本稿は2026年9月30日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

8月のグローバル株式市場(MSCI All Country Worldインデックス)は、米ドル・ベースで前月末比2.6%上昇した。企業決算の好調を受けてAI(人工知能)ラリーが再開した。株式市場において超大型テクノロジー銘柄以外へも活発な取引が広がったことが追い風となった。また、ホルムズ海峡をめぐる対立再燃を受けて、エネルギー・セクターは相対的に堅調となった。米FRB(連邦準備制度理事会)は7月末に開催された会合で政策金利の誘導目標を据え置いたが、当月末に開催されたジャクソンホール会議におけるウォーシュFRB議長の講演は、市場の予想以上にタカ派色の強いものとなった(その後、FRBは9月会合で利上げを実施)。欧州株式も上昇した。決算発表シーズンの好調や経済成長率の底堅い推移が追い風となった。英国株式は前月末比で概ね横這いとなった。7月のインフレ率の加速や英国債利回りの上昇が株式市場の重石となったが、PMI(購買担当者景気指数)が底堅い推移を示したことなどを受けて、月末にかけて市場の不安は和らいだ。アジアでは、テクノロジー・セクターの比重が大きく、世界的なAIトレードの復調の恩恵を受けた韓国と台湾市場が上昇を牽引した。

債券市場に目を向けると、8月の米国債利回りは狭いレンジ内で推移した。米国では、月初に発表された雇用統計が市場予想を下回る内容となり、過去2ヵ月分の雇用者数も下方修正された。小売売上高が市場予想に反して前月末比で減少するなか、7月のインフレ率は概ね落ち着いた推移となった。債券利回りは概ねレンジ内での推移が続いたが、米財務省による長期国債の買い戻し上限額引き上げ発表を受けて、幾分動きが見られた。その後、市場の関心はジャクソンホール会議とウォーシュFRB議長の発言へと移った。そうしたなか、発表された経済指標が相次いで市場予想を上回る内容となったことを受けて、市場では早期利上げを織り込む動きが広がり、短期金利が上昇した。一方、中東情勢をめぐる緊張は継続しており、先行き不透明感が払拭されない状況が続いた。月末の米国債利回りは、2年物の指標銘柄で前月末比0.05%上昇の4.34%、10年物の指標銘柄で同0.015%上昇の4.75%となった。

伝統的な株式や債券以外の市場においては、金価格が前月末比で9.7%上昇した。米財務省が長期国債の買い戻し枠を拡大したことを受けて、借入コスト上昇をめぐる懸念が再燃し、米ドルに下落圧力がかかった。このことは、金需要への追い風となった。機関投資家からの関心の高まりや各国中央銀行からの需要継続も、金価格の下支え要因となった。しかし、ウォーシュFRB議長がジャクソンホール会議でインフレ抑制に取り組むと明言したことで、利上げ観測が高まり、月の後半には金価格の上昇がやや失速した。WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は前月末比で1.3%上昇した。米国・イラン間の対立やホルムズ海峡における船舶航行の混乱によって続く供給リスクが下支え要因となったが、世界最大の石油輸入国である中国からの原油需要低迷が足かせとなり、小幅な上昇にとどまった。リート(FTSE NAREIT Global Real Estateインデックス)は前月末比で3.0%下落した。

クロス・アセット*

当月は、グロース資産とディフェンシブ資産の両方のスコアを小幅なプラスに維持した。リスク資産に対しては明るい見方をしているものの、米国とイランの対立継続や、経済指標の市場予想を上回る好調な推移を受けてインフレ圧力が強まっており、引き続き株式市場のボラティリティが高まっていることは警戒している。なお、米国を中心とした企業収益の好調な伸びが、今後もグロース資産の追い風になると期待される。ディフェンシブ資産については、紛争の長期化を背景とするインフレの加速、複数の中央銀行が利上げを実施する可能性、足元におけるタイトな信用スプレッド水準などの影響を踏まえて、クレジットおよびハイイールド債に対して慎重な見方をしている一方、金および現地通貨建て新興国ソブリン債を有望視しており、全体としてはスコアを小幅なプラスに維持した。紛争が終結すれば、インフレの沈静化が促されると期待されたが、解決の目途は立っておらず、インフレ圧力を受けて引き続きコモディティ価格高が長期化する可能性が高いとみられる。

