本稿は2026年8月25日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
投資環境概観
7月のグローバル株式市場はまちまちなパフォーマンスを示し、MSCI All Country World インデックスは前月末比で横這いとなった(米ドル・ベース)。AI(人工知能)投資サイクルにおけるリターンの持続性をめぐる懸念が再燃するなか、何ヵ月間にもわたって好調だったAIトレードの巻き戻しが進み、テクノロジー・セクターの比重が大きい株価指数は米国も含めてパフォーマンスが劣後した。対照的に、エネルギーや金融セクターは相対的に堅調に推移した。当月は米国とイランのあいだの緊張が再び高まったことを受けて、エネルギー価格が上昇し、米FRB連邦準備制度理事会)の政策見通しの不確実性が増すなか、最終的にFRBは政策金利の誘導目標レンジを3.50~3.75%に据え置いた。欧州株式は、経済活動データの改善や企業収益の好調に支えられ、相対的に堅調に推移した。また、ユーロ圏の第2四半期GDP成長率(速報値)は0.4%へと加速し、6月のインフレ率は前年同月比2.8%へと鈍化した。アジアの株式市場は明暗が分かれ、アセアン、中国、香港市場が大きく上昇する一方、半導体製造サプライチェーン関連銘柄の比重が大きい韓国と台湾市場は急落した。
債券市場に目を向けると、7月は世界的に国債が下落する展開となり、先進国では軒並み金利が上昇した。米国債利回りは、雇用統計の底堅さや中東の緊張再燃、金融政策期待の変化などが重なり、当月を通して上昇基調が続いた。米国のCPI(消費者物価指数)が市場予想を下回る結果となったことは、一時的ながら追い風となった。FRBは大方の予想通り政策金利の現状維持を決定した。ただし、投票権を持つ12名のメンバーのうち3名が0.25%の利上げを主張して反対票を投じるなど、FRBの今後の政策見通しが不透明であることが浮き彫りになり、月末にかけて再び金利が上昇した。月末の米国債利回り水準は2年物の指標銘柄で前月末比0.12%上昇の4.29%、10年物の指標銘柄で同0.27%上昇の4.74%となった。
伝統的な株式や債券以外の市場においては、2月から下落基調が続いてきた金価格が反発し、前月末比で1%上昇した。ホルムズ海峡をめぐる対立が長引くなか景気の先行きを見通し難い状況が続いているが、インフレ率の鈍化を受けてFRBの追加利上げ期待は低下した。押し目買いの動きが加速したことも金価格の下支えに寄与した。エネルギー価格についても、中東での対立再燃を受けて急騰し、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格の月間上昇率は21.8%に上った。投資家の注目は引き続き中東紛争の終結に向けた交渉の動きに集まっており、月末にかけてはやや反落する展開となった。リート(FTSE NAREIT Global Real Estate インデックス)は前月末比で2.7%上昇した。
クロス・アセット*
当月はグロース資産とディフェンシブ資産の両方のスコアを引き下げ、いずれも小幅なプラスとした。グロース資産のスコアを引き下げた背景には、米国・イラン間の対立再燃を受けて株式市場のボラティリティが高い状況が続いており、先行き見通しが再び悪化したことが挙げられる。さらに、市場で米国テクノロジー企業のフリーキャッシュフローの見通しをめぐる懸念が強まっていることも、米国株式市場がやや軟調に推移する要因となった。引き続き米国の企業収益は好調な伸びを示すとみているが、当面は主要テクノロジー企業の決算発表を控えていることから、様子見姿勢を維持し、大幅な増益の発表を確認した上で再び投資していくのが賢明だと考える。ディフェンシブ資産については、中東紛争の長期化を受けてインフレが加速しており、多くの中央銀行が利上げを迫られるとの見方を維持していることから、スコアを引き下げた。紛争が終結すればインフレの沈静化が促されるだろうが、停戦期間もつい最近終了を迎えたことから、コモディティ価格高が長期化してインフレ圧力が強まる可能性がある。しかし、スコアを引き下げたがディフェンシブ資産に対しては強気な姿勢を維持している。その主な理由としては、投資しやすい水準まで価格が調整した金に対して明るい見方をしていることが挙げられる。同様にソブリン債についても、債券利回りの上昇を受けて強気姿勢を維持する妥当性が高まっている。
