本稿は2026年6月16日発行の英語レポート「BOJ: reaction function in focus as transition risk lingers」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
日銀は6月16日、広く予想されていた通り、政策金利である無担保コール翌日物レートの誘導目標を0.25%引き上げ、1995年以来最も高い水準となる1.00%とした。利上げ自体は事前に十分に示唆されており、市場にも織り込まれていた。
利上げの一方でテーパリングは一時停止:今日のタカ派色は今後後退か
また日銀は、国債の月間買入れ額を2027年3月まで減らすものの、その後は月額約2兆円の水準を維持するとの方針を示した。これは、量的引き締めの終了を示すシグナルというよりは、日銀によるテーパリング(国債買入れの縮小)の一時停止を事前に発表したものと言える。日銀が保有する国債において満期を迎える額が月間2兆円の買入れ額を上回る可能性があるため、保有残高は(積極的に売却するのではなく満期を迎えた分を再投資しないという)「受動的縮小」を通じて依然縮小する可能性がある。しかし、この動きは、最近利回りの上昇が見られた超長期国債をサポートする「安全弁」としての役割を果たすかもしれない。一方、フォワード・ガイダンスでは正常化の意向が維持されており、経済や物価、金融情勢に応じて利上げを行っていく姿勢を引き続き示している。同時に、タイミングとペースが強調されたことは、市場に対する緊急性ではなく漸進性を示唆している。
主要な反対意見が示すやや複雑なシグナル
まとめると、日銀の今回の政策決定は金融緩和解除の継続を支持するもので、政策金利は依然上昇方向にあり、バランスシートの縮小も徐々に進んでいく見通しだ。しかし、金融正常化のペースについては、内部で議論が交わされている模様である。今回の利上げは7対1の賛成多数で決定されたが、新任の浅田統一郎審議委員が反対票を投じたことは、ハト派的と解釈される可能性がある。一方、田村直樹委員は国債買入れ計画の変更に反対票を投じたが、これはタカ派的と受けとめられる可能性がある。
チャート1:日銀のバランスシートの推移(円ベース)

出所:日本銀行の情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
マクロ面の信頼性:市場との対話が引き続き極めて重要
日銀の今回の措置は全体としてインフレと闘う姿勢を強めるものだが、より長期的なコミットメントについては疑問が残る。前述の通り、日銀の政策は引き続き金融緩和引き揚げの方向を示している。しかし、テーパリングの一時停止が最終的に同中銀による政府債務のマネタイゼーション(政府の発行する国債を中央銀行が通貨を発行して直接引き受けること)に向けた一歩と解釈されるかどうかは、まだわからない。
日銀のより長期的な政策反応関数(経済指標の変化に対して中央銀行が政策金利を調整する度合い)は、特にインフレが上振れした場合、引き続き主な不確実性要因である。これは同中銀も公式発言のなかでリスクと認めている。結果として、市場は日銀の決意のほどを試し続ける可能性があり、超長期国債にとってはまだ安泰とは言えない状況だ。
チャート2:日経平均株価およびTOPIX(2024年3月19日のドル円レートを基準として指数化)とドル円レートの動向比較

出所:Macrobondの情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
注:日銀がマイナス金利政策を終了した2024年3月19日時点のドル円レートを基準として日経平均株価とTOPIXの両方を指数化すると、同日以降にリスク許容度が円安の度合いを超えて上昇していることがわかる。
円相場と株式:メイン・テーマは依然としてキャリー
日銀の利上げ発表後に日本株が急騰したことは、0.25%の利上げではリスク志向を抑制するのに不十分であることを示唆している。同様に、ドル円相場は本稿執筆時点で1ドル=160円近辺と鈍い反応しか示しておらず、ドルが貿易加重指数(DXY)ベースで下落したのとは著しい対照をなしている。
ドル円レートと原油価格の並行した上昇は、つい最近まで、ペトロダラー(原油決済通貨としてのドル)への需要の高まり(一種のリスク回避シグナル)を反映しているとみられていた。こうした背景に照らすと、現在の相場動向は、ドル円レートをめぐる市場の通説に何らかの矛盾があることを示唆している。しかし、明らかなのは、リスク許容度が依然として高くキャリー取引が主流であり続けていることだ。
チャート3:日本と米国の政策金利の推移

出所:日本銀行および米FRB(連邦準備制度理事会)の情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
FRBからのシグナルに注目
米FRB(連邦準備制度理事会)の政策が短期的な焦点の1つであることに変わりはなく、市場は同様に次のFOMC(連邦公開市場委員会)会合の先を見越した政策反応関数を測ろうとし、一方でケビン・ウォーシュ新議長のメッセージを読み解こうともするだろう。イラン・米国間の紛争が交渉による解決に至る可能性は原油価格からの圧力を当面和らげるかもしれないが、過去の供給混乱からの影響が遅れて現れる可能性は依然残っている。これによりインフレ見通しが複雑化することで、中央銀行がインフレへの警戒姿勢を解くことは難しくなるかもしれない。