グロース資産においては、先進国株式に対する強気姿勢を維持するとともに、新興国株式のスコアも小幅なプラスに維持した。コモディティ関連株についても、中東紛争の行方が依然として非常に不透明で予断を許さないことから、スコアを中立に維持した。リートとインフラ投資については、他の資産クラスの方がリスク・リターン特性の魅力度が高いとの判断から、スコアをマイナスに据え置いている。

先進国株式のなかでは、AI関連の設備投資動向を牽引役としてテクノロジー企業の利益が大幅に伸びているなか、バリュエーションが魅力的な水準にある米国のスコアをプラスに維持した。同様に、カナダのスコアもプラスに維持している。カナダについては、より景気に敏感な金融や資源などのセクターの割合が大きく、世界的な景気拡大局面の恩恵を受けるとみられるほか、テクノロジー・セクターの割合が大きい米国株式からの分散効果も十分に期待できるとみている。英国は、バリュー株の比重が大きく、配当利回りが良好な水準にあることからスコアをプラスに維持した。一方、欧州とオーストラリアは、バリュエーションに割高感があるほか、中央銀行のタカ派姿勢がリスク資産への逆風となる可能性があることから、スコアをマイナスに維持した。シンガポールもバリュエーションが割高な水準にあることからスコアをマイナスに維持し、日本については、日銀がタカ派的な姿勢を示しているものの、企業収益が市場予想を上回る推移を見せていることからスコアを中立に維持した。

ディフェンシブ資産については、投資しやすい水準まで価格が調整した金に対して明るい見方をしていることなどから、強気な姿勢を維持している。同様にソブリン債についても、債券利回りの上昇を受けて強気姿勢を維持する妥当性が高まっている。

ハイイールド債はスコアのマイナス幅を据え置き、投資適格クレジットはスコアのマイナス幅を若干縮小した。ハイイールド債と投資適格債の両方に対して引き続き慎重な見方をしている理由は、スプレッドが過去最低に迫るタイトな水準にとどまっており、過去長年の間と異なり信用リスクに対して得られるリターンが乏しいなど、割高なバリュエーションにある。そのため、スプレッドが拡大する場合には、それを捉えてスコアを引き上げていく方針である。先進国ソブリン債はスコアを中立へと引き下げた。なお、米国については、金利上昇を受けてスコアのマイナス幅を縮小し始める方針である。現地通貨建て新興国ソブリン債については、利回りが依然割安な水準にあるなか、好調な景気や高水準の実質金利に支えられ、堅調なパフォーマンスを維持するとみられることから、スコアをプラスに維持した。

金については、インフレの加速により逆風に晒される可能性があるものの、引き続き地政学的リスクに対する有効なヘッジ手段であるとみていることから、スコアをプラスに維持した。

ハイイールド債のなかでは、当月に米国のスプレッドが欧州に比べて相対的に堅調に推移したことを受けて、米国のスコアのプラス幅を縮小する一方、欧州のスコアをプラスへと引き上げた。投資適格クレジットにおいては、ヘッジ後ベースの利回り水準が相対的に魅力的ながら、信用スプレッドがタイトな水準にある欧州のスコアを引き下げたが、引き続き小幅なプラスとした。一方、足元では信用スプレッドが先進国のなかで最も広い水準で推移しているオーストラリアのスコアをプラスに維持した。

ソブリン債のなかでは、日本のスコアを小幅なプラスに維持した。日本国債はイールドカーブのスティープ化が進んでおり、日銀が利上げを実施してもその影響を吸収できるとみられる。また、米国の金利が上昇するなか、米国債のスコアをマイナスに維持する一方、インフレ期待の高まりを受けて米国物価連動債のスコアはプラスに維持した。フランス国債については、イールドカーブがスティープ化しているなかヘッジ後ベースの利回りが依然魅力的な水準にあることから、スコアをプラスに維持した。

*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。


資産クラスの選好順位(2026年8月末時点)

資産クラスの選好順位(2026年8月末時点)

注)上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。リサーチ・フレームワークは3つの段階の分析に分かれています。スコアは、各資産に対する同チームの相対的見方(各資産が属する資産クラスの他の資産対比)を表しています。各資産クラス内のスコアは、コモディティを除き、平均すると中立となります。これらは投資リサーチまたは投資推奨助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

