本稿は2026年8月12日発行の英語レポート「Japan’s Growth Strategy: a powerful tailwind for equities and active investing」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
日本政府の「成長戦略」は、2040年度までに主要戦略産業で370兆円超の投資を行うことを目指している。これらの施策は、コーポレート・ガバナンスや資本配分における改革と相まって、企業収益の伸びを支え市場機会を拡大し、日本株にとって強力な追い風になると期待される。
2026年、日本の株式市場は過去最高値を更新し、日経平均株価が一時7万円を突破するとともにTOPIXも新高値を記録した。この上昇相場は、日本の企業収益見通し、企業改革および政策の方向性に対する投資家の信頼が回復したこと、そしてAIの恩恵を受けるとみられる企業への注目が高まっていることを反映している。
こうした背景のなか、政府は7月21日に待望の「成長戦略」(以下「本戦略」)を発表したが、これは、ワールドカップの終了に伴い、投資家の関心を日本の経済・市場で見込まれる機会にあらためて向けさせるのに絶好のタイミングだったと言える。
本戦略が目指すのは、大規模な官民投資・イノベーション(革新)・構造改革を通じて、経済を投資主導型の成長モデルへと転換することだ。政府が特定した17の戦略的成長分野と62の重点製品・技術には、AI(人工知能)や半導体、デジタル・インフラ、ロボティクス、ヘルスケア、エネルギー転換、航空宇宙、素材、コンテンツ産業などが含まれる。
これらの分野では、2040年度までに370兆円(およそ2.35兆米ドル相当)超の官民投資が行われる見込みとなっている(図表1参照)。
図表1:日本が特定した戦略的重点分野

* 官民両部門の投資を含む。投資額は2026年から2040年までの累積投資額。対象期間はカテゴリーごとに異なり、推計値は今後修正される可能性がある。
出所:日本政府の公表した文書に基づきアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
本戦略により、2040年度までに年間推定230兆円の民間国内設備投資と1,100兆円に迫る名目GDPの創出が予想されている1。これを達成するため、政府は新たな投資枠組みの導入、複数年にわたる政策支援、官民連携の強化、民間資本動員策を実施する予定である。
AI関連機会へのアクティブ投資
AI関連の投資機会が一部の超大型テクノロジー銘柄に集中している米国とは異なり、日本ではAIのバリューチェーン全体にわたって幅広い投資機会が存在している。例えば、2026年前半にはAIの恩恵を受ける数多くの銘柄が市場を牽引した(図表2参照)。本戦略により焦点が当たっている機会は、半導体からロボティクス、工場自動化、産業用機器、データセンター、サイバーセキュリティ、通信インフラ、ヘルスケア・テクノロジーにまでわたる。これらのセクターは、(「AIのつるはしとシャベル」と表現されることも多い)AI構築に必要なインフラを供給する上での日本の競争優位性を反映しており、恩恵を受け得る企業群を株式市場全体にわたってはるかに幅広く生み出している。
図表2:2026年前半におけるTOPIXのパフォーマンス上位25銘柄