グロース資産のなかでは、世界的に企業収益が引き続き好調に推移するとの見方から、先進国株式のスコアをプラスに維持した。また、米ドル高が進むとの見方から、新興国株式のスコアも小幅なプラスに維持した。コモディティ関連株については、中東紛争の行方が依然として非常に不透明で予断を許さないことから、スコアを中立に維持した。リートとインフラ投資については、他の資産クラスの方がリスク・リターン特性の魅力度が高いとの判断から、スコアをマイナスに据え置いている。
先進国株式のなかでは、AI関連の設備投資動向を牽引役としてテクノロジー企業の利益が大幅に伸びているなか、バリュエーションが魅力的な水準にある米国のスコアをプラスに維持した。同様に、カナダのスコアもプラスに維持している。カナダについては、より景気に敏感な金融や資源などのセクターの割合が大きく、世界的な景気拡大局面の恩恵を受けるとみられるほか、テクノロジー・セクターの割合が大きい米国株式からの分散効果も十分に期待できるとみている。バリュー株の比重が大きく、配当利回りが魅力的な水準にある英国はスコアをプラスに維持した。欧州とオーストラリアは、バリュエーションに割高感があるほか、中央銀行のタカ派姿勢がリスク資産への逆風となる可能性があることから、スコアをマイナスに維持した。シンガポールはバリュエーションが割高な水準にあることからスコアをマイナスに維持し、日本については、日銀がタカ派的な姿勢を示しているものの、企業収益が市場予想を上回る推移を見せていることからスコアを中立に維持した。
ハイイールド債と投資適格クレジットについては、いずれもスコアをマイナスに維持しているが、スプレッドの拡大を捉えてスコアの引き上げを検討していく方針である。ハイイールド債と投資適格クレジットのスコアをマイナスに維持した理由は割高なバリュエーションで、スプレッドが引き続き過去最低に迫るタイトな水準にあり、過去長年の間と異なり信用リスクに対して得られるリターンが乏しい。ソブリン債については、スコアを小幅なプラスに維持した。なお、選別的な姿勢を維持し、イールドカーブがよりスティープ化しており、ヘッジ後ベースの利回り水準が相対的に高い国を有望視している。新興国現地通貨建て債券は、利回りが依然割安な水準にあることから、スコアをプラスに維持した。金については、インフレの加速により逆風に晒される可能性があるものの、引き続き地政学的リスクに対する有効なヘッジ手段であるとみていることから、スコアをプラスに維持した。
ハイイールド債のなかでは、足元で利回りが改善している米国のスコアをプラスに引き上げる一方、他と比較して利回りの魅力が劣る欧州のスコアを引き下げた。投資適格クレジットにおいては、ヘッジ後ベースの利回り水準が相対的に魅力的ながら、信用スプレッドがタイトな水準にある欧州のスコアを小幅なプラスへと引き下げた。一方、足元では信用スプレッドが先進国のなかで最も広い水準で推移しているオーストラリアのスコアをプラスへと引き上げた。新興国現地通貨建て債券については、好調な景気や高水準の実質金利に支えられ、堅調なパフォーマンスを維持するとみられることから、スコアを小幅なプラスに維持した。先進国ソブリン債のなかでは、日本のスコアを小幅なプラスへと引き上げた。日本国債はイールドカーブのスティープ化が進んでおり、日銀が利上げを実施してもその影響を吸収できると期待される。また、インフレ期待の高まりを受けて、米国債のスコアを引き下げる一方、米国物価連動債のスコアを引き上げた。フランス国債については、イールドカーブがスティープ化しているなかヘッジ後ベースの利回りが依然魅力的な水準にあることから、スコアをプラスに維持した。
*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。
資産クラスの選好順位(2026年7月末時点)
注)上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。リサーチ・フレームワークは3 つの段階の分析に分かれています。スコアは、各資産に対する同チームの相対的見方(各資産が属する資産クラスの他の資産対比)を表しています。各資産クラス内のスコアは、コモディティを除き、平均すると中立となります。これらは投資リサーチまたは投資推奨助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。
