本稿は2026年3月30日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
投資環境概観
2 月のグローバル株式市場(MSCI All Country World インデックス)は、米ドル・ベースで前月末比 1.2%上昇した。米国市場は、 AI(人工知能)による破壊的影響や同国経済全般をめぐる懸念が強まるなか、パフォーマンスが他の市場に劣後した。米連邦最高裁判所がトランプ大統領による輸入関税を違法とする判決を下すと、これにトランプ大統領は即座に反応して世界各国からの輸入品に新たに 10%の追加関税を課した。当月は米国とイランが交渉を続けるなか、中東の地政学的緊張が高まった状況が続き、月の最終日に軍事衝突が始まった。欧州では、ECB(欧州中央銀行)が政策金利を 2%に据え置くなかでも企業業績見通しが改善したことが追い風となり、株式市場が上昇した。アジアでは、旺盛な半導体需要や半導体相場の上昇、メモリーのアップグレードサイクルの長期化を背景に、韓国市場が相対的に好調に推移した。
債券市場では、インフレ圧力の緩和を受けて米国債利回りが低下した。米 FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の後任にケビン・ウォーシュ氏が指名されたことで、FRB の独立性が損なわれるとの懸念は和らぐ可能性がある。当月発表された 1 月の米経済指標をみると、雇用統計が上振れしたものの、市場予想を下回る小売売上高や低調な CPI(消費者物価指数)によって相殺される形となった。月末の米国債利回り水準は前月末比で低下し、2 年物の指標銘柄が 3.38%、10 年物の指標銘柄で 3.94%となった。
コモディティ市場に目を向けると、金価格は、FRB 次期議長にタカ派寄りとみられているウォーシュ氏が指名されたことを受けて当初大幅に下落したが、トランプ大統領の関税計画をめぐる不透明感や中東の地政学的緊張の高まりが追い風となって回復した。また、WTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は、中東の地政学的リスクの高まりを受けて前月末比2.8%上昇した。リート(FTSE NAREIT Global Real Estate インデックス)は前月末比で 6.1%上昇した。
クロス・アセット*
当月は、グロース資産のスコアをプラスに、ディフェンシブ資産のスコアをマイナスにそれぞれ維持した。グロース資産については、PMI(購買担当者景気指数)の上昇、輸出受注の増加、企業の増益傾向の強まりなど、世界的に経済成長加速の兆しが引き続きみられている。PER(株価収益率)に基づくと、バリュエーションは依然としてやや割高な水準にあるが、当社の株式リスクプレミアム・モデルは、今や米国株式のバリュエーションが魅力的な水準にあると示し始めている。このように、PERは高水準ながらも、市場では向こう3年の企業利益成長率が極めて堅調に推移すると予想されており、そうなればバリュエーションが自ずと低下してくるとみられる。
グロース資産のなかでは、先進国株式とコモディティ関連株のスコアをともにプラスへと引き上げ、新興国株式のスコアをプラスに維持した。インフラ投資については、これまで堅調に推移してきたことを受けてスコアをマイナスへと引き下げた。米国株式は、最近の企業業績の上方修正を受けてバリュエーションの魅力度が増したことから、スコアを中立へと引き上げる一方、欧州株式は、市場の期待値が高まっていることを踏まえてスコアをマイナスに維持した。日本についても、先般の選挙結果を受けて株価が大きく上昇し、バリュエーション水準が高まっていることから、スコアを小幅なマイナスへと引き下げた。また、これまで堅調に推移してきたシンガポールのスコアを中立へと引き下げ、オーストラリアについてはスコアを中立に維持した。英国は、バリュエーションが魅力的な水準にあるとともに中央銀行がハト派姿勢を強めつつあることから、引き続き有望視している。新興国株式については、バリュエーションが良好な水準にあることや、中期的には米ドル安が進むとみられ、そうなれば新興国の追い風になると見込まれることから、スコアをプラスに維持した。
