本稿は2026年7月3日発行の英語レポート「Global Investment Strategy Committee Outlook Q3 2026」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
当社アモーヴァ・アセットマネジメントのグローバル投資戦略委員会(GISC)が6月24日に開催された。当委員会では、経済成長およびインフレの見通しに対して様々なリスクがあることを認識しつつも、世界経済の成長については依然ポジティブな見方を維持しており、当面リセッション(景気後退)を予想する根拠は見当たらないと考える。しかし、リスクの範囲が広がっていることから、当委員会の基本シナリオは、世界のリスク選好度や緩和的な金融環境、ディスインフレなど、非永続的と考えられる相互に関連した一連の要因次第と言える。
当委員会の主要な結論:
- 世界経済の成長は依然底堅いが、市場レジームに左右される度合いが強まっている。現在のレジームを特徴づけているのは引き続きリスク許容度、キャリー取引、および株式のデュレーションで、こうした状況は基本シナリオとして当面変わらないと予想している。
- 原油価格が下落するとの当委員会の予想、延いては基本シナリオにおける経済成長およびインフレの想定は、ホルムズ海峡の封鎖解除を含む米・イラン間の緊張緩和の可能性に立脚している。ただし、そのようなレジーム転換は未だ完了していない。
- 世界経済の底堅さの継続を支える条件は相互に依存している。リスクは、認識されているリセッションの引き金要因というよりも、自己増幅的な市場の脆弱性にある。
- 株式市場では日本を引き続き選好する。日銀が目標から上振れしているインフレに対処しているなか、経済成長は構造的な底堅さを維持している。一方、円と日本国債は引き続き金融環境を試す動きを見せている。
- 中国の最近の景気下振れは、ホルムズ海峡危機とそれに伴う世界的なサプライチェーンの混乱への対応を一因とする政策転換の一環であった。経済成長は安定を保ちながらも二極化が進むと予想される。
- 欧州市場のパフォーマンス劣後は、ECB(欧州中央銀行)が最近金融引き締めへの政策を転換したことと関連しているかもしれない。現在のレジーム下では、同市場は牽引役を果たすというよりは安定性を提供するとみられるが、レジーム移行が起こった場合には依然、分散投資としての価値を提供し得る。
世界の経済成長:基調は堅調だがリスクの範囲は広い
前回の当委員会会合(米国・イラン間で武力衝突が発生した直後)の状況に比べると、当該紛争の収束が近い将来に見込まれることは明るい材料だ。しかし、安定した和平合意への転換がまだ完了していないことに留意する必要がある。さらに、遅れて表れる紛争の波及的影響に加えてインフレ期待への影響といったその他の要因が、リスク資産にネガティブなサプライズをもたらすかもしれない。当委員会が基本シナリオをこのまま維持できるかどうかは、主要国において生産者物価インフレの上昇ペースが鈍化を続けること、インフレ期待が十分に抑制されること、そして世界の投資家のあいだでリスク選好が続くことなど、いくつかの条件に大きく左右される。
まず、世界の経済成長は明らかに市場の予想を上回ってきた。この上振れの大部分は、マクロ経済指標や株式市場のパフォーマンスが示しているように、テクノロジーと関連インフラへの投資が予想以上のペースで進んだことに起因している。また、同様に明白な点として、経済の拡大自体は(直接関係するテクノロジー・セクター以外の分野にも影響を及ぼしているものの)依然として狭い範囲にとどまっている。
リスク資産への投資を妨げるような差し迫った要因が見当たらないことは、引き続き当面の追い風となり得る。しかし、2027年を見据えるにつれ、当委員会ではそうした傾向が条件次第であることをますます重視している。
当面のあいだ、当委員会の見方は引き続き、米イラン紛争からのレジーム転換、ホルムズ海峡の通行再開、そしてそれに伴う原油価格の下落にかかっている。原油価格の下落は短期的なインフレ期待に大きな影響を与え、ディスインフレ期待を後押しし、延いては家計の実質所得の押し上げやポートフォリオ・デュレーションの伸長につながる可能性がある。しかし、その先については、当委員会ではコアインフレが根強く高止まりすると予想しており、景気が底堅さも一因となって、中央銀行の政策金利は長期にわたり高水準に維持されるとみている。