グロース資産

中東で紛争が続くなかでも世界的な景気拡大が続いており、グロース資産は引き続き魅力的だと考える。紛争の行方は依然不透明で、足元では世界的にインフレ圧力が顕在化しつつあり、グロース資産にとっての逆風となる可能性がある。しかし、当面はAI関連の設備投資や世界経済の好調持続を背景に、引き続き企業収益が堅調に伸びていることから、グロース資産を有望視している。巨大IT企業によるAI設備投資が、世界中の様々なサプライチェーンにおける旺盛な需要の原動力となっており、企業の売上高や利益を押し上げている。企業の利益率は引き続き拡大しており、グロース資産への追い風となっている。また、米国の経済指標は底堅さを維持し、小売売上高が好調に推移するなか、労働市場も持ちこたえている。こうした流れを受けて、当初強まっていたスタグフレーション懸念は和らいでいる。

中東情勢の動向については、先行きを見通す上で依然として極めて重要な要素となっており、引き続き注視している。最近では時折衝突が起こっているものの、以前のような極度の緊張状態に逆もどりしていないことは明るい兆しである。しかし、より恒久的な紛争解決の兆しが見られることがグローバル市場の好調維持に不可欠であると考えている。なお、紛争が長引き、それに伴うコモディティ価格上昇を受けて世界的に利上げが行われ、経済成長にブレーキがかかるリスクは存在する。足元では企業収益が引き続き好調な伸びを示していることから、リスク資産に対して強気な見方を維持している。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 米国株式のスコアをプラスに維持:設備投資ブームに沸くなか企業利益や業績見通しの底堅い推移が続く米国に対しては強気な見方を維持している。企業利益が大きく伸びていることからバリュエーションに割高感はなく、テクノロジーやヘルスケアのイノベーション(革新)を原動力とする長期的な成長トレンドから、米国株式を引き続き選好している。また、今後数年間でAI関連の設備投資が大幅に拡大することに伴うデータセンターからのエネルギー需要の増加も追い風になるとみている。
  • 英国株式を有望視:英国株式については、配当利回りが高く、相対的にベータ値が低い傾向にあるなど、ディフェンシブ特性を好感し、スコアをプラスに維持した。米国はテクノロジー・セクターの比重が大きいが、それに対して英国は金融、生活必需品、ヘルスケア、資本財・サービス、エネルギーなどのセクターが代表的で、分散効果をもたらす。
  • 新興国株式のスコアをプラスに維持:新興国株式は、米国で続く好調な設備投資動向が追い風となっているなか、バリュエーションが魅力的な水準にあることから、引き続き有望視している。米ドル高の展開となれば逆風に直面する可能性があるものの、一部の地域は、AI設備投資や人口ボーナスといった長期的な成長テーマの恩恵を受けるとみられる。AI関連の設備投資展開という長期的な成長トレンドへのエクスポージャーとして、半導体の主要サプライヤーでありテクノロジー・セクターの占める割合が大きい台湾を選好している。
  • コモディティ関連株のスコアを中立に維持:中東紛争は緊張激化のピークが過ぎ去ったものの、その行方は依然不透明とみていることから、コモディティ関連株に対しては中立的な見方を維持している。足元では世界的な景気拡大局面にあり、AI関連設備投資を筆頭に世界的に旺盛な需要が続いていることは明るい兆しであるとみられる。コモディティ関連株は長期的にインフレに対して優れた分散効果を提供し続けるとみられるとともに、同セクターのファンダメンタルズは、景気循環的にも長期的にも依然有望である。

過小評価されている感がある第3四半期の企業利益の成長見通し

過去2四半期の企業利益成長率は予想を大幅に上回り、景気拡大局面の中盤というよりも、リセッション(景気後退)後の回復期の序盤によく見られるような水準に達した。大幅な増収・増益の大部分はAI関連設備投資によるものである一方、エネルギーや素材などのコモディティ関連セクターも利益成長に大きく寄与した。中東地域で続く紛争や、データセンター建設による旺盛な金属需要がコモディティ価格高につながっており、企業利益を押し上げた。MSCI米国インデックスの第1四半期と第2四半期の予想EPS(1株あたり利益)は決算発表後に大幅に上方修正されたが、証券会社のアナリストのあいだでは、第3四半期と第4四半期の予想EPSの修正はあまり進んでいない。その結果、足元では第2四半期EPSが第3四半期と第4四半期の予想EPSを上回って推移しており、来る決算発表シーズンでは市場予想を上回るためのハードルが低くなっているように見受けられる(チャート1参照)。

