか、2026年前半には経済が政府機関閉鎖の影響から回復することが期待される。


チャート1:世界の企業景況感と設備投資動向

設備投資は引き続き旺盛だが、企業の景況感は下振れしている。

チャート1

灰色の部分はコロナ禍による混乱局面を示す。
出所:S&P Global、各種国家機関、J.P. Morgan

インフレは徐々に減速しながらも、予想期間を通じてFOMCの2%目標を上回り続けるとみられる。ただし、先行き不透明感は根強い。コモディティ相場や関税の影響による上振れリスクが懸念されるが、一方で供給サイドの状況改善やサービス価格インフレの鈍化も考えられる。結果的に、インフレは順調に減速基調を辿るのではなく、上振れ・下振れ両方向の圧力に晒され続けるとみており、そうした環境下で2026年末までに1、2回の追加利下げが実施されると予想する。このように、インフレの先行き不透明感を踏まえ、FRBが積極的に利下げを進められるかどうかについては、市場よりもやや慎重な見方を維持している。

米国株式の見通し:当委員会で指摘されたように、株式市場のけん引役は引き続き限定的でAI関連の超大型株が優位な状況にある。企業の利益成長についてはポジティブな見方を維持しているものの、バリュエーションが割高な水準に達していることや景気サイクルが終盤にさしかかっていることを示す兆しにも注目している。チャート2および3が示すように、S&P500種指数とSOX指数(フィラデルフィア半導体株価指数)の合成で表したテクノロジーの「スーパーサイクル」(通常は数年周期の好不況サイクルを超えて続く長期的な拡大期)が際立った上昇トレンドを続けている一方で、より短期的な景気サイクルの振幅は2024年以降急拡大しており、株式のインプライド・ボラティリティが低水準にとどまっているのとは対照を成している。EPS(1株当たり利益)は引き続き好調な伸びが見込まれており、高水準のバリュエーションを正当化できるような企業収益達成の可能性が高まっているように見受けられる。


チャート2:長期的なテクノロジー・スーパーサイクルは好調を維持

チャート2

2000年12月末=100として指数化
出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


チャート3:一方で短期的な動向はボラティリティが高まっている

チャート3

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

米国債券の見通し:長期金利は政策金利の予想のみに左右されるのではなく、タームプレミアムの動向や国債供給面の懸念をますます反映するようになっている。当委員会では、2026年の米国債利回りは10年物で3%台後半から4%台半ばのレンジで変動すると予想している。市場ではFRBが独立性を維持できるかどうかが引き続き盛んに議論されており、米国債市場の長期ゾーンの安定性に影響を及ぼす材料となっている。


日本:経済は潜在成長率を上回るが財政リスクが日本国債市場の重石に

日本に対する当委員会の見方では、政策・市場動向において上振れ・下振れ双方向のリスクが高まっていることが浮き彫りになった。日本のGDP成長率は、2026年を通じて前年同期比0~1%程度と潜在成長率(0.5%)を上回る水準での推移が予想される。ただし、四半期毎の予想レンジはいずれの四半期も広く、前年同期比で若干のマイナスから2%強と、外需や国内景況感の変動の影響を受けやすいことを映し出している。

2026年のインフレについては、財政による家計支援策の実施を受けて生鮮食品を除くコアインフレが若干鈍化するのに伴い、総合CPI(消費者物価指数)上昇率が2%を割り込むとみている。ただし、実質賃金の伸びが小幅にとどまっており、消費の堅調な回復を阻害する要因になっているとの指摘もある。

金融政策面では、日本銀行は2026年中に政策金利を1%まで引き上げ、実質金利が「中立的」とみなせるレンジの下限に達した段階で利上げを一時休止すると予想する。ただし、財政出動の拡大を受けて日銀がより積極的な動きに出る可能性もあり、当該見通しには上振れリスクがある。


チャート4:日本の中立実質金利(r*)の推計

「中立」実質金利は-1~0.5%と推計される。

チャート4

出所:日本銀行

日本国債市場:長期ゾーンのプライシングの重要性が増していることが再びテーマとなったが、日本国債の利回りは、日銀の買いオペよりも、海外投資家からの需要や財政の持続可能性に対する市場の捉え方に左右される傾向が強まっている。継続的な財政拡大は、生産性の向上を伴わない場合、市場主導のイールドカーブのスティープ化を招いて日銀の政策運営の方向性を複雑にしかねないとの懸念もある。日本国債の利回りについては、10年物で2026年を通じて1%台半ばから2%台半ばのレンジ内での推移を予想している。