さらに先の2027年の見通しでは、経済成長とインフレに関する当委員会の見方はメンバー間のばらつきが拡大している。議論の主要な焦点の1つは、金融環境が大半の中央銀行が想定していたほど引き締め的な水準にあるか(あるいはこれまでそうであったか)という点であった。これは、各国において「中立」金利が当初の推定よりも高くなる可能性を示唆している。
当委員会では以前、イラン紛争に伴うエネルギー・ショックの波及ループを分析する枠組みを導入し、この「レジーム波及ラダー」(図1参照)に基づいて事態の進行状況を継続的にモニターしている。この点については、長期化する交易条件ショックが日本経済に継続的な影響を及ぼす可能性に特に注目している。
ショック長期化のリスクは引き続き基本シナリオとは別物として考えているが、今回のレジーム転換が完了したことを示す兆候が見られないなか、そのようなリスク・シナリオが当委員会のメイン・シナリオとなる可能性が高まりつつあるということは強調しておきたい。
図1:レジーム波及ラダー

出所:アモーヴァ・アセットマネジメント
グローバル債券、金利、クレジット市場:高金利の長期化とキャリー需要が交錯
当四半期における前四半期からの重要な変化の1つは、政策について金融緩和が差し迫っているとの前提にはもはや立っておらず、代わりに金利が長期にわたって据え置かれるとのシナリオが中心的な想定となっていることだ。市場が米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げを織り込まなくなったのと同様に、当委員会の基本シナリオではFRBが年内いっぱい政策金利を据え置くとみている。2027年については委員会メンバーの予想の分布が両方向に拡大しているものの、中央値ではFRBが今後1年にわたって現状を維持するとの見通しになっている。
同様に、ECB(欧州中央銀行)についても今後1年にわたり金利を据え置くと予想しているが、一方で日銀については対照的に少なくとも1回の追加利上げがあると見込んでいる。日銀が金融政策の正常化を継続するとの見通しは、委員会メンバーのあいだで最も明確なコンセンサスの1つであり、1年後の無担保コール翌日物レート誘導目標の予想は中央値で1.325%となっているが、同政策金利が1.5%を超える可能性もある程度想定している。
主要国の債券市場ではホルムズ海峡をめぐる不透明感を受けてすでに長期ゾーンに利回り上昇圧力がかかっていることを考えると、市場調整の焦点が短期ゾーンに当たるのに伴い、当面はイールドカーブがフラット化する余地があるかもしれない。そしてこれは、現在の金利水準が実際にどれほど引き締め的と言えるか、つまり「中立」金利の水準はどこかという議論を反映している。
一方、金融政策の想定が「高金利の長期化」へとシフトし最近イールドカーブがスティープ化しているにもかかわらず、信用スプレッドは(投資適格債およびハイイールド債ともに)歴史的にタイトな水準にとどまっている。これは、キャリーに対する需要が引き続き高いことを裏付けている。しかし、政策金利予想が上昇した場合にこのバランスが維持されるかどうかはわからない。クレジット市場ではテールリスクに対するプレミアムが限定的であるように見受けられ、ハイイールド債・CCC格債のスプレッド、レバレッジドローン、CLO(ローン担保証券)、そしてPIK(「ペイメント・イン・カインド」、利息や配当を現金で支払うのではなく証券の追加発行で支払う仕組み)普及率やファイナンス契約の条件変更・延長活動といったプライベート・クレジット指標など、パブリック・プライベート両市場のリスク指標の動向を注視していく必要がある。
チャート1:主要国の政策金利

出所: Macrobondの情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2026年6月時点)
チャート2:国債のイールドカーブ

出所: Macrobondの情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2026年6月時点)
米国:AIのおかげで景気は底堅いが金利感応度も高い
中央値で見た米国のGDP成長率見通しは依然として底堅く、当委員会では2027年6月までの1年における米国のGDP成長率が2%を超えると予想している。設備投資ブームが続くなか、成長の構造は引き続き投資主導になるとみられ、企業収益が好調なのとは対照的に実質家計所得や雇用が低迷するという「K字型」経済トレンドが想定される。