当社の見方
グロース資産
中東で紛争が続くなかでも世界的な景気拡大が続いており、グロース資産は引き続き魅力的だと考える。交渉は進行中だがその行方は依然不透明で、足元では世界的にインフレ圧力が顕在化しつつあり、グロース資産にとっての逆風となる可能性がある。しかし、当面はAI関連の設備投資や世界経済の好調持続を背景に、引き続き企業収益が堅調に伸びていることから、グロース資産を有望視している。巨大IT企業によるAI設備投資が、世界中の様々なサプライチェーンにおける旺盛な需要の原動力となっており、企業の売上高や利益の押し上げに寄与している。企業の利益率は引き続き拡大しており、グロース資産への追い風となっている。また、米国の経済指標は底堅さを維持し、小売売上高が好調に推移するなか、労働市場も持ちこたえている。こうした流れなどを受けて、当初強まっていたスタグフレーション懸念は和らいだ。
中東情勢の動向については、先行きを見通す上で依然として極めて重要な要素となっており、引き続き注視している。停戦交渉は追い風となっているが、より恒久的な紛争解決の兆しが見られることがグローバル市場の好調維持に不可欠であると考えている。なお、紛争が長引き、それに伴うコモディティ価格上昇を受けて世界的に利上げが行われ、経済成長に急ブレーキがかかるリスクは存在する。足元では企業収益が引き続き好調な伸びを示していることから、リスク資産に対して強気な見方を維持している。
グロース資産に対する確信度の強い見解
- 米国株式のスコアをプラスに維持:設備投資ブームに沸くなか企業利益や業績見通しの底堅い推移が続く米国に対しては強気な見方を維持している。企業利益が大きく伸びていることからバリュエーションに割高感はなく、テクノロジーやヘルスケアのイノベーション(革新)を原動力とする長期的な成長トレンドから、米国株式を引き続き選好している。また、今後数年間でAI関連の設備投資が大幅に拡大していくなか、データセンターからのエネルギー需要の増加も追い風になるとみている。
- 英国株式を有望視:英国株式については、配当利回りが高く、相対的にベータ値が低い傾向にあるなど、ディフェンシブ特性を好感し、スコアをプラスに維持した。米国はテクノロジー・セクターの比重が大きいが、それに対して英国は金融、生活必需品、ヘルスケア、資本財・サービス、エネルギーなどのセクターが代表的で、分散効果をもたらす。
- 新興国株式のスコアをプラスに維持:新興国株式は、米国で続く好調な設備投資動向が追い風となっているなか、バリュエーションが魅力的な水準にあることから、引き続き有望視している。米ドル高の展開となれば逆風に直面する可能性があるものの、一部の地域は、AI設備投資や人口ボーナスといった長期的な成長テーマの恩恵を受けるとみられる。そのなかでも、AI関連の設備投資展開による長期的な成長トレンドへのエクスポージャーとして、半導体の主要サプライヤーでありテクノロジー・セクターの占める割合が大きい台湾を選好している。また、国内経済の力強い成長が見込まれるインドについても、有望視している。
- コモディティ関連株のスコアを中立に維持:中東紛争は緊張激化のピークが過ぎ去ったものの、その行方は依然不透明とみていることから、コモディティ関連株に対しては中立的な見方を維持している。足元では世界的な景気拡大局面にあり、AI関連設備投資を筆頭に世界的に旺盛な需要が続いていることは明るい兆しであるとみられる。コモディティ関連株は長期的にインフレに対して優れた分散効果を提供し続けるとみられるとともに、同セクターのファンダメンタルズは、景気循環的にも長期的にも依然有望である。
無視できない利益成長の勢い
現在進行中の決算発表シーズンは、利益と売上高がともに過去平均を大幅に上回るなど、株式市場の好調を裏付ける結果となっている。事前予想のハードルが高かったものの、これまでのところS&P500種株価指数の構成企業のうち利益上振れ企業の割合は87%と、過去平均の75%を大きく上回っており、また、売上高が上振れした企業の割合も69%と、過去平均の56%を上回っている(下チャート1参照)。このように企業業績は良好で、リセッション(景気後退)からの回復期を除くと過去数十年間でも群を抜いて好調な利益成長が見られており、当面の株式市場のリターンを支える土台は整っている。
