国家戦略としての「3060目標」の推進
2020年9月の国連総会において、中国の習近平国家主席は、「CO2(二酸化炭素)の排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロにする」という、「3060目標」を宣言しました。世界最大のCO2排出国である中国にとって、脱炭素は深刻な環境汚染への対応にとどまらず、新興産業の育成やエネルギー安全保障の観点からも不可欠な国家施策です。この目標は中国共産党の威信をかけた国策に位置づけられ、政策当局は産業・環境・金融など各分野で支援策を矢継ぎ早に打ち出しました。その結果、太陽光発電、風力発電、バッテリー、EV(電気自動車)など多くの分野で中国企業は競争力を高め、さらには「一帯一路」構想を通じて新興国の需要をも取り込み、世界市場における主要プレイヤーの地位を確立しました。
ところが近年、その勢いは停滞しています。市場を独占しつつあった中国企業に対し、警戒感を強めた欧米諸国が高関税や輸入制限などの措置を相次いで導入したほか、中国国内では政府補助金による生産拡大競争の末に需給バランスが崩壊し、EVやクリーンエネルギーなどの関連市場は深刻な過剰供給に陥りました。
過当競争是正に向けた動きが本格化
こうした状況を受け、中国政府は2025年夏以降、「反内巻」と呼ばれる新たな過剰生産抑制策を打ち出しました。「内巻」とは、過度な内部競争によって参加者全員が消耗し、経済が停滞する現象を表します。「反内巻」の内容は、過度な安値販売の禁止や不正競争防止法の改正による価格競争の歯止め策などが中心となります。政策が効果を上げるには、最終的には需給の調整が必要であり、過去に出された類似の政策では、供給調整と需要拡大が政府の主導で行なわれました。反内巻政策が過去と同様に奏功するかは業種によって異なるとみられていますが、脱炭素関連分野では、供給サイドの調整が政府主導で進むことにより、現在の停滞状況を打破できると期待されています。需要サイドの政策はまだ提示されていないものの、中国の脱炭素関連企業は米国との激しい貿易摩擦を経てもなお、グローバル市場において高い競争力を維持しており、引き続き海外市場への展開も進むとみられます。このように、足元の環境は、産業の健全化と成長拡大が期待されやすい状況と言えます。
脱炭素関連企業への追い風が加速する見込み
中国では5年ごとに、国家の経済・社会の運営方針となる「5ヵ年計画」が策定されます。2026年3月の全人代(全国人民代表大会、国会に相当)では、「第15次5ヵ年計画(2026~30年)」が最終決定される予定であり、この計画期間の最終年が、「3060目標」における一つ目の目標年に当たります。つまり、向こう5年間は脱炭素に向けた施策が一段と強化・加速される見込みです。2024年に開催された三中全会(中央委員会第3回全体会議)では、「3060目標」の再確認と、クリーンエネルギーを中心とした産業・社会構造への転換を加速する方針が打ち出されており、今後の政策にも脱炭素関連の具体策が盛り込まれると考えられます。
こうした中国政府による強力かつ安定的な支援策を追い風に、中国の脱炭素関連企業は、今後大きな注目を集める可能性があります。
- 上記は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。