近年、大きく転換した世界の産業政策
世界の産業政策は、時代とともに変化してきました。国・地域による違いはあるものの、1980年代までは、政府が特定の産業を保護・育成する手法が広く採られていました。しかし、保護の長期化は産業の非効率化を招いたほか、各国の支援策を巡り、貿易摩擦が激化しました。その反省を踏まえ、1990年代以降は、規制緩和やグローバルな自由貿易の推進など、市場機能を重視する新自由主義的な考え方が強まりました。
ところが近年、コロナ禍による供給網の混乱やロシアのウクライナ侵攻、米中対立の激化を受け、グローバル化に伴なうリスクが意識されるようになりました。また、脱炭素化やAI(人工知能)を巡る技術競争など、市場任せでは対応が難しい課題も浮上しています。こうした中、主要国・地域の政府は、経済安全保障や先端技術等の戦略分野を大規模な官民投資などによって強化する「新しい産業政策」に注力しています。
主要国・地域で「新しい産業政策」が具体化
米国では、バイデン政権下の2022年に、半導体や科学技術を支援する「CHIPS及び科学法」や、エネルギー安全保障と気候変動対策を進める「インフレ抑制法」が成立しました。同政権で財務長官を務めたイエレン氏は、公的支援によって民間投資を促進し、経済の供給力を高める考え方を「現代供給サイド経済学」と呼び、一連の施策をその実践と位置づけました。
2025年に第2次トランプ政権が発足して以降、環境・クリーンエネルギー分野ではバイデン政権の政策を修正する動きがみられます。もっとも、半導体をはじめとする戦略分野の国内生産基盤を強化する政策は維持され、同年成立した「減税・歳出法」では、国内での研究開発や設備投資、製造拠点の整備を後押しする税制措置が盛り込まれました。
EU(欧州連合)では、2022年に、ロシア産化石燃料への依存低減やクリーンエネルギーへの移行を進める「リパワーEU計画」が始動し、2023年には、域内の半導体生産の世界シェア拡大に向けて官民投資などに取り組む「欧州半導体法」が施行されました。前ECB(欧州中央銀行)総裁のドラギ氏が2024年に公表した「ドラギ報告書」では、技術革新、脱炭素化、安全保障などに対応するため、年7,500億~8,000億ユーロの追加投資が必要と提言されており、EUの競争力低下と投資不足への危機感が一連の政策に通底しています。
日本では2021年、菅政権下で「経済産業政策の新機軸」が打ち出され、成長領域の育成や社会課題の解決に向け、国の関与を強める方針が明確になりました。続く岸田・石破政権下では、「経済安全保障推進法」の制定や半導体分野での戦略的な投資が進みました。さらに高市政権は2026年7月、危機管理や成長促進の観点から選定した17の戦略分野について、2040年度までに官民で総額370兆円超の投資を見込むロードマップを決定しました。
以上で概観した主要国・地域の「新しい産業政策」においては、大規模な官民投資が見込まれるだけでなく、生産性の向上や産業競争力の強化も期待されます。短期的な景気浮揚策にとどまらない、息の長い投資テーマとして注目してみてはいかがでしょうか。
- 経済産業省などの信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
- 上記は過去のものおよび目標、想定であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。