欧州では戦略的自律が政策の前面に現れる
EU(欧州連合)は近年、政策の運営姿勢を転換しつつあります。従来は、規制や競争促進を通じて市場環境を整備することが、産業政策の主眼にありました。しかし足元では、公的部門が産業を直接支援する必要性が強く意識されるようになっています。
転換を促したのは、2020年前後から相次いだ外的ショックです。コロナ禍では半導体や医薬品の供給途絶が現実の制約として認識されたほか、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、地政学リスクの高まりによるエネルギー調達難が明確になりました。さらに、米中対立の激化により、先端技術を巡る国際競争も一段と厳しさを増しています。こうした環境変化の下、欧州では「戦略的自律」が政策の前面に現れるようになりました。
半導体、エネルギー、AIなどで政策支援が相次ぐ
戦略的自律を象徴するのが半導体政策です。2021年頃から議論が始まり、2023年に施行された「欧州半導体法」では、EUの半導体生産世界シェアを2030年までに20%以上とする目標が掲げられました。官民で約430億ユーロ規模の投資計画も示され、域内の供給能力強化を制度面・資金面の両面から後押ししています。
エネルギー分野では2022年、ロシア産化石燃料への依存を段階的に低減しつつ、域内での再生可能エネルギーへの移行などを進める「リパワーEU計画」が始動しました。同計画の目標達成に関連して、欧州委員会は、2030年までに約5,840億ユーロの電力供給網投資が必要となるとの見積もりも示しています。
AI(人工知能)分野では、2025年、EUが同分野で世界的リーダーとなることを目指す「AI大陸行動計画」が発表されました。同計画では、最先端AI半導体10万個を備える超大規模データ処理拠点の整備などが進められる見込みです。これに先立ち、官民で総額2,000億ユーロ規模の投資を行なう「InvestAI」構想も打ち出されており、EUは従来の規制重視の姿勢から、AI分野のイノベーション促進へと軸足を移しつつあります。
戦略的自律は、防衛分野でも具体化しています。2024年にはEUとして初の防衛産業戦略である「欧州防衛産業戦略」が公表され、防衛装備品のEU加盟国による域内調達や共同調達を通じて防衛産業の基盤を強化する方針が示されました。この実施計画にあたる「欧州防衛産業プログラム」では、2025~2027年に15億ユーロの公的支出が予定されています。
投資促進による課題解決が政策の基本認識に
一連の政策を貫く問題意識は、欧州委員会の委託に基づき、前ECB(欧州中央銀行)総裁のドラギ氏が2024年に公表した「ドラギ報告書」にも明確に示されています。同報告書は、長年にわたる投資不足が欧州の競争力低下の主因だとして、イノベーション、脱炭素化、安全保障といった分野を軸に、年7,500~8,000億ユーロ規模の追加投資が必要だと指摘しました。同報告書で示された問題意識は、2029年にかけての政策運営方針である「競争力コンパス」に引き継がれています。
投資促進による課題解決は、欧州の産業基盤を中長期的に底上げし、欧州株式への前向きな材料にもなり得るため、要注目です。
- 上記はすべての政策を網羅するものではありません。
- 信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
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