大型株指数の動向は、常に構成比率の最も大きい一連の銘柄に左右されてきた。今日異なっているのは、その影響の度合いである。市場の集中度は(特に米国において)ここ数十年見られたことのない極端な水準に達しており、「市場を保有する」ことはもはや幅広い分散投資を意味しなくなっている。これとは対照的に、日本は依然として幅広い市場構造を提供している。
市場の集中:サイクルの初期の特徴か、それとも分散投資リスクか
市場の集中がグローバル株式市場にとって問題であるかは、しばしば議論されるトピックである。1つの見方は、市場の集中が技術革新サイクルにおける集中投資期の自然な特徴である可能性だ。この解釈によれば、資本、インフラ、人材、販売網のアクセスを有する大企業が投資サイクル初期の構築フェーズを主導し、その後の創造的破壊、普及、再配分の基盤を築く。
上述した内容は、イノベーションが経済発展の主要な原動力であるとするシュンペーター的イノベーション観と概ね一致している。この見解によれば、技術の進歩は集中投資と市場でのリーダーシップから始まり、その後、競争、採用、生産性の普及という一連の過程を経て利益が経済全体へと広がっていく(図1参照)。
図1:イノベーション・サイクルにおける全要素生産性の推移のイメージ

出所:アモーヴァ・アセットマネジメント
しかし、市場の集中化は、イノベーション・サイクルにおける役割にかかわらず、投資家にとって依然課題となり得る。例えば、指数の集中化はポートフォリオ運用において実務的な問題を引き起こす。 時価総額加重型指数を通じて市場全体へのエクスポージャーを求める投資家は、必然的にその指数に内在する集中リスクを受け入れることになる。集中度が高まるにつれ、「市場を保有する」ということは、構成比率の高い企業やビジネスモデルというより狭い範囲の保有を意味するようになる。したがって、市場の集中度を経時的に測定することで各市場の分散リスクを評価するのは有益と言える。
現在の集中度は極端な水準
当社では、市場の集中度を算出するのにハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を用いている。株価指数において構成比率上位の銘柄にどれだけの比重が集中しているかを捉えることができるこの指標は、代表する地域や構成銘柄群が異なる指数のあいだでの比較が可能であるため利便性が高い。
S&P500指数は集中が急激に進んでおり、足元ではITバブル期のピークを大幅に上回っている。同指数のHHIは36年ぶりの高水準と、集中度がITバブルの最盛期のほぼ2倍に達している。
S&P500指数の集中度が近年の歴史的極値にあることは明らかだが、集中度を地域間で比較することも有用である。チャート1では、ブルームバーグ500指数(構成銘柄の構成比率のデータが一貫しているS&P500の代替指数)のHHIを、日本株式市場を幅広く代表しているTOPIXのHHIと比較して示している。これを見ると、TOPIXの集中度はわずかに上昇しているものの、依然として近年のレンジ内に収まっており、さらに(デフレに苦しむ日本市場において、通信やモバイル・インターネット、テクノロジー関連の銘柄が狭い範囲ながら景気回復を牽引していた)2000年代の好景気期における集中度を大幅に下回っている。
チャート1:ブルームバーグ500指数(S&P500指数の代替)およびTOPIXのHHI

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
S&P500指数の実効銘柄数は急速に減少
HHIを用いると「実効銘柄数」、つまり市場加重指数と同程度の分散効果を得るために必要な均等加重銘柄数を算出することもできる。
S&P500指数は実効銘柄数が過去最低の約45~50銘柄にまで減少しており、これは同指数の分散特性が500という表向きの構成銘柄数が示唆するよりもはるかに小さいことを意味している(チャート2参照)。
一方、TOPIXも実効銘柄数が減少しているものの、足元の水準は(2000年初頭の56銘柄未満と比較して)105~110銘柄程度と、S&P500指数よりも幅広くバランスの取れた市場構造を示唆している。
チャート2:S&P500指数およびTOPIXの実効銘柄数

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
分散性が相対的に高い日本市場の価値が報われる可能性
米国株式市場で少数の有力なプラットフォーム企業やAIインフラ企業への集中が進む一方で、日本市場は依然としてより分散された構成を維持している。
もちろん、現在市場を牽引となっている銘柄の極めて高いバリュエーションは、足元で継続中の設備投資サイクルの恩恵を主に享受できる企業としての地位を反映しているとみられる。しかし、過去を振り返ってみると、イノベーションを原動力とする投資の恩恵が経済全体にわたって波及するには時間がかかるものだ。米国では生産性の向上がまだ広く浸透していない可能性があり、また創造的破壊と再配分の両段階を経るのはまだこれからである可能性もある。
対照的に、日本市場の集中度が低めであることは、成長の幅広い浸透がすでに進んでいることを示唆しているのかもしれない。これは、日本経済が漸進的ながら30年ぶりにリフレ化し生産能力を拡大しつつある重要な局面にあることを考えると、特に重要な意味を持つと言える。
となると、問題は集中化が本質的に悪いのか良いのかということではなく、現在の集中レベルがサイクルの初期段階、つまり将来的により幅広い生産性の向上と革新的な技術の普及が必要となる段階にあることを示しているのかどうか、ということだ。
もしそうなのであれば、そして市場が今日の集中を(競合他社を寄せ付けない「競争優位性」によって守られる)持続的な経済的利益の兆候として株価に織り込んでいるのであれば、そのような想定は楽観的すぎるという結果になるリスクがある。集中度の高い市場は、イノベーションの恩恵が経済全体に十分に波及する前に、市場の混乱を通じて株価の調整が起こる必要があるかもしれない。
