本稿は2026年3月2日発行の英語レポート「Escalation in Iran encounters market disbelief」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2月28日に始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃、そしてイランによる中東全域への報復攻撃は、アジア株式市場での売りを誘発した。本稿執筆時点で米国株式の先物も急落しており、S&P500指数の予想ボラティリティを示すVIX指数の先物は上昇している(チャート1参照)。また、原油価格は急騰し、伝統的な「安全資産」である金は過去最高値近くまで反発している(チャート2参照)。


チャート1:VIX指数の先物は攻撃後に上昇

チャート1

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


チャート2:原油価格は上昇、金価格も反発

チャート2

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


しかし、株式市場も債券市場も、織り込んでいるのは限定的な紛争のようだ。本稿執筆時点では、リスク選好度に顕著な圧迫の兆候は見られていない。紛争から直接影響を受けている範囲の大きさと先行き不透明感の強さを考えると、これは意外な展開と言える。

例えば、VIX先物の期近物の上昇幅はこれまでのところ比較的小幅にとどまっており、過去数ヵ月の推移と比較しても並外れれているとは言えず(チャート1参照)、最近では2025年11月に見られた水準の方が高い。また、先物価格はスポット価格を上回るとともに、先物曲線においてボラティリティが落ち着いている局面の特徴である「コンタンゴ」(期先の価格の方が期近の価格よりも高い「右肩上がり」の状態)を依然維持しており、システミックな高ボラティリティ局面で見られる「バックワーデーション」(期先の価格の方が期近の価格よりも低い「右肩下がり」の状態)になっていない。ただし、この状況は今後の相場で変わる可能性があり、市場センチメントの指標として注視していくべきだろう。

日本株については、米国・イスラエルによるイラン攻撃がセンチメントの重石となっている唯一のリスク要因ではないように見受けられる。報道によると、金融株の低迷において地政学的リスクの高まりは一因に過ぎず、日銀の利上げペースに対する予想の変化やクレジット市場の健全性に対する懸念の高まり、国内財政政策の信頼性をめぐる不透明感も要因となっている。

注目すべき点として、従来「安全資産」とされてきた円は、今回の攻撃の影響をほとんど受けていない。これが示唆しているのは、①市場は地政学的緊張がリスク選好度の全面的崩壊につながるほど高まるとは予想しておらず、リスク回避姿勢が円調達「キャリートレード」の幅広い解消を促す水準まで強まっていないこと、あるいは②日本の内部留保時代が終わりを告げ、地政学的緊張のもたらす潜在的インフレ圧力や実質金利への圧迫が今後の利上げを見込みにくい状況下で円安要因となり得ること、のいずれかだ。

とはいえ、チャート3が示すように、ドル円レートは長期・短期いずれの指標でも「適正価値」を上回っており、円が依然として過小評価されていることを示唆している。


チャート3:「適正価値」を上回っているドル円レート

チャート3

出所:Macrobond、米財務省、米労働統計局、総務省統計局


より長期的には、不透明感と価格の関係性がリスク資産の見通しだけでなくドル・円両方の見通しにとって重要な要素であることに変わりはない。最近のボラティリティの上昇は、経済の不透明感を示す多くの指標に比べると依然小幅であり(チャート4参照)、また、様々な類の政策不透明感の高まりが一定のタイムラグを伴ってインフレの加速を促しやすいことを示す証拠もある


チャート4:直近のボラティリティの上昇は経済の不透明感を示す多くの指標に比べると依然小幅

チャート4

出所:Economic Policy Uncertainty およびIMF(国際通貨基金)の情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


したがって、これまでのリスク反応は比較的軽微であるものの、市場は今回の変化をまだ完全には織り込んでいないのかもしれない。今後ボラティリティが一段と高まる可能性を軽視するのは賢明ではないと言えるだろう。


*例えば、(連邦準備制度理事会への政治的圧力をめぐる不確実性を論じたドレクセル氏のワーキングペーパー(2024年)や(気候政策の不確実性におけるサプライサイド・ショックと一致する効果を指摘した)ガブリリディス氏のディスカッション・ペーパー(2026 年)を参照のこと。