日本株は、ガバナンス改革や株主還元の改善、そしてAI、半導体、オートメーション化などの分野における構造的な投資拡大傾向が引き続き追い風となっている。ただし、すでに大幅な上昇を経てきた市場は、業績をドライバーとする次の上昇相場を迎える前に、一旦調整局面をこなすことになるかもしれない。TOPIX構成企業のEPS成長率は、2026年前半は一桁台のプラスにとどまると予想されるが、その後、関税をめぐる先行き不透明感が後退するとともに、国内の賃金上昇や財政出動を受けた消費の拡大に加えて世界の堅調な投資動向が企業収益の追い風となるなか、2026年後半にかけて加速するとみられる。

欧州:景気は回復基調、ECBは金利据え置き

欧州で続いている景気回復はすでに市場に織り込まれているが、当委員会ではその勢いが徐々に増すと予想している。コアインフレはECBの目標である2%に向けて減速が見込まれ、それを受けて実質GDP成長率は2026年半ばまでに前年同期比1%超へ上昇すると予想される。インフレが鈍化しても、金融緩和の景気浮揚効果が顕在化するには時間のかかる場合があることから、ECBの金融緩和サイクルは終わりを迎えた可能性が高い。当委員会では、ドイツ国債の利回りについて、財政支出の拡大に伴う国債発行額の増加からやや上昇すると予想するが、75%以上の確率で2026年後半まで10年物で3%を超えることはないとみている。株式市場に関しては、市場コンセンサスと同様の見方をしており、欧州株式の利益成長は2026年を通じて着実に回復すると予想している。ただし、米国株式の場合と同じく、バリュエーションの上昇ペースは利益の伸びを上回った可能性があり、2025年終盤にすでにピークを打ったかもしれない。

中国:不均一な経済成長への対応

現行5ヵ年計画の最終年である2025年、中国の通年のGDP成長率は約5%と見込まれる。当委員会では概して、2026年の成長率はレンジ内にとどまると予想しているが、同国の新5ヵ年計画では量的な成長目標から質的な成長目標への転換が示唆されていることから、5%という水準はもはや厳格に維持されることはないかもしれない。

中国では、経済の外的ドライバーと国内ドライバーとのあいだで乖離が拡大している。製造業の投資と輸出は底堅さを維持しており、市場シェアの拡大さえ見られているが、一方で家計消費と不動産市場は軟調なままだ。最近のコアCPI上昇率の改善(プラス圏への回復)は、幅広い需要の回復というよりも経済の正常化を反映したものだとの指摘もある。それでも、当委員会は、新5ヵ年計画で消費が最優先課題と位置付けられているなか、中国が再びデフレに陥るとは考えていない。ただし、政府の支出では、テクノロジー関連分野の研究・開発に加え、医療や高齢者介護、保育、娯楽などサービスへの支援に重点が置かれる可能性がある。

2026年のGDP成長率は4%台後半で緩やかに減速すると予想するが、表面上の成長率の陰には、中国の成長構造に関する当局の意図的な戦略転換が隠れている。チャート5および6が示す通り、政策による支援を享受しているセクターと低迷の続く不動産セクターとのあいだでは、パターンが明確に二極化している。当委員会では、中央政治局のさらなる指針により政府の当面の優先事項が明確になるまで、金融緩和は漸進的なものにとどまるとみている。2026年第1四半期の最終月に開催される全国人民代表大会と続く4月に行われる政治局会議で、政策の優先順位が一段と明確化されるかもしれない。一方、第2四半期に開催が予想される第4回「一帯一路」フォーラムや、現在の一時休戦の期限を控えて継続される米中間の通商交渉も、重要な焦点となり得る。


チャート5:中国の固定資産投資に占めるセクター別割合

チャート5

出所:PRC Macro


チャート6:中国の固定資産投資の伸び率に占めるセクター別割合

チャート6

出所:PRC Macro

中国株式市場は、デフレ圧力にもかかわらず最近回復基調にある。当委員会では、革新的な産業や輸出型セクター、自社株買いをけん引材料としながら、年が進むにつれ利益成長が継続的に回復していくと予想する。ただし、市場の一部では過熱感があることから、短期的な調整の可能性も考えられる。不動産や信用経路、外需の持続性をめぐる構造的な懸念は依然として根強い。


見通しに対する主なリスク:ファットテールリスクの分解

主要なリスク群はインフレの再燃と政策の信頼性へのショック

委員会メンバーの予想するリスク特性を集計すると、2つの主要なリスク群が浮き彫りとなった。


  • 1つ目はインフレ関連のリスク群である。インフレ再燃のリスクは地域を問わず指摘され、その影響はコモディティ市場に加え米国の株式・債券市場へも波及する可能性がある。また、米中貿易戦争があらためて激化すれば、物価上昇圧力が増幅される恐れがある。
  • 2つ目は政策の信頼性に係るリスク群である。懸念の中心は、日銀の政策対応が後手に回ってしまうこと(これはインフレ・リスク群の一部とも見なすことができる)と、日本の高市政権と日本国債の投資家とのあいだで緊張がエスカレートする可能性が高まっていることだ。FOMCの独立性の見通しをめぐって不透明感が続いていることも、当該リスク群に含まれる。
  • これら2つのリスク群以外に、極めて高い水準にあるテクノロジー・セクターのバリュエーションと債務による資金調達の増加を考えると、AI関連の資金調達に起因するプライベート・クレジット市場のストレスもリスク要因として浮上する可能性がある。

不透明感が強まっており予想のばらつきが顕著になっていることから、投資ポジションの構築と資産配分において以下の6つのリスクに特に注意を払う必要があると考える。

1. インフレ再加速リスク(発生確率「高」、影響度「大」)
委員会メンバーの多くが、コモディティ・ショックや関税の影響、サプライチェーンの制約、時期尚早な金融緩和によるインフレ再加速リスクに「中~高」の発生確率(20~30%)を割り当てた。債券市場とリスク資産にわたって無秩序な価格再調整を引き起こす可能性があることから、その影響度は一貫して「大」と評価された。

2. 政策の信頼性と市場の感応度(発生確率「中」、影響度「大」)
政局は主要な焦点とはしていなかったものの、中央銀行の独立性が後退するとの認識が強まれば市場の信頼感が損なわれる可能性のあることが指摘された。委員会メンバーの見方を総合し、発生確率は「中」(15~25%)とした。ただし、債券利回りが過剰反応するリスクやリスク資産のボラティリティが上昇するリスクから、潜在的な影響度は大きい。

3. 日本の財政政策を受けた市場の緊迫化(発生確率「中」、影響度「大」)
日本国債の利回りは、財政の持続可能性に対する市場の認識からますます影響を受けるようになっている。債券利回りが予想以上のペースで上昇し円および日本株のボラティリティが高まるというシナリオについては、影響度のスコアを「大」とした。

4. 中国内需の下振れ(発生確率「高」、影響度「中」)
中国では消費と不動産の低迷が根強く続いていることから、同国の需要が下振れするリスクについては発生確率を「高」(25~35%)と評価した。輸出と一部の政策手段によるバッファー効果を考慮し、影響度は「中」と判断した。

5. プライベート・クレジットとAIインフラの脆弱性(発生確率「低」、影響度「大」)
プライベート・クレジット、特にAIインフラに関連するエクスポージャーに伴う潜在的リスクについては、発生確率は低い(5~15%)ものの、公的市場への波及的影響は大きいと考える。 グローバル投資戦略委員会による中期展望(2026 年第 1 四半期)

6. 地政学的リスクと貿易ショックのリスク(発生確率「中」、影響度「中~大」)
このリスクとしては、米中貿易摩擦、日中関係の緊張、欧州・中国間の産業政策論争、グローバル・サプライチェーンの再編などが挙げられる。主観的な発生確率のレンジは20~30%で、影響度は「中~高」と評価している。

補足1:GISCの見通しのガイダンス

世界のマクロ経済指標

世界のマクロ経済指標

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ

株式

株式

グローバル投資戦略委員会による中期展望(2026年第1四半期)

グローバル投資戦略委員会による中期展望(2026年第1四半期)

グローバル投資戦略委員会による中期展望(2026年第1四半期)

グローバル投資戦略委員会による中期展望(2026年第1四半期)