今年7月、政府はAI(人工知能)・半導体をはじめとする17の戦略分野への官民投資促進などを盛り込んだ「日本成長戦略」を閣議決定しました。従来から、日本経済の地力向上には成長戦略が不可欠だと認識されてきましたが、今回の成長戦略は、その実現にどのように寄与し得るのでしょうか。本稿では、経済成長の源泉をいくつかの要因に分解する成長会計の考え方を踏まえ、内閣府の試算を参照しつつ、成長戦略によって期待される効果などを概観します。
成長会計を通じてみる日本経済の現状
成長会計の考え方を用いると、景気循環の影響をならした成長力を示す潜在成長率を、労働投入、資本投入、全要素生産性の3つの要因に分けて捉えることができます。ここで、労働投入、資本投入はそれぞれ、生産活動に用いる労働や機械・設備などに該当します。残る全要素生産性は、労働や資本の増加だけでは説明できない経済成長を表し、技術進歩や労働者の能力向上などを反映するものです。
近年(2021~2025年度平均)についてみると、潜在成長率が0.4%程度のところ、労働投入は▲0.2%ポイント、資本投入は0.2%ポイント、全要素生産性は0.5%ポイントの寄与となっています。高齢化や人口減少が労働投入を押し下げたほか、国内投資の伸び悩みを背景に資本投入の寄与も小幅にとどまる中、全要素生産性の伸びに辛うじて支えられている様子がうかがえます。
成長戦略は日本経済の将来像を変えるか
人口動態を短期間で変えることは困難ですが、投資を増やして資本を蓄積し、技術進歩などによって全要素生産性を高めることは可能です。今回の成長戦略は、まさに資本投入と全要素生産性の2つに働きかけようとするものといえます。内閣府は、政策効果の発現度合いに応じて3つの試算を示しています。追加財政支出による需要増に加え、官民投資や研究開発投資などの効果が十分に現れる「成長戦略実現ケース①」では、労働投入の寄与は小幅なマイナスが続くものの、資本投入と全要素生産性の押し上げにより、潜在成長率は中長期的に1%台後半へ高まると試算しています。また、技術や市場の不確実性から政策効果が前述ケースほどには発現しない「成長戦略実現ケース②」でも、潜在成長率は1%台半ばへ上昇するとしています。
他方、追加財政支出による需要増加の効果しか現れない「現状投影ケース」では、民間投資は過去の傾向並みにとどまり、潜在成長率は今後も0%台前半を中心に推移する見通しです。したがって、成長戦略の成否は、財政支出の規模ではなく、それが民間投資を誘発し、生産性の向上につながるかどうかにかかっています。もっとも、今回の成長戦略を巡っては、6月末の経済界からの提言を受けて、2040年度の国内民間設備投資の官民目標が従来の200兆円から250兆円へ引き上げられるなど、成長戦略を政府支出だけに終わらせないための機運は高まりつつあります。
2030年代後半の潜在成長率は、米国では1%台後半、ユーロ圏では1%台前半と見込まれています。成長戦略の効果が発現すれば、日本も米欧と遜色ない成長力を持つことになります。成長戦略は緒に就いたばかりですが、人口減少を背景とする低成長という日本経済の将来像を大きく変える可能性があるだけに、追加財政支出の直接的な恩恵を受ける分野にとどまらず、経済全体への波及効果が期待されます。
- 内閣府などの信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
- 上記は過去のものおよび予測であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。