本稿は2026年3月19日発行の英語レポート「External shocks complicate Fed and BOJ policy paths」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

FRBの金融緩和のハードルが高まる

3月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合では、市場の予想通り、FF(フェデラル・ファンド)金利の誘導目標レンジを3.50~3.75%に据え置くことが11対1の賛成多数で決定された。FOMC後に公表される経済・政策見通し(SEP)では、2026年と2027年に0.25%の利下げが1回ずつとの見方が示された。しかし、政策声明、SEP、そして会合後の記者会見におけるパウエルFRB議長の発言からのシグナルを総合すると、タカ派的な色合いを帯びた政策金利据え置きであった。

政策声明では、広範な供給ショックにより見込まれる経済への影響について簡潔に述べられただけだったが、「中東情勢」による影響は「不透明」と明確に言及された。簡潔ながらもこうした文言が追加されたことは、重要な意味を持つ。政策金利見通しを示す「ドット・チャート」に変更はなかったものの、足もとの物価・金利動向に構造的シフトが起こる可能性もあることを示唆している。

一方、FRBの政策反応関数(どのような経済情報の動向に応じて、金融政策をどのように調整するかを示す指針)を示唆する文言については、「追加的な調整の程度およびタイミング」への言及や、「今後のデータ、見通しの変化、リスクのバランスを慎重に評価」していく意向の表明など、一見変化がなかったようにみえる。ただし、新たに追加された前述の文言は、政策反応関数においても重要な意味を持つ。なぜなら、他のすべての条件が同じであれば、その影響はインフレ方向に働くとみられるからだ。

また、SEPは政策声明と反する内容となっていた。政策声明では、労働市場の勢いについてより控え目な表現で記述されていた。しかし、SEPにおいては大幅な上方修正が行われ、各年の経済成長率見通しが引き上げられただけでなく、長期的な経済成長率見通しも12月時点の1.8%から2.0%へと引き上げられた。こうした見通しが維持されれば、中立金利、ターム・プレミアム、インフレリスク・プレミアムなどの上昇を示唆する可能性がある。2026年と2027年のPCE(個人消費支出)のコア指数と総合指数の見通しも上方修正されたが、長期予想は依然として2%目標に収束している。

パウエル議長の記者会見では、インフレ率見通しと経済成長率見通しの両方が上方修正されながら、政策見通しは上方修正されなかった点が注目された。SEPで示された景気・物価見通しと、今後の金融政策見通しが乖離していると矛盾しているからだが、これは今やFRBにとって利下げのハードルが上がっている可能性があることを示唆している。原油供給をめぐる混乱が長期化する場合は、その可能性が特に高まるだろう。

こうした理由もあり、パウエル議長の記者会見はFRBの声明文よりもタカ派的な内容だったと解釈された可能性がある。パウエル議長は、インフレ率が依然として目標を上回るなか、足もとではエネルギー供給ショックをめぐる不透明感も加わるなど、金融政策を左右する要素が増えているとして「様子見」の姿勢を強調した。最近のデータはインフレの収束傾向を示しているものの、原油供給ショックの発生を受けて今後の金融政策への影響度が弱まっている可能性がある。今のところFRBは様子見姿勢を維持しているが、パウエル議長の記者会見において、インフレをめぐる状況の進展は追加緩和に向けて期待されるものではなく、必要条件になるものと位置付けられたことは重要なポイントである。

インフレについては政策を左右する重要な条件とする一方、経済成長率は政策への影響度合いが比較的小さいとするなど、表現が非対称的であることは、政策反応関数にシフトがみられており、不確実性が高まっているなかでインフレ期待がより重視されていることを示唆しているのかもしれない。