チャート1:S&P500種指数は利益・売上高上振れ企業の割合が過去平均を上回る

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
今回の決算発表シーズンでは利益と売上高が上振れした企業の割合が大幅に上昇しているとともに、上振れ幅もかなり大きく、利益成長率は市場予想を約29%上回っている(チャート2参照)。同様に、売上高の上振れ幅は3.5%で、ここ数四半期と比べると良好な水準にある。そうした増収・増益の大部分がAI関連設備投資によるものである可能性はあるものの、経済全体が予想以上の底堅さを示してきていることも、企業の売上高と利益の好調な推移につながっている。
チャート2:S&P500種指数構成企業は市場予想を大幅に上回る増益を達成

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
また、企業業績データを見ると、金融セクターにおいて利益の上振れが大きく広がっているほか、ヘルスケアなどは利益上振れ企業の割合でテクノロジーをも上回る状況となっている。金融や資本財・サービスなどの景気敏感セクターも堅調であることが示すように、幅広い企業の利益が大幅な増益を達成しており、今や1つのセクターに依存した状況ではなくなっている(表1参照)。このように、企業利益が好調に推移していることから、地政学的情勢は先行き不透明な状況が続いているものの、株式市場は上昇に向かう可能性が高いとみられる。
表1:S&P500種指数では好業績がテクノロジー以外のセクターへも拡大中

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
ディフェンシブ資産
インフレ率が中央銀行の目標を上回る状況が続いており、多数の金融当局が利上げを迫られることになるとみられる。米国とイランの停戦が続くかは依然予断を許さない。原油価格が1バレル=88米ドルに迫る水準にあることは、そうした先行き不透明感を映し出している。ブルームバーグ商品指数が長期平均を上回る水準で推移し続けていることは、インフレの加速を示唆している。そうしたなか、イールドカーブのスティープ化が進んでいるフランスなどの国は、利上げが実施されて長短金利差が縮小する状況を乗り切る余力がより大きいとみられることから、引き続き有望視している。
7月には、米国と日本が異例の協調為替介入に踏み切り、円相場が4%程度上昇した。日本は恒常的に財政赤字が続いているほか、内外金利差が広がっており、日銀は利上げ加速に慎重であることから、円相場が介入後の水準をどれほど維持するかは依然不透明である。しかし、米国が円の防衛を支援している今、投資家は今後の為替介入を警戒する姿勢を強めている。米国が引き続き介入を行う場合、円相場は最近の上昇分を維持する可能性がより高まるだろう。
ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解
- 投資適格クレジットとハイイールド債のスコアをマイナスに維持:信用スプレッドは中東紛争を受けてボラティリティが高まっているものの、引き続き過去最低水準近辺で推移している。米国の景気は引き続き好調だが、スプレッドは歴史的に平均回帰性を示してきていることから、何らかの悪材料が出てくる場合にはスプレッドが拡大するものとみている。また、スプレッドがタイトな水準にあり、債券利回り上昇の影響を吸収できる余地がほぼないことからも、投資適格クレジットについては慎重な姿勢を継続し、デュレーションを短めに維持していく方針である。
- 日本国債のスコアを小幅なプラスへと引き上げ:円安進行を阻止するためには、日銀がより果敢に対応して利上げを加速させる必要があるとみているが、これまでのところ慎重な姿勢を示してきている。それを受けて、日本国債利回りは上昇傾向が続くと予想している。一方、現在ではイールドカーブのスティープ化が進んでおり、利上げが見込まれるなかでもキャピタルロスを吸収できるバッファーがもたらされていることから、10年物利回りが3%に到達した時点で強気な見方を強める可能性がある。
