本稿は2026年10月1日発行の英語レポート「September Tankan: broad recovery intact; shifting allocations in focus」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

概観

日銀が10月1日に公表した9月の「全国企業短期経済観測調査(短観)」では、製造業の景況感に企業規模を問わず幅広い回復が見られた。製造業の業況判断指数(DI)は大企業で6月のプラス22からプラス24へと改善し、中堅企業でも6ポイント、中小企業でも5ポイントそれぞれ回復した。川上部門からのコスト圧力が続いているにもかかわらず景況感の回復が広がったことは、経済活動の変化を示す重要なシグナルであり、金融政策正常化のペースを加速させるとした日銀の最近の決定とも整合している。一方、6月にプラス37へ上昇した大企業非製造業のDIは、プラス35へと低下した。これは、コスト上昇分の価格転嫁の影響を特に受けやすい業種について、一定の注意を要する可能性を示している。ただし、1四半期の低下は、それだけで必ずしも傾向を示すわけではなく、したがって政策運営における同指標の解釈が変わるとは考えにくい。

先行き業況判断DI

9月のDIを「最近」と「先行き」で比較してみると、景気が当面やや鈍化することを示唆している。一方で、先行きDIの6月分との比較は(対象四半期は異なるものの)見通しが若干改善していることを示しており、例えば中小企業製造業の先行きDIはプラス2からプラス12へと上昇している。これらの見方は矛盾しているわけではなく、企業は景気が現状から鈍化すると依然見込んでいるが、6月時点ほどは先行きを悲観してはいないということを表している。

企業利益

全規模・全産業の経常利益成長率見通しは、6月時点の-6.5%から2.2%へと大幅に上方修正された。ただし、経常利益は製造業では健全な二桁成長(11.6%)が見込まれているものの、非製造業では減益(-4.5%)が予想されており、この乖離には注意を払っていく必要がある。さらに、足元の2026年度売上高経常利益率見通しは、6月時点の見通しからは改善したものの、依然として2025年度の比率を若干下回っている。重要なのは、利益見通しの上方修正を経済全体にわたる利益率の拡大と解釈すべきではないという点で、企業利益の改善はまだ景況感の改善ほどの広がりを見せていない。

設備投資

設備投資指標もまちまちの動きとなり、ソフトウェア・研究開発投資額を除く大企業の設備投資計画が11.3%増へ下方修正される一方、ソフトウェア・研究開発を含む(ただし土地投資を除く)より広義の設備投資指標は上方修正され、2026年度の全規模・全産業で9.3%増(うち非製造業は11.8%増)が見込まれている。

設備投資計画の構成を見てみると、大企業製造業のソフトウェア投資計画は6月から鈍化したものの、前年比でなお9.2%の伸びを示している。一方、中小企業非製造業では、ソフトウェア・研究開発への投資意欲は強いものの、ソフトウェアと研究開発を含む(ただし土地を除く)合計投資額の指標は依然として前年の水準を下回っている。

前四半期に当社が主に注目した分野は、投資資金の配分であった。特に6月の短観では、設備投資の意向が海外から国内へ移ったことが明確に示されたからだ。9月の短観でも引き続きやや国内志向が示されたが、海外投資も名目額ではなお増加が見込まれている。ただし、6月の調査で明らかに見られた海外投資比率の前四半期からの低下は、9月にはそれ以上進まなかった。海外投資のサイクルは、海外での収益を追加の再投資に回す意欲が円安を受けて若干後退する局面に来ているのかもしれない。一方、海外での収益そのものは堅調な増加を示すシグナルが続いている。

想定為替レート

大企業製造業の輸出企業は、年度下期のドル円レートを1ドル=153.45円と想定している。ドル円相場がこの水準よりも円安になれば、海外での収益を海外に再投資するよりも国内に向ける傾向がやや強まり得る。一方で、当該水準よりも円高に振れたとしても、特に金融引き締めの度合いが相対的に強い海外市場で需要が抑制されるとすれば、円高が大企業製造業で売上高を減少に転じさせる主な要因になるとの明確な証拠はない。

労働、物価、金融環境

労働市場では人手不足が引き続き顕著であり、雇用人員判断DIによると、その不足感は全般的に強まっている。人手不足は、省力化投資への意欲を持続させるが、(労働と資本の組み合わせによる)生産性が向上しない限り、増収が必ずしも利益率の改善にはつながらない一因ともなる。一方、大企業製造業ではコスト圧力が前四半期比でやや和らいだ模様で、仕入価格DIが6月のプラス62からプラス59へと低下し、仕入価格が上昇したと回答した企業の割合が、下落したと回答した企業の割合を上回っているものの、その差が縮小したことを示した。加えて、同DIはプラス59からプラス55へとさらなる低下が見込まれている。ただし、大企業製造業の販売価格DIはプラス40と、前四半期から横ばいとなっている。中小企業は販売価格の上昇を見込んでおり、時間差はあるものの、コスト上昇分の価格転嫁が広がっていることと整合している。借入コストは上昇の兆候を見せているが、金融環境は依然として緩和的と受け止められており、日銀の最近の政策声明とも一致している。

日銀政策への示唆

9月の短観は総じて、日銀が金融緩和の解除を段階的に、かつ経済指標に基づいて進めていること、そしてインフレへの警戒を強めていることと整合している。景気の底堅さ、仕入コストの時間差を伴う価格転嫁、慢性的な労働供給不足は、インフレ圧力がなお続くことを示唆している。短観は、景気が底堅く、これまでの段階的な緩和解除が足かせとなっている様子はないことを示している。