チャート1:MSCI米国インデックスの2026年第3四半期と第4四半期の予想EPS成長率は小幅な上昇にとどまる

MSCI米国インデックスの2026年第3四半期と第4四半期の予想EPS成長率

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

MSCI米国インデックスの様々なセクターについて、発表を控える第3四半期の予想EPS成長率が2025年12月末時点から現在までにどう変化したかを見てみよう(チャート2参照)。想定内の結果として、上方修正の動きを牽引したのはテクノロジーで、それに金融が続いた。AI関連設備投資の好調や、景気の底堅い推移が追い風となった。AI関連設備投資において不可欠な道具や材料を供給する「ツルハシ銘柄」として恩恵を受けた資本財・サービスも上方修正された。しかし、予想EPS上昇率の変化が最も大きかったのはエネルギーだった。中東での紛争勃発を受けてエネルギー価格が高騰し、利益が押し上げられた。同様に、素材もコモディティ価格高の恩恵を受けた。予想EPS成長率が下方修正されたセクターについては、景気が依然底堅いなか、控え目な水準にある予想から上振れしやすい可能性があり、次の決算発表シーズンが好機になると期待される。

チャート2:MSCI米国インデックスにおいて2026年第3四半期の予想EPS成長率が年初来で上方修正されたセクター

MSCI米国インデックスにおける2026年第3四半期のセクター別予想EPS成長率

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

利益成長率が景気拡大局面の中盤では稀な水準に達していることから、そのうち勢いは鈍化するとみるのが合理的だろう。そうした段階となれば、より慎重なスタンスで臨むのが得策かもしれない。市場の期待が先行し、ファンダメンタルズから乖離し始める場合には尚更だ。米国企業の営業利益率は、我々が注視している指標の1つである(チャート3参照)。売上高が好調な伸びを維持し、コスト増加を相殺できているうちは、企業収益が無視できないほどの好調な推移を示していくとみられる。

チャート3:MSCI米国インデックス構成銘柄の営業利益率には要注目

MSCI米国インデックス構成銘柄の営業利益率

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


ディフェンシブ資産

インフレ率が中央銀行の目標を上回る状況が続いており、多数の中央銀行が利上げに動くとみられる。米国とイランの停戦をめぐっては予断を許さない状況が続いており、原油価格が1バレル=100米ドルに迫る水準にあることは、その先行き不透明感が強いことを映し出している。ブルームバーグ商品指数(BCOM)が長期平均を上回る水準で推移し続けていることは、歴史的に見てインフレの加速を示唆している。一方、ソブリン債利回りが上昇して当社の予想レンジ内に到達していることから、デュレーションの長期化を進め始める方針である。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 投資適格クレジットとハイイールド債のスコアをマイナスに維持:信用スプレッドは中東紛争を受けてボラティリティが高まっているものの、引き続き過去最低水準近辺で推移している。米国の景気は引き続き好調だが、スプレッドは歴史的に平均回帰性を示してきていることから、何らかの悪材料が出てくる場合にはスプレッドが拡大するものとみている。また、スプレッドがタイトな水準にあり、金利が大幅に上昇した場合に影響を吸収できる余地がほぼないことからも、投資適格クレジットについては慎重な姿勢を継続し、デュレーションを短めに維持していく方針である。
  • 日本国債のスコアを小幅なプラスに維持:日銀がタカ派的姿勢を強めるなか、当月の日本国債は軟調な推移が続いた。一方、足元において当社予想レンジ(3~3.5%)に到達している10年物利回りが、3.25%をしっかりと上回れば、日本国債に対する選好姿勢を強めていく方針である。
  • 物価連動債のスコアをプラスに維持:米国とイランの停戦合意崩壊を受けて、原油価格の乱高下が続いている。2025年終盤からのコモディティ高に加え、米国の経済成長の好調持続などが強力な追い風要因となり、インフレ圧力は続くとみている。物価上昇に対する防衛効果を発揮する米国物価連動債(TIPS)は、オールイン利回りが投資適格クレジットよりも高く、魅力的な水準にある。
  • 米ドルのスコアをプラスから中立へと引き下げ:根強いインフレとFRBのタカ派的姿勢を受けて米国の金利が高止まりし、米ドルが下支えされると見込まれるが、長期的なリスクは高まりつつある。財政赤字の拡大と内外金利差の縮小を踏まえ、米ドルに対するスタンスを強気から中立へと変更した。

米国のインフレ動向とFRBの反応

2022年にFRBが開始した利上げサイクルは、一連の金融引き締めを通じて最終的にインフレ抑制に効果を発揮したが、その後の金融緩和サイクルの開始は時期尚早だった可能性があるとみられる。とりわけ2024年9月には、労働市場の急速な鈍化が懸念されるなか、FRBは物価の安定と雇用の最大化という2つの使命を果たすべく、大幅な利下げを実施した。しかし、その後に雇用統計が上方修正されるなど、過度な懸念であったことが後に判明した。同時に、米国のインフレ率は再び加速し始め、CPI(消費者物価指数)の前月比上昇率の6ヵ月平均値は上昇基調を辿った(チャート4参照)。このことは、インフレが十分に抑制される前に金融緩和に前のめりになり過ぎたのではないかという疑問を抱かせる。そこで、インフレ見通しについて考察し、米国のインフレ率がFRBの目標を上回るようになってから65ヵ月以上が過ぎるなか、FRBが取り得る対応について検討してみる。

チャート4:FRBの金融政策動向と米国CPIの推移

FRBの金融政策動向と米国CPIの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

コモディティ価格は引き続き、物価の行方を示す重要な先行指標となっている。コモディティ価格とインフレ率のあいだには引き続き強い相関関係が存在しており、それが1年先政策金利見通しに影響を及ぼし続けている。世界的な景気好調に加え、中東での原油供給ショックを背景に、コモディティ価格の上昇が続いてきた。また、市場が原油価格に敏感な反応を示す状況が続いており、1年先の予想政策金利は原油価格の上昇に伴って上昇してきている(チャート5参照)。

チャート5:原油価格と政策金利期待の推移

原油価格と政策金利期待の推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

コモディティ価格に比べると波及する速度は遅いが、世界のM2も先行指標となる。これはマネーサプライの伸びとインフレ率の実績値を比べるもので、その間には数ヵ月のタイムラグがある。新型コロナウイルス禍以前であれば、米国のインフレ率は6ヵ月遅れてM2の伸びと同様の推移を示していた。しかし、コロナ後は波及するまでのタイムラグが12ヵ月へと伸びている(チャート6参照)。下チャートを見ると、コロナ後の平均インフレ率は、コロナ前の平均インフレ率を依然上回って推移していることが分かる。世界のM2の伸びは2026年に鈍化しているものの、引き続き長期平均を上回っていることから、当面はインフレ圧力の持続が見込まれる。

チャート6:世界のM2と米国CPIの推移

世界のM2と米国CPIの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

このようにインフレ圧力が続くなか、テイラー・ルールに修正を加えた当社独自のモデルによると、現在のCPI水準における政策金利の適正値は5.5%程度と示唆される(チャート7参照)。よって、インフレ率をFRBの目標値まで低下させるには追加利上げが必要である可能性がある。しかし、同モデルはコロナ禍下において実際の政策金利との大きな乖離も示した。当時、FRBは供給サイドの混乱がインフレ圧力を招いたとし、一時的な性質のものであると判断した。今の状況もそれと似ている。足元のエネルギー価格高は中東の紛争を主因としたものであり、一時的なものとなるかもしれない。とりわけ、米大統領は11月に中間選挙を控え、可能な限り早く紛争を終結させたいように見受けられる。また、FRB議長は、金利を低水準に維持するよう求める大統領からの政治的圧力に直面する可能性が大きいことから、金融引き締めサイクルは再開されるものの、引き締め度合いは前述のテイラー・ルールが示唆する水準をやや下回ることになるとみられる。

チャート7:米国の政策金利誘導目標と修正テイラー・ルールが示唆する政策金利

米国の政策金利誘導目標と修正テイラー・ルールが示唆する政策金利

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

バリュエーション、モメンタム、マクロによるリサーチ・プロセス