ディフェンシブ資産では、ハイイールド債のスコアを小幅なマイナスへと引き下げる一方、先進国ソブリン債のスコアをプラスへと引き上げた。また、投資適格クレジットのスコアを小幅なマイナスに、新興国現地通貨建て債券のスコアをプラスにそれぞれ維持した。ハイイールド債については、米国の経済成長の好調や利下げ期待、高水準のオールイン利回りなどが引き続き追い風となっているが、信用スプレッドが300ベーシスポイント(bps)を下回っており、歴史的にみてさらなる縮小余地が乏しい水準にあるなど、割高なバリュエーションを理由としてスコアを引き下げ始めている。投資適格クレジットはバリュエーションが割高な水準にとどまっている。スプレッドがタイトな水準にあり、さらなる縮小余地はほぼない一方、ネガティブなニュースがあれば、それに反応して拡大しやすい状況にある。FRBによる金融緩和余地が目下の市場予想ほど大きいかは疑わしいが、世界的に債券のイールドカーブがスティープ化しており、ソブリン債の投資妙味はここ2年間ではみられなかったほど大幅に高まっている。新興国現地通貨建て債券については、キャリー水準の高さや世界的な景気改善、米ドル安が進行して新興国の追い風となる可能性を踏まえて、引き続き有望視している。
*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。
資産クラスの選好順位(2026年2月末時点)

注)上記のアセットクラスおよびセクターの選好順位とスコアは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。リサーチ・フレームワークは 3つの段階の分析に分かれています。スコアは、各資産に対する同チームの相対的見方(各資産が属する資産クラスの他の資産対比)を表しています。
各資産クラス内のスコアは、コモディティを除き、平均すると中立となります。これらは投資リサーチまたは投資推奨助言に該当するものではありません。 セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。
当社の見方
グロース資産
世界の経済成長は底堅さを維持すると予想しており、米国が牽引役となって企業収益が伸び続けるとみられることから、グロース資産は引き続き魅力的だと考える。ただし、世界的に株価が割高な水準にあることから、当面は慎重な見方を維持しており、バリュエーションがそれほど割高でない市場を選好している。3月上旬に発表された2月の米雇用統計は市場予想を下回る結果となり、FRBの利下げを後押しする要因となっているが、中東紛争が想定以上に長期化すればインフレ上振れリスクをもたらす可能性がある。中東での衝突が続き、原油価格が急騰しているなか、現在はそうした状況がいつまで続くのかが焦点となっている。
概して、企業の利益率は拡大傾向を維持しており、グロース資産への追い風となっている。次の決算発表シーズンは、足もとにおける企業の利益成長の軌道を改めて見極める機会となるだろう。米連邦最高裁判所は追加輸入関税を違法とする判決を下したが、トランプ政権にはまだ貿易関税に関して実行可能な他の選択肢もあることから、市場の反応は薄いように見受けられる。これまで市場に織り込まれていたFRBの追加利下げ期待が足元では後退しており、それが逆風要因となる可能性がある。グロース資産はバリュエーションが高水準に達していることから、リスク資産に対しては引き続きポジティブな見方をしているものの、当面は慎重な姿勢を維持している。
グロース資産に対する確信度の強い見解
- 米国株式のスコアを中立に引き上げ:テクノロジーやヘルスケアのイノベーション(革新)を原動力とする企業収益の長期的な成長性から、米国株式を引き続き選好している。また、今後数年間でAI関連の設備投資が大幅に拡大することを受けたデータセンターからのエネルギー需要の増加も追い風になるとみている。中央銀行の対応や輸入関税懸念の緩和など、市場にはポジティブ・サプライズの起こる可能性が残っている。足もとでは企業業績に上方修正の動きがみられており、株式の益回りの水準も過去平均へと向かいつつあることから、バリュエーションが再び魅力的な水準となっている。
- 英国株式を有望視:英国株式については、スコアを若干引き下げたがプラスに維持した。配当利回りが高く、相対的にベータ値が低い傾向にあるなど、ディフェンシブ特性を好感し、スコアをプラスに維持した。米国はテクノロジー・セクターの比重が大きいが、それに対して英国は金融、生活必需品、ヘルスケア、資本財・サービス、エネルギーなどのセクターが代表的で、分散効果をもたらす。
- 新興国株式のスコアをプラスに維持:魅力的なバリュエーション水準やドル安の見通しを受けて、新興国株式のスコアをプラスに維持した。米ドル安の展開となれば、新興国の中央銀行は自国通貨を防衛する必要性が低下することや、経済活動を押し上げるための利下げ余力がもたらされるとみられることから、新興国の追い風となる。新興国のなかでは、コモディティへのエクスポージャーをもたらすとともに、インフレ率の低下を受けて実質金利が高水準にある中南米諸国を有望視している。また、AI関連の設備投資展開という長期的な成長トレンドへのエクスポージャーとして、半導体の主要サプライヤーでありテクノロジー・セクターの占める割合が大きい台湾も選好している。