- 物価連動債のスコアをプラスに引き上げ:米国・イラン間の緊張状態が続くなか、原油価格が乱高下する展開が続いている。2025年終盤からのコモディティ高に加え、米国の経済成長も引き続き好調だ。こうした要因が強い追い風となり、インフレ圧力は続くとみている。また、米国物価連動債はオールイン利回りが投資適格クレジットよりも高く、魅力的な水準にあるとともに、物価上昇に対する防衛効果も発揮する。したがって、米国債のスコアを引き下げる一方で、インフレに対する防衛力強化と利回り水準の向上を目的として米国の短期物価連動債のスコアを引き上げた。
- 米ドルに対しては強気な姿勢:新FRB議長は前任者よりもタカ派的と見受けられ、インフレも根強いことから、米国では高金利が長期化して米ドルへの追い風になると予想している。また、米ドルを保有すればポートフォリオで分散効果を発揮するとともに、円、シンガポールドル、カナダドル、ユーロなどの通貨よりも良好なキャリーをもたらしてくれる。
立ち直りつつある金価格
金は2026年に入ってボラティリティが高まっている。2年間にわたって大幅に上昇してきたのち、金価格は年初時点で当社のバリュエーション・モデルによると割高な水準に達していたが、それでも1月には一時5,500米ドル/オンスに達し、史上最高値を更新した。しかし、それに続く巻き戻しも同様に急激だった。金利上昇に加え、米国・イラン間の紛争とそれに伴うエネルギー危機を受けて、各国中央銀行のタカ派的姿勢が強まり、金を保有することは分が悪くなった。また、複数の新興国の中央銀行は、燃料輸入費の捻出や自国通貨の防衛のために準備資産として保有する金の売却を迫られた。これらの要因が重なったことで、金価格の急落を招いた。
このエピソードが物語るように、金価格の動きを理解するには、モメンタム主導の資金フロー、金利動向に敏感に反応するマクロ重視のポジション、公的部門による長期的需要のあいだのバランスの変化に着目するのが最も効果的だとみられる。1月に訪れた前回の上昇相場を振り返ると、その最終局面を牽引したのは、それまでの大幅な上昇を受けて勢いに乗った個人投資家の買いであった。一方で、これまで金価格の最大の牽引役となってきたのはマクロ重視の投資家である。また、2008年の世界金融危機以来、世界各国の中央銀行も金市場での存在感が着実に高まってきている(チャート3参照)。2026年に入ってからは、金価格が割高な水準に達して公的部門からの需要が鈍化するなか、金利先高観が再び高まったことで金価格が大きく下落した。当面はボラティリティの高い状況が続くが、中央銀行からの需要、地政学的リスクに対するヘッジ、脱ドル化の動き、ポートフォリオにもたらす分散効果など、金にとって追い風となる長期的なテーマは引き続き有効である。
チャート3:世界全体の中央銀行金保有量の推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
金の先行きについては明るい見方をしている。年初にはバリュエーションの下押し圧力が極度に高まっていたが、最近の調整局面を経て投資妙味がより高まっている。中国やポーランドを筆頭に、新興国の大口の買い手はこの機会を捉えて購入量を増やしており、長期的な目標である外貨準備の分散を強化している。最近の地政学的緊張や政策の先行き不透明感は、そうした方針の正当性を強めているとも言える。米国による異例の政策手段、恒常的な財政赤字、持続不可能な債務状況を受けて、価値貯蔵手段としての米ドルの信認は低下し続けている。
さらに、中東での緊張が緩和されれば、インフレ圧力が弱まって中央銀行がタカ派的姿勢を弱める可能性もある。雇用統計も下振れする場合には尚更だろう。現時点において、金利上昇を受けて金価格に下押し圧力がかかるリスクは一段と限定的になっている。実際、7月には各国中央銀行が購入量を増やすなか、金価格が安定化し、実質金利動向の影響を受けにくくなった。したがって、短期的なモメンタムではなく長期的な構造的需要に注目し、金価格が弱含む局面を好機と捉えて、状況を見分けながら金を買い増していく姿勢が有効とみている。
チャート4:金価格と実質金利の推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
プロセス
リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:
