本稿は2026年1月15日発行の英語レポート「Japan snap election: it’s not about fiscal dominance (yet)」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

(少なくとも現時点では)騒がれている「財政支配」ナラティブの先を読むべき

米国政府による FRB(連邦準備制度理事会)への政治的圧力から日本で見込まれている解散総選挙まで、最近のニュースは「財政支配」の論議を煽っている。この財政支配のナラティブを受けて、各国中央銀行のやや緩和寄りの政策が拡張的財政とどのように折り合いをつけるか、市場は楽観的な方向に偏った見方を持っているようだ。しかし、このナラティブは、日本や米国における差し迫った政策を正確に反映していないとみられる。

学術的には、財政支配は単なる市場の比喩などではない。学術的な意味合いでは、財政支配は金融政策と財政規律への統制力が失われると想定する。そのようなシナリオでは、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化は政治的・行政的に実現不可能となり、財政赤字削減の手段として残るのはインフレのみとなる。言い換えれば、財政支配はマクロ経済制度の構造的失敗を意味する。

幸いなことに、財政支配が騒がれるなかでも、市場は全面的な制度崩壊を織り込んではいない。むしろ市場はリスク耐性を維持しており、円や日本国債にとってマイナス材料となっているのは、日本からの資本逃避懸念ではなくリフレ志向である。デフレがもはや日本の実質所得に対する最も差し迫ったリスクでないことは明らかだ。日本にとっての足元の課題は、日銀の目標を上回り続けている根強いインフレである。

株価は「高圧経済政策」への期待から大幅上昇:依然としてリスクオン姿勢

日本の株式市場は、高市早苗首相が衆議院を解散し総選挙を実施する意向との報道を好感した。本邦メディアが報じた日程(2 月 8 日投開票)から、2026 年度予算の成立前に政権基盤を固めようとしていることが窺える。

市場は、現政権が早期の総選挙に踏み切る見込みであることについて、高市総理が政権基盤を固められると確信している表れと受けとめている。投資家はこの論理をさらに発展させ、高市政権がかなり積極的な財政政策スタンスへ舵を切ると期待している。与党の意図は確かに「高圧財政政策」への転換を示すことにあるかもしれない。しかし、政権がより大きな支持を得たとしても、政府は依然として多額の赤字国債の発行を行う必要があり、政権が信任されたからといって、好きなように放漫財政を行ってもいいというお墨付きを与えられたわけではない。

円と国債への売り圧力:適正水準を模索する動きが続いており行方は日銀次第

政府がより積極的な財政姿勢へ転換する可能性に対し市場が示した反応は、日本の景気への万能薬とも「日本売り」のシグナルとも受けとめられるべきではない。株価の上昇と経済ファンダメンタルズの堅調さから考えて、「ジャパン・プレミアム」(海外市場における邦銀向けの上乗せ金利で、日本の信用悪化を示す)が再燃する可能性は低いだろう。一方で、インフレは安心できる水準を上回っており、(春闘では今年も賃上げの獲得が続くと広く予想されているものの)名目賃金の伸びだけではなく将来の実質所得にとって強い逆風となる。

日銀はこの違いを認識している。上田総裁は、賃金・物価の上昇を伴う経済成長が続くという同中銀の見通しが現実化した場合、追加利上げを行う可能性が残っている、と示唆している。日本経済が引き続きリフレの道を辿るなか、市場は適正水準の模索を続けている。シナリオは依然として金利先高を示しており、現在は円キャリー・トレードの魅力の高さが円の重石となっているものの、実質金利が永久にマイナス領域に留まる可能性は低い。

アベノミクスへの回帰は依然として不適切

解散が現実化した場合、市場が思い起こすのは安倍前首相による2014年と2017年の衆院解散かもしれない。いずれの解散も当時、安倍政権のリフレ策に対する信任投票と見なされていた。しかし、>高市氏が首相に就任した際に主張したように、安倍氏の「やれることは何でもやる」デフレ対策が全面的に復活すると想定するのは誤りである。10月に指摘した通り、現在のリフレ的なマクロ経済環境は「アベノミクス」が生まれた当時とは根本的に異なる。こうした背景から、通常は日本株にとって追い風となる円安が日本の一般消費者に受け入れられるとは考えにくい。家計にとって重要なのは実質購買力であり、円安が長期化して輸入インフレが加速すれば、日銀は早期に利上げに踏み切るべきとの見方が強まるだろう。

短期的な円売り圧力と外国ヘッジ筋の役割

これは、外国人投資家が円売り(それが日銀の決意を試すためであれ、財務省の円安許容度を探るためであれ)の手を休めるだろうという意味ではない。しかし、留意すべきなのは、日本は自国の国債発行を賄うのに海外からの恒常的な資金流入を必要としていないという点だ。日本は対外純資産において純債権国であり、円キャリー・トレードが続いている事実は国内外の投資家がリスク許容度の高い姿勢を維持していることを明確に示している。当社では、この環境が日本株を含むリスク資産を弱体化させるのではなく引き続きサポートしていくと考えている。