見込まれる原油価格の下落を主因として、今後1年の米国の総合CPI(消費者物価指数)上昇率はFRB目標である2%に向かって(同目標を上回る水準に依然とどまりながらも)減速すると予想される。しかし、当委員会では、コアインフレは根強く高止まりすると考えており、同期間においてコアPCE(個人消費支出)デフレーター上昇率が2.5%を大きく下回る可能性は低いとみている。
米国の経済成長が持続できるかどうかは、原油価格だけでなく、クレジット市場の安定性や足元で続いているAI(人工知能)関連設備投資の信頼性、そして(市場が「高金利の長期化」に適応していくなかでの)株価バリュエーションなど、多くの要因に左右される。したがって、波及リスクは実体経済から金融情勢へと幾分シフトしたと言える。企業利益は2桁台と堅調な伸びを維持すると予想されるが、株価バリュエーションはすでにピークを打ったかもしれず、今後は金利の影響をより受けやすくなる可能性がある。
日本:円安と国債下落の同時進行が追い風から試練へと変化
日本株式市場は依然として魅力的だが、上昇している銘柄の範囲は限定的だ。一方、円安と国債下落の同時進行が追い風から試練へと変わりつつある。問題は交易条件ショックが波及し始めていることで、一因であるコモディティ市場の混乱に伴う輸入価格の高騰が、円安によってさらに悪化している。しかし、これは日本に対する信頼感が全面的に失われたことを意味するものではない。輸入インフレが根強いのは交易条件ショックが原因だが、日銀の金融政策正常化の動きにもかかわらず円が上昇していない理由は円キャリー取引が主流なことにあり、それぞれ異なる波及経路を通じて作用している。
つまり、日本の長期国債と円はともに1四半期前の水準から下落しているものの、こうした動きは管理された円キャリー取引環境の枠組みなかで捉える方がより適切に理解でき、また市場参加者は日銀のインフレ対策の信頼性や政府の長期的財政の信頼性も判断しようとしている。前者について言えば、インフレ期待は着実に上昇しているものの、実質金利が長期にわたり高水準で推移するとの見方は強まっていない。これが示唆するのは、市場が概して長期にわたる積極的な金融引き締めを必要とすることなくインフレが鈍化すると予想していることだ。要するに、市場の一部で日銀が「後手に回っている」との認識が根強いとしても、そのような見方が広く共有されているわけではない。
当委員会では、日銀による利上げが概ね現状のペース(およそ6ヵ月に1回)で続くと予想しているが、一方で、金利が緩和的でも引き締め的でもない水準に達するには、同中銀は追加利上げを重ねなければならないだろうと認識している。市場コンセンサスとは異なる当委員会の見解の1つとして挙げられるのが為替で、当面は円キャリー取引への需要が根強く続くとの見通しから、円は今後1年にユーロおよびドルに対し弱含みで推移するとみている。ただし、2027年の予想については、前述の通りレジーム転換のリスクが高まり得るため、短期的な予想に比べると確信度は低い。
日本のGDP成長率は低水準にとどまりながらもプラス圏を維持し、2027年6月までに前年同期比1%へ回復すると予想する。総合CPIおよびコアCPIの上昇率は、いずれも今後1年を通じて日銀の目標である2%を上回る推移を見込む。企業利益はAI関連企業にとどまらず市場全体で堅調を維持するとみており、経済全体をより反映しているTOPIXで前年同期比2桁の伸びを予想する。
重要な点として、当委員会では、日本株は堅調な企業収益だけでなくコーポレート・ガバナンスの改善や実質賃金の伸びのプラス転換も引き続き構造的追い風になるとみている。株式市場のもう1つのサポート要因は、国内のリフレ傾向が拡大して(国内経済の継続的な底堅さおよびリフレ傾向から恩恵を受ける)金融機関やその他のセクターを下支えする可能性である。
チャート3:日本国債10年物の利回りが示すインフレ期待と実質金利の推移

出所:Macrobondなど信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
注:物価連動国債10年物が示すブレークイーブン・インフレ率は、インフレ期待が日銀の目標である2%近辺で正常化していることを示している。一方で、市場が長期にわたる実質金利の高止まりを予想しているという証拠は現時点では見られず、これは日銀がインフレ対応において「後手に回っている」との見方が市場で広く共有されているわけではないことを示唆している。
欧州:牽引役というよりは安定剤