- コモディティ関連株のスコアをプラスに引き上げ:コモディティ関連株は長期的にインフレに対して優れた分散投資効果を提供し続けるとの考えに変わりはない。また、中東地域で現在進行している紛争の影響に対する防衛手段ともなっている。コモディティ関連セクターのファンダメンタルズは、景気循環的にも長期的にも依然有望である。
中東紛争の影響
2月下旬、米国とイランは核開発、弾道ミサイル計画、制裁緩和をめぐる交渉の期限を迎えるまでの最後の1週間に入り、緊張が高まっていた。しかし、最後の1週間の交渉でも明確な成果が得られなかったことを受け、イスラエルと米国は、最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメイニ師を含む指導部の大部分、そして主要な防空システムやミサイル発射装置を標的としてイランへの空爆を実施した。これに対し、イランはイスラエルや近隣アラブ諸国へのミサイル発射やドローン攻撃で反撃し、世界の原油およびLNG(液化天然ガス)輸送量の約20%が通過する重要海路であるホルムズ海峡を封鎖すると脅した。それを受けて原油とLNGの価格が急騰したことで、世界経済の成長が阻害される可能性や世界的にインフレが再燃する可能性が出てきた。
そこで、1970年代および1980年代のオイルショックを参考に、原油価格の上昇が世界経済に及ぼし得る影響について考察する。長期的なデータをみてみると、世界経済がインフレの影響によって減速に転じた事例では、世界のGDPに対する原油消費量の割合、いわゆるエネルギー集約度が必ず4%を超えている(チャート1参照)。足もとのエネルギー集約度は約2.3%で、同基準に照らすと多少の余裕があると言える。ざっと試算してみると、4%の水準に達するには、原油価格が1バレルあたり130~140米ドルに到達する必要があり(チャート2参照)、実際に世界経済に影響を及ぼすには、その水準に数四半期とどまる必要がある。原油価格高騰が数ヵ月間続いたとしても、ほとんどの国が短期的な供給不足に備えて数ヵ月分の備蓄を確保していることから、通常はそれほど大きな影響を及ぼさないだろう。
チャート1:世界のエネルギー集約度(GDPに対する原油消費量の割合)は長年にわたり低下傾向

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
期間:1969年12月31日~2026年2月28日
チャート2:原油相場が世界経済に打撃を及ぼすようになるのは高騰が長期化する場合

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
期間:1969年12月31日~2026年2月28日
実際、世界経済は原油価格高に耐えることができ、エネルギー集約度が前述の過去の基準値を上回っても許容できるとみられる。1970年代および1980年代にオイルショックが生じて以来、多数の国は中東産エネルギー依存を認識し、それに関連するリスクを軽減するための措置を講じてきた。公益事業会社の多くは、燃料油などの原油由来の燃料から、天然ガス、石炭、原子力、再生可能エネルギーといった代替エネルギー源への移行を進めた。現在では、原油価格上昇の影響が一部の経済分野に転嫁される可能性は依然あるものの、過去のように原油価格ショックを受けて景気減速に陥る状況が再来する可能性は低いと考えられる。
ホルムズ海峡が封鎖されるリスクがあるにもかかわらず、原油価格がそこまで上昇していない主な理由の1つは、現時点で同セクターが依然として供給過剰状態にあり、多くの市場関係者は紛争が短期間で収束するとみていることにあると考えられる。OPEC(石油輸出国機構)の余剰生産能力は日量400万バレルを大幅に上回り続けており(チャート3参照)、過去の例に照らすと、懸念材料視されるようになるのはそれが日量200万バレルに近づいた場合に限られる。紛争が数四半期以上続き、ホルムズ海峡が長期にわたり封鎖され続けるような事態にならない限り、価格上昇圧力は割と早いうちに緩和されるとみている。
チャート3:OPECの余剰生産能力は引き続き高水準

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
期間:1999年12月31日~2026年2月28日
ディフェンシブ資産
米国の雇用統計が悪化し、インフレもやや鈍化したことを受けて、FRBの利下げ観測が強まり、市場では債券に対して強気な姿勢が強まった。しかし、より最近では、イラン戦争に伴う原油価格上昇を受けてインフレリスクが強まっており、各国中央銀行がよりタカ派的な姿勢に転じているなか、それまでの動きが一部巻き戻されている。今月の当レポートでは、ブレークイーブン・インフレ率、そして2022年に起こった前回の原油価格ショック以来続いている債券と株式の正の相関関係について考察する。
ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解
- 投資適格クレジットに対しては慎重な姿勢:2026年に入っても信用スプレッドは縮小傾向が続き、2000年代半ば以来の低水準に達している。当面はスプレッドの拡大を招き得る要因が出てくるとはみていないものの、スプレッドには平均回帰性があるという事実を踏まえ、クレジット物のスコアをマイナスに維持していく方針である。スプレッド・デュレーションを抑えるために、1~5年の短期物を引き続き選好している。
- 短期債を選好:インフレ率が目標をやや上回る推移を続け、世界的に景気が好調さを増しているなか、デュレーションを低水準に維持するために短期債を保有することを選好している。足もとではイラン戦争を受けて原油価格が急騰し、インフレリスクの高まりにつながっており、ポートフォリオ内の分散効果を高める手段として長期債を用いることのリスクが高まっている。
- 物価連動債:主要中央銀行が金融緩和を進めるなか、経済成長が加速しつつあり、コモディティ価格も上昇傾向にあるなど、足元ではインフレ圧力が再燃し始めつつある兆しがある。インフレとの戦いは道半ばとの見方が強まるなか、米国物価連動債(TIPS)は有効な防衛手段になっているとみている。
ブレークイーブン・インフレ率、そして債券と株式の正相関
2月にイラン戦争が勃発したことを受けて、3月に入ってから原油価格が大幅に上昇し、再びインフレリスクが高まっている。原油先物価格は、2月時点の1バレルあたり65米ドル程度から、3月の本稿執筆時点で95米ドル超へと高騰しているが、これは2022年にロシア・ウクライナ戦争が始まった際に及ぼした影響と相通じるものがある。中央銀行の観点からみると、原油価格の上昇はインフレ率を押し上げる傾向にある一方で、供給ショックは世界景気にとって好ましいものではなく、金融政策運営において特異な状況がもたらされている。こうしたなか、ブレークイーブン・インフレ率は上昇傾向を辿っており、5年物が2.68%に、1年物が5%近くに達するという極端な動きを示している。イラン戦争は短期間で終結するとみているが、予想以上に長期化した場合、再び世界的な利上げサイクルを迫られる可能性がある。市場のインフレ期待と原油価格の推移を比較した下チャートをみると、2022年には原油価格の動向を受けてインフレの急加速に拍車がかかったことは明らかだ。興味深い点として、今回のショックは米国のインフレ率がすでに目標を上回っていたタイミングで発生しており、FRBに利下げサイクルの一時停止を検討する理由を複数もたらすとみられる。
チャート4:米国のブレークイーブン・インフレ率と原油価格の推移

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
期間:2015年1月2日~2026年3月20日
ポートフォリオの観点からは、2025年後半以降、インフレの第2波に備えるヘッジとして物価連動債を選好してきた。リスクオフ局面となる場合、それが2022年と同様に市場における金融政策引き締め期待の高まりを受けて引き起こされる可能性が高いことから、長期債がもたらす防衛効果は限定的とみられる。中東でイランを巻き込んだ戦争(必然的に原油価格上昇を招くことになる事態)が生じるとは予想していなかったが、下チャートが示すように、インフレが最初の急加速を示した2021年以降、債券と株式は正相関の関係を示してきている。主要中央銀行はインフレを制御可能との見解を示し続けているが、FRBの場合、インフレ率が2%を上回ってからちょうど5年が過ぎたところであり、最後に2%を下回ったのは2021年2月のことだ。
チャート5:2021年以降、債券と株式の正相関が続く

出所:信頼できると判断した情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成
期間:2010年1月1日~2026年3月20日
そこで問題となるのが、戦争がいつまで続くのかという点だが、その時期を見抜く特別な知見を持ち合わせているわけではない。衝突が長引けばインフレ圧力が強まり、重大なリスクとなるだろう。一方、資産クラス間の相関性は注視しており、長期ソブリン債がポートフォリオのリスクを軽減するのではなく、むしろ増幅させているという証拠を引き続き確認している。こうした状況を踏まえ、足もとのリスクオフ環境においてポートフォリオのボラティリティ低減を期待できる短期債、物価連動債、キャッシュを選好している。
プロセス
リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:
