本稿は2026年2月9日発行の英語レポート「Japan snap election: Takaichi victory expands political capital; market credibility is the next test」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
日本の高市早苗首相が率いる自由民主党(自民党)は、2月8日に行われた衆議院選挙で465議席中316議席を獲得し、決定的な圧勝を収めた。連立相手の日本維新の会と合わせると、与党の獲得議席数は350を超えて3分の2の圧倒的多数をも上回り、与党は立法府において大きな裁量権を手中にした。今回の選挙結果は、連立与党に対する有権者の強い支持を示している。
その高市政権が直面しているのが、政治的資本を市場での信頼性へと転換するという課題だ。重要な問題は、政府が追加の財政出動を実施するか否か(株式市場が反応を示している材料)ではなく、日銀が(極端な円安に伴う輸入インフレを含め)インフレ・リスクと闘うなかで、日本政府が財政において実現見込みの高い誘因両立的な選択を実現できるかどうかである。
誘因両立性の制約とは
自民党が強力な支持を得たことで、政府が実行可能な政策の選択肢は広がっている。しかし、この支持によって自動的に断固たる財政緩和が推進されることになると想定するのは、単純化しすぎと言えるだろう。政治的資本が乏しい時にはポピュリスト的な票集め戦略に走りたくなる誘惑が大きかったかもしれないが、政治的資本が大幅に拡大した今ではその計算が変わる。
経済学において、財政政策と金融政策の調整は通常、政策信頼性の2つの源泉に依存する。第一に、金融政策が物価の安定化にとって最も効率的な手段であること、第二に、それによって財政政策に国の長期的な財政を管理していく余地が生まれることだ。財政当局は常に長期的な財政ルールを捨てたくなる誘惑に駆られるものだが、これに対して抑制力として働き得るのが市場である。市場がもたらす抑制力により、財政規律からの逸脱は、ポピュリスト的な支出策で得られる可能性のある当面の政治的利益よりも高くつくことになる。今こそ、政策調整の「真の仕事」を開始すべき時である。リフレ環境下では、経済成長を名目・実質の両方で押し上げるために財政・金融緩和が併用されたデフレ環境下よりも、最適政策が複雑化しやすい。
政治面の信頼性か財政面の信頼性かの意外な計算
前述した通り、選挙を通じた強力な信任により、政権の政策選択肢は広がっている。しかし、マクロ経済面の制約が解消されたわけではない。実際、自民党が高市首相の下で政治的資本を確保したことで大きくなるのは、財政緩和ではなくむしろ財政引き締めの余地かもしれない。少数与党の体制下の方が、財政面での信頼性強化から得られる政治的リターンがより小さい(少数与党は失うものが少ない)ため、財政規律から逸脱して短期的なポピュリスト的財政措置を追求したくなる誘惑は強かった。
経済が回復すればアベノミクスの時よりも厳しい選択を迫られることに
賃金が年間の物価上昇に追いついていないとはいえ、日本経済は数年にわたり回復基調にある。これは逆説的なことに、現在の政策環境を、最大限の財政・金融緩和がともに最適な政策の要素であった安倍政権の時よりも困難なものにする可能性がある。
誘因両立性の制約という論理に従えば、現在の最適政策ミックスとは、インフレ対策における日銀の独立性を許容しながら、財政出動を景気循環を平滑化するための短期的な措置にとどめることと言えるかもしれない。こうした措置により、実質賃金の上昇が消費者心理を押し上げるまで、景気が企業心理を継続的に向上させ得る。政府は新たに獲得した政治的資本を活かして、自らの首を絞めるような政策から脱却する必要があるかもしれない。これは、家計にとって依然最大の課題である生活費を低下させるという目標に逆行するような積極財政を回避することを意味する。
意外にも政治的資本は財政の質の向上につながる可能性がある
実は、今回の選挙結果は、当初予想された大規模な積極財政を実施することによってではなく、それを抑制することによってテールリスクを低減させることになるかもしれない。自党が圧勝したことで、高市政権は日銀の独立性を尊重しながら、より規律ある、信頼性を維持できるような財政政策を選択することが可能となる。実際、日本は選挙の前よりも、懸念されていた「財政支配」シナリオから一歩遠ざかったと言える。選挙で指示を得られた今、その信任に応える政策を実行していくかどうかは高市政権次第だ。
