本稿は2026年4月22日発行の英語レポート「Japan amplification risk: yen weakness and terms-of-trade shock」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

当社は3月のレポートで、イラン紛争ショックに伴うリスクが市場の想定よりも根深いものになる可能性があると論じた。以来、市場はニュースの見出しに翻弄され、緊張緩和の兆候と紛争再燃への懸念とのあいだで揺れ動いている。同月のレポートでは、そうした外的ショックによって米FRB(連邦準備制度理事会)と日銀の金融政策運営が複雑化するとも指摘した。最近の状況展開を考えると、日銀の政策運営は一層複雑さを増しているようだ。

OIS(翌日物金利スワップ)市場は日銀が4月の金融政策決定会合で利上げを行う可能性をほぼ織り込んでいないが、当社では、日銀にはインフレ予想を引き上げるとともに金融緩和のさらなる解除が差し迫っていることを明確に示すべき理由があると考える。そうしなければ、現在の原油ショックが日本にとっては交易条件ショックへと深刻化したように見受けられるなかで、日銀は市場で「対応が後手に回っている」と見なされかねない。円相場はすでに大きく下落しており日本国債の10年物利回りも着実に上昇傾向を辿っていることからすると、市場参加者は日銀に対してより明確な政策ガイダンスを催促している可能性がある。こうした背景に照らすと、4月の会合は日銀にとって政策の不透明感を減らす好機と言える。

外的ショックから国内波及の段階へ

3月のレポートでは、現在の世界的なショックに対する日本の脆弱性を連鎖的な波及プロセスとして説明したが、このプロセスの各段階は単に原油価格動向によって左右されるわけではなく、直前の段階がどうなるかによって変わる。当社では今回のリスクを交易条件および投入コスト負担のショックと位置付け、原油価格は(市場横断的な波及的影響とともに)相互に依存する複数の要因の1つに過ぎないと捉えているが、以下に示す枠組みに基づき、日本は初期の交易条件ショック段階を過ぎてマクロ経済における増幅段階、具体的にはインフレ経路(下図の第3段階)に入ったと判断している。


図1:連鎖する日本の脆弱性

図1

出所:アモーヴァ・アセットマネジメント(レポート「イラン紛争ショック:リスクは市場が想定している以上に根深い可能性」)

現在の状況:マクロ経済における波及経路

エネルギー・物流への根強いストレス:原油価格は3月の急騰分を一部吐き出し、ブレント・WTIともに直近の高値から反落している。しかし、ホルムズ海峡の船舶通行は引き続き中断しており、再開の期待も裏切られるなど、輸送ルートは依然逼迫した状態にある。ブルームバーグによると、Platts Japan-Korea Marker で見たLNG(液化天然ガス)価格は年初の水準をまだ35%上回っている。海運コストも世界的に上昇しており、やはりブルームバーグによると、乾貨物(ドライカーゴ)の運賃を示すバルチック海運指数(BDI)は1月下旬から4月17日までで56%と高騰している。

輸入物価の上昇加速:日本の3月の輸入物価指数は前年同月比で7.9%上昇し、そのペースが前月までの水準から加速した。これに伴い、日本のコモディティ交易条件を示す指標も悪化している(チャート1参照)。コモディティ交易条件の悪化は、他の条件が同じと仮定した場合、その悪化分を相殺できるほど輸出からの収入が増加しなければ、日本にとって対外収入が減少することを示唆している。同時に、エネルギー輸入への支払い負担も増大している。日本のエネルギー輸入業者は最近、利益ガイダンスを下方修正しており、その理由として、LNG調達コストの上昇や、ペルシャ湾以外のサプライヤーからのスポット輸送(定期契約ではなく必要に応じ単発で依頼する輸送)を確保するのに伴う費用の増加を挙げている。


チャート1:ドル円レートとコモディティ交易条件の指標

チャート1

出所:Macrobondの情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成


賃金の上昇ペースは堅調ながらも依然圧迫されている家計の実質所得:春闘の結果は大幅な賃上げを示しており、家計消費も2025年第4四半期時点で底堅さを見せているものの、最大の課題は引き続き、賃金の上昇がインフレ圧力を上回れるかどうかだ。政府は2022年の制度開始以来最大規模となる燃料油補助金の支給を発表したが、こうした財政措置は本来一時的なもので、その目的はインフレ期待の抑制ではなく当面の物価上昇圧力の緩和にある。

企業の利益率・ファンダメンタルズへの影響が顕在化:TOPIXは過去3ヶ月間で約4.5%上昇しているものの、株価上昇銘柄の範囲は狭まってきている。一方、東京商工リサーチのアンケート調査によると、調査対象の日本企業の6割超が原油コスト高への対処として値上げを予定しており、その大半は、原油価格が100米ドルを超える水準にとどまった場合、コストが前年比で20%超上昇すると予想している。日本の化学品メーカーは、ナフサの供給が不足していることから、エチレン生産設備の稼働を維持しにくくなってきている。4月のロイター短観指数は7.0へと11ポイント低下したが、これは月次としては3年超ぶりの低下幅で、日本が前回交易条件ショックに見舞われた2023年1月以来の大幅な落ち込みとなった。

円への増幅的影響:まさに高ボラティリティ

イラン紛争の前から続いている円安は、日銀の直近の政策声明でも言及されているように、インフレの増幅要因として作用し日本の交易条件ショックを悪化させている。円は対ドルで引き続き歴史的な安値圏にあり、貿易加重ベースでも数十年ぶりの安値を記録している(チャート2参照)。財務省が介入も辞さないと牽制していることから、為替市場への介入リスクが高まっていると報じられているが、過去の事例を見ると、政府による介入が果たしてきた役割は為替相場の基調反転というよりも短期的なボラティリティの抑制だと言える。


チャート2:円は貿易加重ベースで数十年ぶりの安値

チャート1

出所:Macrobondの情報をもとにアモーヴァ・アセットマネジメントが作成

インフレの二次的な転嫁:依然抑えられているもののいつまでもつかは疑問

企業のコスト圧力や価格転嫁の意向が報じられているように、インフレ期待は高まり始めたばかりだ。このことは、さらなる政策措置を講じるにあたりタイミング面である程度の柔軟性を日銀にもたらしているかもしれないが、政策の信頼性を維持するという観点からはその余地は限られていると言える。日銀は、4月の会合で市場の予想通り政策金利を据え置くとしても、今年度の展望レポートにおいてインフレ予想(直近では1.9%)を大幅に引き上げるのが妥当だろう。