欧州のGDP成長率は、低めのプラス圏にとどまりながら、2027年6月までに前年同期比1%超へ回復すると予想する。インフレについても1年後までにECBの目標である2%に向けて正常化するとみるが、米国や日本と同様に、コアインフレはより根強く高止まりし、したがって今後1年を通じて中銀目標を大きく上回る水準にとどまるだろう。6月から利上げに転じたECBのスタンスは、今のところインフレ対応においてFRBよりも積極的だと言えるが、当委員会では、コアCPI上昇率が直近の高水準から減速を続ける限り、ECBは当面追加利上げを見送る可能性が高いとみている。一方、利上げは株式市場における期待感、延いては株価バリュエーションにブレーキをかけることになったかもしれず、今後1年で企業収益が緩やかに回復するであろうことを考慮しても、欧州の株価バリュエーションは米国や日本を下回る水準にとどまるとみている。しかし、このことがもたらす安定性が、テクノロジー株主導で変動の激しい他地域市場とは対照的な優位点となるかもしれない。
中国:管理された景気減速から政策面での追い上げへ
ホルムズ海峡をめぐる混乱が始まって以来、中国では経済成長率が予想から下振れする一方、CPI上昇率が輸入インフレによって加速しプラス圏へと押し上げられている。ホルムズ海峡危機への中国の対応は、同国経済が(他の多くの主要国で見られているような景気循環的回復に牽引されているのではなく)依然として政策により厳格に管理されていることを示した。
2026年前半の中国の経済成長は、セクター間でのばらつきが極めて大きかった。この要因は、ホルムズ海峡をめぐる混乱の影響だけでなく、住宅不動産市場や消費の低迷を相殺することを目的とした公共投資戦略から政策を急転換させた中国政府の対応にもある。不動産市場と消費はいずれも依然低迷が続いており、加えて産業セクター内での競争も激化している。
中国経済の二極化傾向に変わりはなく、これは同国の不動産市場が底を打つまで(当委員会の予想期間である今後1年より先になるかもしれないが)続くとみられる。そのあいだ、同国政府は、中東危機および第2四半期の政策転換によって失われた成長分を補いながら経済成長率を4.5~5%の目標レンジ内に維持するために、年後半には投資を強化してくる可能性がある。
これを受けて、当委員会では、中国のGDP成長率は回復が一時的なものにとどまり、前年同期比比5%を超えることなく2027年序盤に再び減速に転じるとみている。逆説的ではあるが、米イラン紛争が緊張緩和に向かいホルムズ海峡の通行が完全に回復するとの期待が高まるなか、中国政府は個人消費を刺激するインセンティブが後退している可能性があり、代わりに(地方政府の財政再建継続や家計需要の低迷が景気の足かせとなり続けている状況下でも)戦略的重点である「六張網」戦略(国家の基盤となる水道網、新型電力網、コンピューティング・ネットワーク、次世代型通信網、都市部の地下インフラ網、物流網の6つの主要ネットワークの整備・高度化計画)に基づく投資(特にエネルギーの送電・貯蔵分野)を引き続き優先するかもしれない。一方、7月に開催される中国共産党の中央政治局会議は注視していく必要がある。
チャート4:中国の固定資産投資鈍化の要因はエネルギー・ショック、不動産市場および補助金の削減

出所:PRC Macro
チャート5:中国では家計の負債削減が加速

出所:PRC Macro
為替・コモディティ市場:円キャリー取引はどこまで続くか
ドルは、特に円に対して、3月に当委員会が予想していたよりも底堅さを維持している。しかし、最近のイベントに対する市場の反応には、いくつか明らかな矛盾が見られる。
まず、原油価格が高騰するなかでペトロダラー(原油決済通貨としてのドル)への需要がドルの対円相場をサポートしていると想定されていたものの、米イラン間の緊張緩和期待から原油価格が反落した今、その逆の論理は当てはまっていない。次に、雇用統計の上振れを受けて米国債の短期ゾーンが大きく調整したり、ウォーシュFRB新議長の就任演説に市場がタカ派的な反応を見せたりしたのに対し、6月の日銀の利上げに対する市場の反応は乏しかった。
いずれ、中央銀行のタカ派的姿勢は、最終的にキャリー取引への逆風になると予想される。金融環境のタイト化は、レバレッジやリスク選好度を後退させ得るからだ。現在のところ、当委員会は円キャリー取引が当面の主要トレンドになると認識しており、したがって、今後1年の大半においてドル円レートは1ドル=160円を上回り続けると予想している。ユーロ円レートについても1ユーロ=180円を超える水準にとどまるとみるが、これは当委員会の従来の予想からは大幅な転換である。一方、ユーロおよび英ポンドの対ドル・レートについてはレンジ相場が続き、両通貨ともに1.15ドル前後で推移するとみている。