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2026年6月30日現在)
上昇銘柄の幅広さからも、今年の日本株式市場上昇の要因が単にマクロ経済や為替の動向にとどまらないことがわかるが、これは、AIや自動化、デジタル・インフラに関連して投資家の見出す企業固有の投資機会が増えていることを示している。
7月にはAI関連株が乱高下を見せたが、当社の見解では、この調整局面こそがアクティブ投資の価値を浮き彫りにしている。ファンダメンタルズの見通しがまだ株価に十分に反映されていない銘柄もあれば、調整局面で売られすぎた可能性のある銘柄もある。半導体からロボティクス、自動化、デジタル・インフラにわたる日本の広範なAIエコシステムにおいて、アクティブ運用者はそうしたバリュエーションの乖離を活かして過小評価されている長期的な勝者を見極めることができる、と当社では考えている。
新たな「成長投資ガイダンス」
本戦略はさらに、起業の促進、金融市場の発展、労働生産性の向上、賃金の伸び、STEM(科学・技術・工学・数学)教育および労働力改革を通じて、長年にわたる構造的な課題の解決を目指している。重要な点として、本戦略は、(7月21日に最終版が公表された)改訂版コーポレート・ガバナンス・コードで強調された措置を含め、成長志向のコーポレート・ガバナンスを明確に促進するものだ。さらに、本戦略とともに、投資拡大と資本配分効率化の促進を目的とする新たな「成長投資ガイダンス2」(以下「本ガイダンス」)も公表されている。
経済産業省がまとめた本ガイダンスでは、価値創造と資本配分を評価するための主要な枠組みとして、企業が創出した経済的価値(資本コスト控除後)の尺度である「エコノミック・プロフィット(EP)」をあらためて重視している。
本ガイダンスは、日本の次の段階における価値創造は、単なる株主還元額の増加ではなく、成長機会への資本再配分によってもたらされるべきであるとしている。また、日本企業は収益性や株主還元において著しい進展を遂げたものの、将来の成長に向けた投資は不十分であったとも述べている。2013年度から2024年度にかけて、企業の利益はほぼ倍増してTOPIX500構成企業の内部留保は55兆円から118兆円へと拡大し、増配や自社株買いを通じて株主還元も大幅に増加した(図表3参照)。
図表3:日本企業の収益性と株主還元は改善

出所:経済産業省「成長投資ガイダンス データ集3」をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
しかし、日本企業の設備投資、研究・開発および人的資本への支出は、米国や欧州の同業他社に比べて依然相対的に低い水準にとどまっている。「成長投資ガイダンス データ集」によると、日本のROE(自己資本利益率)は2024年時点で9.4%へと改善したものの、米国の20.9%を大幅に下回り続けている。これは利益率と財務レバレッジの低さを反映している(チャート1参照)が、その主な理由の1つとして挙げられるのが企業のバランスシートにおける内部留保の高さだ。本ガイダンスによると、2023年度のデータでは、日本企業は売上高に占める成長投資の割合(17.7%)が米国(29.4%)や欧州(27.2%)の企業に比べて低く、特に研究・開発および人的資本への投資においてその差が顕著となっている。
チャート1:利益率拡大および資本効率向上の可能性が日本企業に機会をもたらす

出所:経済産業省の資料をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2024年現在)
本ガイダンスは、改訂版コーポレート・ガバナンス・コードとともに、企業に対して資本配分の改善、生産性の向上、イノベーションへの投資、競争力の強化を促している。政府は収益性の向上、企業価値を毀損する事業セグメントの縮小、高収益分野への投資拡大に大きな余地を見出している。
まとめ
当社では、今回の新たな一連の発表を含む本戦略が、日本の株式市場全体にとって追い風になると考えている。本戦略は設備投資の拡大と企業収益の成長加速を促すと期待され、また研究・開発費の拡大や幅広いセクターにわたる生産性向上も見込まれる。
少数の産業セクターに集中していた従来の成長策とは対照的に、17の戦略分野に重点を置いている本戦略は、テクノロジー、資本財・サービス、機械、ヘルスケア、素材、エネルギー、金融、インフラといった幅広い分野で投資機会を生み出すだろう。
トップダウンの政策支援とボトムアップの企業行動との相乗効果は、特に強力だと言える。政府の取り組みが投資への枠組みとインセンティブを提供する一方、改訂版コーポレート・ガバナンス・コードや新たな成長投資ガイダンスを通じて、企業は内部留保の再投資、事業ポートフォリオの最適化、そして価値創造に向けた高収益成長機会の追求をますます促されている。
したがって、当社では、こうした日本政府の総合戦略が、同国の成長ドライバーを(AIおよびそれ以外の分野の両方で)拡大させ同国の株式市場全体に有意義かつ長期的な追い風をもたらす可能性を秘めていると考える。
個別銘柄への言及は例示のみを目的としており、当該戦略で運用するポートフォリオでの保有継続を保証するものではなく、また売買を推奨するものでもありません。
1https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/nipponseichosenryaku/pdf/jgs2026.pdf
2https://www.meti.go.jp/press/2026/07/20260721001.html
3https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/value_creation/pdf/20260721_guidance_04.pdf