本稿は2026年2月17日発行の英語レポート「Japan Q4 GDP: momentum moderates in an inflation-distorted environment」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
表面的には、日本の2025年第4四半期のGDPは概ね市場予想を下回り、成長率が実質ベースで前期比0.1%、名目ベースで(市場予想の1%に対し)0.6%にとどまった。設備投資も市場予想の0.6%増に対して0.2%増と伸び悩み、(企業の価格決定力とリフレ的な賃金・物価の連動上昇を推進力とする景気拡大の流れが反転したわけではないものの)失望材料となった。在庫は0.2%減と予想以上に減少して小幅ながら追加的なマイナス要因となり、純輸出も前期比0%増とやや下振れした。しかし、大きな焦点となったのは、前年同期比3.2%の市場予想に対し同3.4%となったGDPデフレーターで、(需要の低迷よりも)インフレによって生じた名目成長率と実質成長率の差が目を引いた。
前期比の速報値の一部は第3四半期のデータの修正を反映しており、季節調整済みベースでは2025年の四半期毎の数値は通常よりも大きな変動を示した。こうした技術的な変動を平準化するには、前年同期比のデータに加えて通年のデータを吟味することが有用である。
通年の観点からは、日本経済は不透明感の強かった年ながらも回復力を示した。2025年通年の実質GDP成長率は1.1%(速報値)と、潜在成長率(日銀の推定によると0.5%前後)を大きく上回った。2023年・2024年と連続でマイナス成長となった民間需要は、通年で1.6%のプラス成長へと回復した。この回復の大部分を牽引したのは国内消費と民間非住宅建設投資で、いずれも通年の伸びが1%を大きく上回った。
しかしながら、このように実質成長率が潜在成長率を上回ったという結果ですら見劣りさせてしまうのが、前述のサブ項目において前年同期比の名目成長率が4%を超えたことだ。この名目・実質成長率間の格差は、家計の潜在的な消費拡大余力が物価の上昇によってどれほど損なわれているかを浮き彫りにしている。一方、円安は交易条件の重石となり、日本の実質購買力を低下させている。輸出は量・額ともに通年ベースで拡大(実質ベースで前年比0.6%増、名目ベースで同0.7%増)が続いているものの、輸入額の増加によって日本の世界的な購買力は制約されている。こうした動向の多くは、前年比データ(チャート1で示した円ベースでの前年比実質GDP成長率を参照)でも確認できる。
チャート1:支出項目別で見た日本の実質GDP(不変価格ベース、前年比、円ベース)

出所:内閣府の情報を元にアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
今後重要となるのは賃金、インフレ、円相場
何よりもまず、日銀は、日本のリフレの可能性を示す先行指標として賃金・物価の連動性への注目度を強める理由を強調している。家計にとって重要なのは実質購買力で、具体的に言うと賃金の上昇率が消費の対象となる財・サービスの価格上昇率を上回るかどうかが鍵となる。
賃金・物価の連動性は生産能力にも重要な二次的影響を及ぼす。日銀が今や「慢性的」と表現する労働力不足は数四半期にわたって続いており、日本において物理的資本を完全償却前に有効活用する能力の圧迫要因となっている。労働力不足が設備稼働率の制約要因となっている限り、人的資本の増強は日本のリフレ基調の勢いを維持する上で最重要課題と言える。
こうした背景から、春闘での賃金交渉をめぐる発表や企業による省力化技術への継続的投資は注視していくべきだろう。移民政策など日本における労働力の供給拡大に影響を与える要因にも注目していく必要がある。
財政・金融政策の組み合わせは補完的であるのが最適
日本のインフレがディマンドプル型(賃金主導)かコストプッシュ型(価格上昇、為替、交易条件の影響)かは依然複雑な問題であり、家計の実質消費と名目消費を対比するだけでは解決できない。GDPデフレーターの強さは、物価が消費の量と額のあいだに乖離を生じさせていることを明確に示している。
最近の交易条件の悪化を引き起こしている主因の1つは円安だ。日本はインフレが他の先進国と同様の水準にあるにもかかわらず金利が他の先進国よりも大幅に低い水準にあり、円はそうした相対的な安さから、(財務省のポートフォリオ資金動向データが示す通り)世界中のリスク資産投資において資金調達通貨に使われやすい状況が続いている。こうした資金動向が慢性的な円安につながってきたのかもしれず、他の条件が同じであれば、輸入インフレ抑制のため金利正常化を優先すべきとの日銀への圧力が強まる可能性がある。
解散総選挙での高市首相の圧勝に伴い大規模な積極財政への期待が高まっているが、この政治的支持の拡大がもたらすより重要な効果は、政府に対し、財政の長期的な持続可能性に注力しながら日銀の独立性を尊重して同中銀にインフレ対策を一任できる余地を与える点にあるのかもしれない。