一方、当委員会が重視しているのは原油価格の下落が続くという想定で、ブレント原油で2027年6月までに1バレル当たり80ドル台前半から60ドル台後半まで下落すると予想しているが、その過程では大幅な変動が見込まれる。対照的に、金を含め金属相場は、中央銀行の姿勢がタカ派色を増したとしても、金融政策の効果が実体経済に現れるまでの時間差の恩恵を受けて、ある程度基調回復できるかもしれない。
見通しに対する主なリスク:明確なカタリストがないなかでのウィークポイント
前四半期の当委員会では、リスクをめぐる議論において以下の5つの主要なリスク分野に焦点を当てた。
- エネルギー・ショックと中東情勢の悪化
- インフレ長期化/世界的な金融引き締めショック
- AI投資およびテクノロジー・サイクルの中断
- プライベート・クレジット・ショック/金融システムの逼迫
- 長期金利や財政の持続可能性をめぐるショック
これらのリスク分野はいずれも解消したわけではないが、その認識には多少の変化が見られる。例えば、①の「エネルギー・ショックと中東情勢の悪化」は実際に起こったが、③の「AI投資およびテクノロジー・サイクルの中断」がまったく起こらなかったことで、株式市場への影響は大幅に相殺された。むしろ、AIに対する熱狂は、好調な決算や新たな設備投資が発表されるたびに一層高まった。
したがって、当委員会の今回の会合では、現在続いているリスク許容度とキャリー取引ベースのデュレーション投資需要のサイクルをいずれ中断させる可能性が最も高い脆弱性要素に焦点を当てた。そうした脆弱性は、当委員会の基本シナリオではないものの、依然として顕在的なリスク要因である。
AIの収益化という課題が極めて重要であること、また混乱が発生し得る時期を判断するのは困難であることから、当委員会では、現在の投資サイクルからの利益が幅広く実現するためには何が起こる必要があるか、というより長期的なトピックについて検討を行った。そのような展開が起こるのは、当委員会の予想期間である今後1年よりも先となるかもしれない。この考察については、後述の「トピックA」で取り上げている。
これとは別に、金融環境にストレスがかかっている初期兆候を示す指標があるかについても議論しており、クレジット市場における混乱の兆候を見逃さないよう引き続き注視していく。信用スプレッドは、キャリーへの旺盛な需要によってサポートされてきた。したがって、スプレッドが大きく拡大した場合は、金融環境へのストレスが迫っていることを警戒すべき理由と見なせるだろう(チャート6参照)。
チャート6:米国投資適格債およびハイイールド債のクレジット・デフォルト・スワップのスプレッド

出所:Macrobondなど信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成(データは2026年6月時点)
加えて、基本シナリオには多くの偶発的要素が伴うことを踏まえ、今回の見通しにおける以下のような潜在的脆弱性分野についても検討しました。
- AIに関して何らかの重大な失望が生じた場合の様々な資産クラスにわたるシステミックな波及的影響:従来のリスク・モデルでは、AI関連の設備投資ブームが様々な資産クラスに及ぼすシステミック・リスクを十分に捉えきれていない可能性がある。これは、脆弱性が非コア資産クラスで顕在化する可能性があること、また相関関係が高まることで様々な資産クラスにわたる分散投資のメリットが損なわれる恐れがあることを意味する。
- 円安の加速と日本国債利回りのパニック的上昇:積極財政に加え、インフレ期待を抑制しきれなくなるかもしれないとの見方が強まることで、円キャリー取引の健全でリスク選好的な側面が損なわれる恐れがある。
- インフレの不安定化の広がり:一方では投資主導の需要と緩和的な金融環境が長引くことにより、他方では原油価格の急落がインフレ懸念を和らげるだけでなく将来の消費・投資意欲の変化につながり得ることにより、インフレ期待の変動が大きくなる可能性がある。なお、このリスクは日本特有のものではない。
- 政治的・地政学的混乱:これまでのところ、設備投資ブームのおかげで、地政学的要因は世界の経済成長や株式市場のバリュエーションを悪化させてはいない。しかし、そうした悪化が決して起こり得ない、あるいは将来起こることはないというわけではない。米国の中間選挙が近づく一方で、米イラン間の緊張緩和への道程には依然不透明感が残っていることから、地政学的動向は引き続き市場・経済活動に対するリスクとなっている。
まとめ:時期はわからないが想定される偶発的事態に備えた分散投資
当委員会では、現在のAI関連の設備投資ブームに対して差し迫った明らかな障害が見られないなか、当面の世界経済の成長見通しについてポジティブな見方を維持している。足元の景気拡大を支えているメカニズムについてはメンバーの見方が概ね一致したものの、その持続性や最終的な市場への影響については見解のばらつきがより顕著となった。
基本シナリオのベースとなっている現在のレジームが恒久的なものではない可能性は引き続き認識している。議論のあいだ繰り返し指摘されたのは、自己強化的に見える現在の均衡状態も、いくつかの主要な条件が揃うことへの依存度が高まってきているという点だ。現在は、原油価格の下落、堅調なAI投資、緩和的な金融環境、安定したクレジット市場といった状況が相互に補強し合っている。逆に、これらの分野のいずれかが悪化することになれば、その影響は様々な資産クラスや市場セグメントへと広く波及する可能性がある。
マクロ経済ショックの種類が異なれば、それがもたらす資産クラス間の相関構造も異なる。つまり、分散投資のメリットは市場レジームに左右されると言える。したがって、効果的な分散投資を行うには、起こりうる様々なショックを考慮する必要がある。
まとめると、当委員会の基本シナリオが今後1年で優勢になると予想しながら、一時的な市場の混乱局面においても確信度の最も高い投資先へのエクスポージャーを維持するのに分散投資が重要な役割を果たすと考える。
トピックA:AIイノベーション、生産性および設備投資
バリュエーションはかなり高水準にあるように思われるかもしれないが、米国だけでなく世界的に見ても、少数ながら重要な企業群では高収益が続いている。共通している要因は、少数ながら注目度の高いこれらの企業が、AIサプライチェーンや(エネルギーやインフラなどの)上流依存関係にとって重要な存在であることだ。
AI開発およびその上流工程要件への近接性は、設備投資の主要な決定要因となりながら、信用供与や株価バリュエーション、金利感応度、エネルギー消費、資金調達コストにおいても偏りを生じさせている。一方、米国だけでなく世界各国においても、新技術の普及とそれに伴う労働力・資本の再配分を通じて、生産性向上の恩恵が期待されている。LLM(大規模言語モデル)や関連技術の普及が拡大している兆候が見られており、ハイパースケーラー(巨大データセンターを運用し膨大な計算能力とストレージをオンデマンドで提供するクラウドサービス事業者)企業の設備投資は引き続き景気の追い風となっている。しかし、米国の税制では関連費用を税務上の目的でかなり早期に計上することが認められているにもかかわらず、簿価の減価償却はそうした新規投資にまだ追いついていない。
それでもなお、陳腐化、耐用年数の想定、および収益化については強気な前提が置かれているが、再配分に伴うまだ実現していない生産性向上がデフレ圧力をもたらすか否かについては、追加の前提が設けられている。イノベーションに伴う生産性、つまりTFP(全要素生産性)をリアルタイムで観測することは極めて困難な一方、TFPは、その重要な特性の1つとして、数十年にわたり様々な地域で物価へのデフレ圧力に寄与してきた。
TFPにおいて頻繁に観察されるこの特性はIST(投資特殊技術)で、これは消費財に対する資本財の相対価格の逆数によって代替することができる。資本財が家計消費財バスケットに対して安くなりつつある場合、労働・資本の複合単位当たりの生産コストは技術やビジネスモデルのイノベーション(革新)によって低下しているとみられ、よって経済の生産性が向上していると言える。
チャート7が示すように、ISTは1970年代後半から米国のTFPの伸びに着実に寄与してきたようだが、2000年代半ばにはやや停滞してコロナ禍後に後退している。この要因が(実際に好転するとして)好転するまでは、将来の生産性の伸びがインフレを抑制すると想定するのは賢明ではないかもしれない。
一方、資産の耐用年数がその資産の評価額に織り込まれている期間よりも短いかもしれないというリスクは依然存在しており、これと並行して、クレジット市場や資金調達市場がマクロ経済指標よりも早くストレスの兆候を示すリスクも残っている。
チャート7:投資特殊技術は米国の全要素生産性に着実に寄与してきた

出所:商務省経済分析局、Penn World Table、成長・開発センター(フローニンゲン大学)の情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
補足:GISCの見通しのガイダンス
世界のマクロ経済指標

中央銀行の政策金利、為替、債券およびコモディティ

株式


