本稿は2026年4月16日発行の英語レポート「Lost in the noise: Japan’s quiet progress on growth and capital efficiency」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
武力紛争の陰で見過ごされている好悪両材料
世界のニュースでは中東の危機が引き続き席巻している。紛争が発生して以来、日本株市場は圧力に晒されているが、この一因は年初2ヶ月に見られた力強い上昇基調(3月27日終値時点でもTOPIXの年初来リターンは+7.06%)を受けた利益確定売りにある。こうした動きは日本に限ったものではなく、市場センチメントは世界的に軟化している。結果として、通常であればメディアの大きな関心を集めるはずの出来事が、好材料であれ悪材料であれ、地政学的なニュースの影に隠れてあまり注目されていない。
このような環境下、あらためて思い起こしておきたいのは、つい最近、高市首相率いる自由民主党の衆議院解散総選挙における圧勝が、政局の気運と安定を象徴するイメージと共に欧米メディアで大きく報じられたことだ。衆議院で3分の2を超える圧倒的多数を確保したことで、現政権は並外れて強力な支持を獲得しており、構造改革の推進や優先政策の実行が一層やりやすくなっている。こうした政治的環境は、地政学的事象を受けて一時的に影が薄くなっているとはいえ、日本の中期的な投資見通しの要素として依然重要であり、過小評価されていると言える。
日本の戦略17分野で優先される重点技術・製品
日本の国家主導の成長戦略は、2025年11月に初めて発表された17の重点戦略分野(チャート1参照)を中心に構成されている。政府はその後、枠組みの策定から実行へと段階を移行し、高市首相の経済政策の下、官民共同投資の優先対象として全17分野にわたり61の製品・技術を正式に選定した。この選定リストは3月10日に開かれた「日本成長戦略会議」で確定し、官民投資の取り組みが具体的に加速していくことを示した。
この61項目のなかから、政府は、先行して投資を実施する分野として、初期ロードマップで優先する27の製品・技術をさらに絞り込んだ。61項目の製品・技術の選定は、国家のレジリエンス(難局における耐久力・回復力)の向上とイノベーション(改革)主導型経済成長の推進に向けた取り組みとして、以下の通り表明された3つの視点に基づいて行われた。
経済安全保障(国内リスク低減の必要性)
海外での成長(海外市場の獲得可能性)
製品の革新(関係技術の革新性)
株式の投資家にとっては、以下のようなテーマが注目される。
AIロボティクス(「フィジカルAI」)と半導体。2040年までに世界のAIロボティクス市場で3割超のシェアを獲得するとともに国内で生産される半導体の売上高を40兆円(約2,650億米ドル)へ拡大することを目標としており、自動化や部品、半導体チップ、設備機器への設備投資の先行きが見通しやすくなっている。
データプラットフォーム、サイバーセキュリティ、政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、調達に裏打ちされた安定した需要をもたらす。デュアルユース・ドローンや無人システムは、量産化と輸出の可能性から恩恵を受ける。
ペロブスカイト太陽電池、水素、グリーンスチール、永久磁石といったグリーントランスフォーメーション(GX)分野は、脱炭素化とサプライチェーン安全保障を支える。
政府は具体的な投資目標を盛り込んだロードマップを夏までに策定する予定である。
チャート1:日本の戦略17分野における最優先項目(初期ロードマップの27項目)

出所:日本政府の資料に基づいてアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
*順不同
「現金こそ最強」、しかしコーポレート・ガバナンスが新たな段階に入るのに伴い機会は「行動」に
地政学的緊張に起因する市場の不透明感を受けて、投資資金はベータ値が低めのディフェンシブ・セクターへと向かっている。ボラティリティの高まった環境下、キャッシュは明らかに最も有利で下方リスクに対しプロテクションの役割を果たすが、その価値は、アイドリング状態に置かれるのではなく生産的に活用されて初めて実現される。TOPIX構成企業のおよそ3分の1は依然として株価がPBR(株価純資産倍率)1倍を下回る水準で推移しており、市場にはまだ多くの価値が眠っている。
こうした懸念は、政策レベルでもますます認識されつつある。日本の片山財務大臣は、1月のダボス会議で登壇し、日本経済における資本配分の非効率性という問題と、この課題に対処するためのコーポレートガバナンス・コード改訂の必要性を強調した(内部留保の水準が高い「キャッシュリッチ」企業に関する詳細については、筆者の近著「Japan equities: mobilising cash as a dominant strategy」を参照)。
そのような変化を反映し、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の第2回会合が2月26日に開催された。これは同コードにとって、2015年の導入以来3度目の改訂となる。
今回の改訂は特に重要なものになるとみられている。原則数の整理が進められ、現在の83項目がおよそ半数に削減されて明確さと実効性の改善が図られる見通しだ。さらに、企業がガバナンス方針を策定・実施するにあたっての実践的な基準となる「解釈指針」が新設される予定である。
チャート2:TOPIX構成企業のPBR分布

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2026年3月26日現在)
こうした背景から、余剰資金の活用は検討すべき重要な変更点の一つになると予想される。
「取締役会は、自社の経営戦略や経営計画を踏まえ、持続的成長と中長期的な企業価値の向上に繋げるために適切なリスクテイクとなる経営資源の配分が実現されるよう、現預金を投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきである。」(「コーポレートガバナンス・コード改訂案」16ページ、原則4‐2「取締役会の役割・責務」解釈指針)
これは、キャッシュリッチな日本企業に単に株主還元を増やすよう奨励することを意味しているわけではない。むしろ、より重要な変化は、現金の活用、つまりどの程度の現金をいつ、どのような目的で、どのような論理に基づいて活用するかといった点について、透明性が向上すると期待されていることだ。透明性の向上は、延いては市場の規律の強化につながり、企業と株主間でのより建設的な対話を促進していくと考えられる。
実際、このような変化を促している要因はコーポレート・ガバナンス改革だけではない。日本がデフレ環境から持続的なインフレ環境へと移行したことも、企業のバランスシートに圧力をもたらしている。現在のようなインフレ環境下では、余剰資金の保有は実質利益のマイナス化や企業価値の毀損につながるからだ。
こうした背景から、当社では、単に株主への還元にとどまらず、余剰資金を将来への投資により規律立った戦略的な方法で活用することで積極的に価値創造に取り組む日本企業が増えていく、と予想している。