FOMC会合を受けて、FF金利先物市場では当面の利下げ期待が後退し、為替市場では米ドルが主要通貨に対して上昇した。実質金利が相対的に高い水準で推移するとの見方や、他の市場に比べてインフレリスク・プレミアムが高まるとの見方を織り込む動きが進んだ可能性がある。株式市場では、当面の「FRBプット」(市場下落時にFRBが市場の下支えに動くこと)の発動確率を見直す動きが広がり、株価が下落した。こうした市場の反応を総合すると、投資家はFOMCで示された政策シグナルを全体としてタカ派的と解釈したようである。

インフレ上振れリスクを受けて、日銀は利上げ見送りを決定

FRBと同様、日銀は3月会合で金融政策の現状維持を決定し、政策金利を0.75%に据え置いた。日銀も3月会合後の声明文において地政学的リスクに明確に言及し、「リスク要因としては、今後の中東情勢の展開」などがあると指摘した。日米両国の中央銀行とも政策金利を据え置いたが、日銀による声明のトーンはFRBよりもタカ派的と受け止められている可能性がある。FOMCで反対票を投じた1名の理事は利下げを支持していたが、日銀の場合は反対票を投じたのがタカ派として知られる高田委員で、政策金利を0.25%引き上げて1%とすることを支持していた。

また、日銀がインフレリスクについて発したシグナルは、FRBよりもかなり強く、明確なものであった。日銀の声明では、CPI(消費者物価指数)の前年比は外的なコストプッシュ要因である「足もとの原油価格上昇の影響がプラス幅を拡大する方向に作用する」との見方が具体的に示された。日銀による1月時点の「展望レポート」では賃金上昇と物価上昇の好循環の強まりに焦点が置かれていたが、今回の声明は物価上昇見通しに関する論調をかなり強めたものとなっている。

日銀は1月の展望レポートと同様に、見通し期間の終わりにはCPI上昇率が「物価安定の目標と概ね整合的な水準で推移する」との見方を改めて示す一方、「原油価格上昇が基調的な物価上昇率の見通しに及ぼす影響についても、留意が必要である」と注意を促した。また、よりはっきりと、インフレ期待は「緩やか」ながら上昇しているとも指摘した。

FRBと同じように、日銀は政策反応関数に関する主な文言には変更を加えなかった。しかし、FRBとは異なる点として、日銀は「見通しが実現していくとすれば」政策金利を引き上げるとの姿勢を引き続き示している。

この声明を分析して読み解くと、日銀の金融政策姿勢が引き締め方向に傾いた要因は、ガイダンスに変更があったからではなく、重視するデータの動向を受けたものであることが窺える。以前から当社は、輸入物価上昇を受けて日本の交易条件が大幅に悪化するリスクや、日銀が政策調整で後手に回るリスクを指摘してきた。日銀の3月会合の声明では、利上げペースの加速を示唆するまでには至っていないながら、これらのリスクと方向性は一致する見方が示されている。

会合後の記者会見で植田総裁は金融政策の文脈において、交易条件悪化のリスクと円安が輸入物価上昇圧力を強める可能性について言及した。筆者が別のレポートで取り上げた通り、これら2つは外的要因がもたらす脆弱性であり、日本の実質経済成長率に悪影響を及ぼすリスク要因である。いずれも日銀によるリスク評価のなかで特定されており、これらの要因を認識していることで、日銀のインフレ対応に対する市場参加者の信認は高まる可能性がある。植田総裁が記者会見で「物価の上振れリスクを指摘する委員が若干多かった」と発言したのには、こうした背景もあった。

さらに、植田総裁は消費者物価指数のコア指標を拡充していく考えを示した。足もとにおいて短期的な物価上昇の波及経路となってきた生鮮食品やエネルギーなどの変動性の高い品目はすでに除外されているが、それに加えて電気・ガス代の負担緩和策、高校授業料や小学校給食費の無償化などの政府の物価高対策によって人為的に押し下げられている項目についても調整することを検討している。他のすべての条件が同じであれば、こうした新たな措置により、日銀は消費者物価が短期的に下振れするなかでも、利上げペースの加速を正当化しやすくなる可能性がある。